「祝島は海を売っちょらん!」中国電力、上関原発予定地埋め立て工事だまし討ち着工

『原子力資料情報室通信』第425号(2009/11/1)より


「祝島は海を売っちょらん!」
―中国電力、上関原発予定地埋め立て工事だまし討ち着工―

澤井正子

図1
埋め立て工事着工

 09年9月10日周防灘に面した山口県平生町の田名埠頭では、祝島の漁船30隻がお互いをロープで舫い、阻止線を張った。岸壁には灯浮標(ブイ)が9基置かれている(図1)。中国電力はこれらのブイを、上関原発予定地埋め立て工事の最初の作業として、埋め立て海域(田ノ浦沖)に移送しようとしている。埠頭の道路側では陸上からの輸送を阻止しようと、「上関原発を建てさせない祝島島民の会(以下島民の会)」のメンバーらが座込んでいる。以降、中電が雇った移送台船は漁船のピケラインに阻まれ、埠頭に近づくこともできずに引き上げる日が続いた。
 田名埠頭前に碇を下ろした漁船には島民の会の女性たちが乗り込み、中国電力の一方的説得に応戦した。しかし若い中電社員の、「このまま農業とか第1次産業だけで祝島が良くなると本当にお考えですか。人口は年々減っていてお年寄りばかりの町になっていることは皆さんが一番おわかりと思う」という発言に、島民の怒りは爆発した。「海を売った覚えはない!」、「私たちの27年間の苦しみがあなたらにわかりますか」。島の人々は、いまのまま、豊かな自然とともに静かな生活を続けたいだけなのだ。
 田名埠頭には、日を追うごとにシーカヤックを持った青年たちや乳母車を引いたお母さんたちが、島民の闘いを支援しようと集った。全国各地から色とりどりのバナー、檄布も寄せられ、日本中から熱い支援が続いている。一方、工事を強行しようとする中国電力には、全国から抗議の声が集中した。追い込まれた中国電力は、なんと島根3号機の埋め立て工事に使用したものなど“中古品”のブイを、10月7日早朝に2基、10月29日未明に7基、田ノ浦沖にこっそり運び設置した。地元祝島の「原発絶対反対」の意志を一切無視して進められてきた「上関原発計画」を象徴するような、「だまし討ち着工」となった。

上関原発計画

 中国電力は現在、日本海に面した島根県松江市鹿島町の島根原子力発電所で3号機を増設中だ。さらに山口県熊毛(クマゲ)郡上関町田ノ浦に上関原子力発電所の建設を計画している。上関町は山口県の東南部に位置し、瀬戸内海に面する室津半島の先端部の室津、長島、祝島、八島などからなる人口約3600人の町だ(09年9月1日現在)。長島は上関大橋によって本土側の室津と結ばれているが、祝島、八島は離島である。建設予定地の田ノ浦は長島の南西の先端に位置している。海を隔てて南東約40キロメートルの地点には、四国電力の伊方原発が稼働中である(図2)。
図2
 上関原発計画では、沸騰水型改良型(ABWR/137万kW)2基の建設が予定されている。発電所敷地面積は約33万平方メートルだが約4割の14万平方メートルは田ノ浦地先の公有水面を埋め立てて造成する計画だ。取水口は敷地北側の海岸、放水口は南側の海岸に設置されそれぞれトンネルでタービン建屋と結ばれるため、海側に原子炉建屋が配置され、2号機の原子炉建屋は埋め立て地の上に設置される(図3)。敷地造成工事全体は約5年、海面埋め立て工事には約3年が予定され、1号機の運転開始は2015年、2号機の運転開始は2020年とされている。

図3

原発絶対反対

 上関原発予定地田ノ浦の前面約3.5キロの沖合に祝島がある。祝島の唯一の集落はまさに田ノ浦に面していて、島の人々は目の前の海で一本釣り漁を営み、畑を耕しびわを栽培して生活してきた(図4)。計画が浮上した当初(1982年)から島の圧倒的多数が「原発絶対反対」であり、祝島漁協(当時)は1984年には原発反対の決議を行なっている。今日でも約500名の島民の9割が原発計画に反対しており、「海は売らない」と27年間も運動を続けてきた。祝島名物の一つ、毎週行なわれる「月曜デモ」はすでに約1050回を数えている。上関町内全体では、町長選で原発計画推進派が当選を続けているが、中国電力社員の不正転入、買収事件などの選挙違反も後を絶たない。2000年12月の「朝日新聞」の世論調査では、原発反対が46%で賛成の33%を上回っている。小さな町で町民の本音が町政に反映しにくい構造もあり、原発反対と推進が厳しく対立したまま今日に至っている。
図4

生物多様性の宝庫「長島」

 原発建設予定地田ノ浦のある長島、祝島周辺の周防灘東部一帯は、過疎地域の島嶼部という条件から開発を免れ、奇跡的に50年前の瀬戸内の元風景を残し、「日本のガラパゴス」と呼ばれている。「長島の自然を守る会」は「島民の会」と二人三脚で、この豊かな自然を保護するため識者と調査・研究活動を行っている。日本生態学会、日本鳥学会、日本ベントス学会なども再三原発計画の再考や中止を求める決議等を行なっている。それを証明するかのように、世界でも日本にしか生息しない天然記念物・絶滅危惧?類(環境省)であるカンムリウミスズメ(図5)やカラスバト、希少種のスナメリなどの生息や繁殖が「長島の自然を守る会」の活動によって次々と確認されている。他にも世界で確認例が4例しかないヤシマイシン近似種の貝類、ナメクジウオ(水産庁危急種)、内海での群生がはじめて確認されたスギモクなど、予定地周辺は天然記念物、絶滅危惧種、希少種の宝庫で、マダイなどの好漁場でもある。誰もが「なぜここなのか?」と思う、日本の宝のような地点なのだ。
図5

 上関原発計画の大きな問題は、再三の再調査にもかかわらず中国電力の「環境影響評価」の内容が極めて不十分なまま国が認めたことだ。日本生態学会は、「それぞれの種に対する調査・解析が不十分」であり、「その種の生育や繁殖環境、一連の食物連鎖を把握しておらず」、「生態系評価に値する評価は全くなされていない」と断じている。田ノ浦の埋め立てや原発建設は、このように貴重な「生物多様性の宝庫」の破壊を意味する。

中電が島民を訴える

 田名埠頭での膠着状態が続いていた10月9日、中国電力は「島民の会」とその会員、シーカヤック関係者ら39名に対し、埋め立て工事の「妨害禁止仮処分命令」の申し立てを山口地裁岩国支部に起こした。中国電力は、田ノ浦の「埋め立て権」に基づく「妨害予防請求権」があると主張し、今後田ノ浦での漁船やシーカヤックなどの係留を禁止するよう求めている。裁判所という権力を使って住民の反対運動、抗議活動を封殺しようとする悪質な嫌がらせ訴訟である。埋め立て工事強行以外はない、と言わんばかりの中国電力の対応では、今後不測の事態を招く可能性も否定できない。


■上関原発建設反対の署名運動にご協力下さい。
 「上関原発を建てさせない_祝島島民の会」
 http://shimabito.net/
田名埠頭での活動など、署名用紙、全国署名用リーフレットなどもダウンロードできます。

カンパ、ご支援のお願い。
* 郵貯銀行
 加入者:祝島島民の会(イワイシマトウミンノカイ)
 店名:一三九(イチサンキュウ)
 当座:0067782
*郵便振替
 加入者名:上関原発を建てさせない祝島島民の会
 口座番号:01390-4-67782
 (領収書:必要の旨を通信欄にご記入ください)

■「長島の自然を守る会」(長島の貴重な自然について情報満載です)
 http://www2.ocn.ne.jp/~haguman/nagasima.htm
 カンパ送り先:郵便振替 01340?3-3303 高島美登里


上関原発問題関連年表

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