原子力2法案の提出に反対の声を
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原子力2法案の提出に反対の声を
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西尾漠
新年の国会に原子力に関わる二つの法案が提出されようとしている。一つは原子炉等規制法の「改正」案で、原子力安全・保安院によれば次のような内容とされている。
イ.核物質防護規制の強化
ロ.クリアランス制度の導入
ハ.原子力施設の廃止・解体の規制合理化
ニ.事故・故障の報告義務の規定
ホ.放射性廃棄物の海洋投棄の禁止
ヘ.罰金額の引き上げ等
もう一つは、未だどのような形の法案になるのか不明だが、いわゆるバックエンドコスト(後始末費用)の回収にかかわるものである。両法案とも、成立を許せば原子力が抱えるさまざまな危険性をいっそう大きくすることになる。とりわけ六ヶ所再処理工場の運転入りの条件整備ともなる法案である。
■これ以上の核管理社会化はごめんだ
原子炉等規制法の「改正」案のうち、核物質防護規制の強化とは、どういうことか。原子力安全・保安院の法案説明資料は言う。
1.国が具体的に想定される脅威(「設計基礎脅威」)を設定。事業者に「設計基礎脅威」に対応した防護措置を義務づける。
2.事業者の防護措置の実効性を監視するための検査制度を導入。国の核物質防護検査官が定期の「核物質防護検査」を行なう。
3.核物質防護に関する情報管理を徹底するため、防護措置の業務を行なう従事者に対し、機微情報の守秘義務(罰則付き)を課す。
法案のもととなっているのは、総合資源エネルギー調査会の原子力安全・保安部会原子力防災小委員会が11月にまとめた報告書案『原子力施設における核物質防護対策の強化について』である。さらにさかのぼればIAEA(国際原子力機関)が1999年に公刊した『核物質防護ガイドライン改定4版』に行き着く。このガイドラインの防護要件を満たすことを目的に上記小委員会が報告書案をまとめ、法案が準備されている。
設計基礎脅威の「具体的内容のイメージ」を、報告書から引用する。
「①仮想敵(テロリスト、不満を持つ従業員等)、②人数、③戦術(偽りの証明証を用いて警備システムを突破する偽計等)、④不法行為(警備システムを突破する公然とした実力行使等)、⑤隠密(検知システムを破って密かに施設に侵入等)、⑥能力(防護システム等に関する知識、襲撃のスピード、武器・爆薬・道具等の所持等)等」
こうしたイメージを、規制当局が「治安当局と協議し、策定」した上で事業者に提示し、事業者は、それに十分対応できるような防護措置を、施設ごとに「核物質防護規定」として取りまとめる。同規定は国の認可を受け、新設される核物質防護検査官が「適切な核物質防護レベルを維持していることを評価し、必要に応じ改善等の措置を命ずる」こととなる。
対象施設は、核兵器の製造やダーティボムなどによる核物質の散布につながる可能性のある「核物質の不正移転」を防ぐ観点から再処理施設やMOX加工工場等、放射性物質による被曝につながる可能性のある「原子力施設への妨害破壊行為」を防ぐ観点から商用原発、もんじゅ、再処理施設等が挙げられる。 機微情報の守秘義務には、「輸送の日程及び経路」といったものが含まれる。現在以上にこれらの情報が秘密化されれば輸送事故への対策はまったく取れず、沿線住民はいっそうの危険にさらされよう。
2004年11月1日付電気新聞には「守秘義務違反者への罰則は『国家公務員法と同等以上』(伊藤敏・保安院原子力防災課長)の厳しいものとする方針で、懲役刑も想定される」と書かれていた。国家公務員法の守秘義務違反者への罰則は「一年以下の懲役又は三万円以下の罰金」だが、原子力事業者、設計業者、施工業者、維持管理業者、警備会社といった民間企業の従業員に、国家公務員と同等以上の義務をかすことになる。
また、従業員は「仮想敵」としても監視されるのである。報告書案は「外部からの攻撃への対策のみならず、従業員による内通または自らによる破壊工作等の内部脅威に対する対策が課題」と述べている。「民間の企業活動への国の介入や個人のプライバシーの侵害等を招かないよう、慎重に検討を進めることが必要」とすることわり書きは、いかにも言いわけがましい。
■放射能のスソ切りは許されない
クリアランス制度の導入については、すでに『原子力資料情報室通信』でもたびたび危険性を指摘してきた。最近では第357号を参照されたい。
その後、2004年10月に原子力安全委員会の放射性廃棄物・廃止措置専門部会が報告書『原子力施設及び核燃料使用施設の解体等に伴って発生するもののうち放射性物質として取り扱う必要のないものの放射能濃度について』をまとめ、新たなクリアランス基準値を示している。IAEAが同年に出版した『安全指針RS-G-1.7』の評価と比較検討し、1~2歳児を評価対象者とした評価などを行なった結果、おおむね厳しく再評価されているが、もちろんクリアランスの本質は変わらない。
原子力施設の廃止・解体の際の規制の合理化については、上記専門部会の廃止措置分科会が2004年12月、報告書案『原子力施設の運転終了以降に係る安全規制制度のあり方について』をまとめている。「運転・供用中と比較して潜在的危険性の程度が減少」し、「運転・供用の終了、解体期間中、放射性廃棄物の取扱、管理といった各段階で安全要求事項が変化していく」として、「段階的な安全規制制度」としようとするものである。
■再処理費用の負担増はおことわり
バックエンドコストの回収とは、再処理工場の廃止措置費用などを消費者に負担させ、電力会社に対しては税制上の優遇をしようとする制度のこと。この廃止措置費用の額も、クリアランスと廃止措置の合理化次第で大きく変わる。核物質防護の規制強化も再処理施設を最大の対象にしている。つまり、2法案を止めれば、六ヶ所再処理工場の操業にもブレーキがかかるのだ。
とはいえ、法案が提出されれば、残念ながら現在の国会では成立が確実視される。そうならないようにするには世論の喚起しかない。残された時間はわずかだが、法案の成立を食い止めるために全力をつくしたい。
放射能野放しも
再処理費用負担も
核管理社会もごめんだ
原子力2法案反対全国集会(仮称)
2005年2月6日(日)午後
於東京・水道橋「全水道会館」
連絡先
原子力資料情報室
cnic.jp
放射性廃棄物スソ切り問題連絡会
www2.gol.com/users/amsmith/susokiri.html