高レベル廃棄物処分場誘致の動き-各地での立地工作に警戒必要(『通信』より)
高レベル廃棄物処分場誘致の動き-各地での立地工作に警戒必要
『原子力資料情報室通信』388号(2006.10.1)掲載
末田一秀(核のごみキャンペーン関西)
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高レベル廃棄物の最終処分場については、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(以下「高レベル処分法」)により①文献調査 ②概要調査 ③精密調査の3段階で選ぶことになっています。処分の実施主体「原子力発電環境整備機構」(以下「NUMO」)は、文献調査を行なう地区を法律にない手続きである公募方式で選定することにし、2002年12月から公募を行なっていますが、これまで正式に手をあげた自治体はありません。しかし、いくつかの地点で誘致の動きが表面化したほか、「水面下で手を挙げているというか、検討している自治体が10近くある」(自民党松島みどり経済産業部会長発言―東奥日報5月16日記事)状態です。
NUMOは、第2段階の概要調査地区を「平成10年代後半」をめどに選定するとしています。このため、先日正式決定された「原子力立国計画」にも「最終処分計画に定めたスケジュールを維持するためには、今後1、2年間が正念場との意識を持ち、国、NUMO及び電気事業者等、関係者が一体となって最大限の努力を行うべきである」と書かれるなど、圧力が強まっています。
原子力立国計画で国の支援策の拡充として打ち出されたのが、広報活動の強化と交付金の増額です。これまでも公募に手を挙げた市町村には年2.1億円の電源立地地域対策交付金が用意されていましたが、来年度から年10億円(総額20億円)に大幅増額するための予算要求を行なっています。また、発電用施設周辺地域整備法施行令「改正」のためのパブコメ(意見公募)が終了し、近日中に都道府県向けの原子力発電施設等立地地域特別交付金の対象に最終処分場が追加されます。こちらの金額は1つの地域振興計画につき25億円(年間12.5億円)。後述の通り知事の同意がこれまで焦点になってきたことから都道府県向けの金が用意されたことに注目すべきでしょう。
■各地で応募の動き
推進派の攻勢の影響でしょうか、3頁の地図に示すとおり、この夏以降各地で応募を検討する動きが顕在化してきました。高知県津野町では誘致推進陳情と対抗した反対陳情がともに継続審議になっているなど、まだまだ油断をできないところもあります。
これまで顕在化した誘致検討地域の経過からいくつかの教訓が引き出せます。
① 議会など公の場で誘致の検討が表明されても、マスコミ報道されて周知の事実になるまで数ヵ月要する場合があります。滋賀県余呉(よご)町の場合、2ヵ月余も問題になりませんでした。動きが明らかになるまでの間に取り返しのつかないことにならないような陣形をどう作るかが、課題です。
② 市町村長や議会が秘密裏に検討を行なっていた場合、その手法への反発もあり、公になってから撤回されるまで短期間の場合が多いのが特徴です。鹿児島県旧笠沙(かささ)町では3日後、同県宇検(うけん)村では6日後でした。
③ ②を教訓に推進派は草の根の誘致を目指しています。長崎県新上五島町では町議会議員や建設業関係者らがつくるNPO法人が誘致活動を行なっています。NUMOは、交通費、宿泊費全額負担で六ヶ所村視察旅行に連れ出すなど全面支援に回ります。
④ 「草の根の誘致」の形を装う場合、署名を添えた議会への陳情、請願という手法が利用されます。今回の高知県津野町や同県旧佐賀町のように、審議に付され、誘致活動が公になった際の反発でもすぐには撤回されません。
⑤ これまでは知事見解の表明が、誘致の動きにストップをかけ、公式応募をさせない決定力になっていました。高レベル処分法の手続きでは文献調査後の段階で知事の意見聴取手続きがあることから、知事の意向を無視できません。日頃からの都道府県への働きかけが重要です。ただし、今回、余呉町長は知事が反対しても応募するとしています。
⑥ 誘致に動いた市町村の周辺市町村長、議会の反対表明も大きな力になってきました。
■誘致の動きと市町村合併
公募に手をあげるのは市町村長とされていることから、この間進められてきた市町村合併がこの問題に及ぼした影響は大きなものがあります。1999年3月末に3232あった市町村数は、本年10月で1817にまで減っています。公募に応じるところがなかった理由の一つに市町村の将来のあり方が変わる時期であったことがあげられます。また、逆に誘致に動いたところは市町村合併しない選択肢の検討や、あるいは合併できない中で自立の道を探り、処分場交付金に目がくらんだという面があります。なにしろ過疎地の市町村は、小泉政権が進めた三位一体改革で地方交付税等を削減され、財政的に厳しいところばかりです。高知県旧佐賀町や鹿児島県旧笠沙町など誘致が断念された後に合併した市町村では、今のところ問題の再燃は起きていません。
ところが、高知県津野町の場合は、昨年2月に葉山村と東津野村が合併してできて間もない町であったことが特徴です。津野町の反対運動にエールを送る坂本誠さんは自身のブログ「まぐろのあたま」で次の趣旨の指摘をしています。「市町村合併は、財政運営が有利になると言われているが、歳出拡大のインセンティブを増大させ、同時に歳出削減のインセンティブを削ぐ側面を持ち合わせている。財政危機に陥った合併市町村が、『迷惑施設』の誘致に走ることになると危惧する理由が、〈合併に伴うパワーバランスの変化〉である。第1に指摘されるのは、〈市町村規模の拡大による、地区ごとの発言力の低下〉。第2に指摘されるのは、〈旧市町村意識の残存による、住民の無関心〉である」(詳しくは www.makoto.ne.jp/weblog/2006/09/post_38.html )。特に「合併後、新市町村の一体感が醸成されるまでには、かなりの長期間が必要である。そのような段階で、ある地区に『迷惑施設』の誘致を図った場合、その地区の属する旧市町村では切実な問題であっても、該当地区から離れた他の旧市町村の住民にとっては、他人事に近い。このようにして生まれた無関心派―すなわち『消極的賛成派』を形成することになる」という指摘は、肝に銘じておく必要があると思います。
■来年通常国会での高レベル処分法「改正」
来年の通常国会には高レベル処分法の「改正」案が提出される予定になっています。
「改正」の第1点は、海外からの返還廃棄物に関連する制度的措置です。海外再処理で発生した低レベル廃棄物を「放射線影響が等価な」高レベルで返還し、もともとの高レベルと一緒に最終処分できるようにするものです。第2点は、TRU廃棄物の地層処分の制度化です。TRU廃棄物とは、半減期が長い超ウラン元素を含む廃棄物で、再処理工場で発生する使用済み燃料被覆管や濃縮廃液などがこれに該当します。TRU廃棄物のうち地層処分が必要なものについて、高レベル廃棄物と併置処分する制度の整備が提案されます。TRU廃棄物の中には、水溶性で長寿命の放射性ヨウ素129が含まれていて、高レベル廃棄物よりも地下水によって地上に運ばれる危険性が高いと指摘されています。
国会で法案が審議される際には、法案や高レベル処分のそもそもの問題点を指摘して議論をしかけていく必要がありますが、処分場立地問題が議論になり結果として立地攻勢がより強化されることも予想されます。
また、岐阜と北海道に深地層研究所等の処分場研究施設を持つ日本原子力研究開発機構(原子力機構)の動向にも注意が必要です。これまで処分主体はNUMO、研究は核燃機構と役割分担されてきましたが、原研と統合してできた原子力機構は、自らが処分事業を行なうことができるようになりました。また、東海再処理工場の廃棄物などを含むRI・研究所等廃棄物の処分事業を(財)原子力研究バックエンド推進センターに替わって行なうことが決まっています。深地層研究所等が処分場に転用される可能性とともに、原子力機構による各地での立地工作にも警戒が必要です。