原子力長計策定会議意見書(第13回)

長計策定会議意見書(13)
2004年12月10日
原子力資料情報室
伴英幸

1.安全性と経済性の相克

 東電の損傷隠し事件が発覚した後の調査報告書では、計画期日内に検査を終えたい思いが隠す動機として挙げられていました。日本原燃の不正溶接では工期内に作業を終えたいとする動機が不正を招いています。関電の美浜事故では定期検査期間を短縮するために運転中から準備が始められていました。これらのことは経済性に直結することです。事故やトラブル、不正などは、安全性と経済性の相克の中で、経済性が勝る時におきていると考えられます。
ことあるごとに、安全が何よりも優先すると強調されていますが、それは一時的な対応あるいは建前に終わっているのではないでしょうか。例えば、福島I-5で余寿命0.8年との評価にもかかわらず運転を継続したのは、安全軽視の現われだと考えます。
 関電は美浜3号炉事故後に今後は、運転中に作業員を建て屋内に入れて定検の準備をしないと明言しましたが、一時的な対応に終わらないようにしてほしい。また、減肉の発生が明確に予測できないのですから、オリフィス下流部とかエルボ部のみならず配管のすべてをくまなく検査しておくことが必要だと考えます。

2.不正は必ず見抜けるのか?

 日本原燃および国は、行なわれた不正溶接を見抜くことができなかった。本社-元請会社-下請会社-孫請会社という重層構造にも一因があるように思います。「協力企業」との意思疎通においては、孫請など含めてすべての「企業」との意思疎通が保証されないと再発防止にならないのではないか。下請・孫請などは「絶対服従」と言われる状況の中で、現場の声を引き出し反映するシステムへの取り組みが果たして十分か、疑問が残ります。
 安全確保の取り組み、品質管理の徹底でさまざまな取り組みが行なわれていますが、不正や事故・トラブルの繰り返しは、それらへの対応が机上でのものあるいは建前に終わっているからではないでしょうか。

3.情報公開の徹底

情報公開の徹底はいまさら言うまでもないことです。しかし、六ヶ所再処理工場に関しては、事故が起きたとしても、核物質防護の観点から「設備の詳細な配置図などは公表できない」(電気新聞04年10月21日付)など著しく制限されるのではないか。安全に関係する情報は積極的に公開していくというこれまでの姿勢が崩れることになれば、安全の判断が事業者任せになってしまい、結果として、安全が十分には確保できない事態になると考えます。また、事業者任せは隠蔽の温床にもなりかねません。情報公開優先であるべきです。

4.六ヶ所再処理工場のガラス固化処理施設について

日本原燃はウラン試験に入ろうとしていますが、同社再処理工場のガラス固化施設は現在も化学試験中です。進捗率は04年10月末時点で59%、不具合等発生件数は258件と他のすべての発生件数373件に比べて異常に多い状態です。さらに、同施設が未だ実用レベルに達しておらず技術的課題が多いとの指摘があります(参考)。ウラン試験に入る前に技術的課題の克服と、ガラス固化処理施設の健全性確認が行なわれるべきだと考えますが、日本原燃には同施設の現時点までの化学試験結果の詳細の公表と、今後の取り組みへ見解を示してください。

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(参考)2004.11.30.
トイレ無き六ヶ所再処理工場
―高レベル放射性廃液ガラス固化施設の問題点について―

放射性廃棄物搬入阻止実行委員会 平野 良一

 今、国や事業者等は、04年12月の年内にもウラン試験入りを実施して、06年7月の再処理工場の本格操業を実現したいと躍起になっている。しかし、再処理の最終工程ともいえる高レベル放射性廃液のガラス固化施設(K施設)が、実証されていない中途半端な技術移転を受けたままの状態で、しかも化学試験の結果報告も不十分なままで、ウラン試験実施によって再処理工場全体を放射化させる事態に進むことを、許してはならない。
 ただ単に、HLW(高レベル放射性廃棄物)の最終処分場が未確定というだけでなしに、最終処分に至る前の管理段階に耐え得るガラス固化処理が不確実な技術だという事実を、何よりも明確に国民の前に明らかにする必要があるだろう。
 今04年7月13日、核燃料サイクル開発機構(JNC)が「ガラス固化技術開発施設における 高レベル放射性廃液のガラス固化処理技術開発」と題する研究開発課題評価委員会の「平成15年度研究開発課題評価(中間評価)報告書」(以下、中間評価報告書という)を公表した。関連分野の専門家を中心とした評価委員たちによって、JNC自らの高レベル放射性廃液固化処理技術に加え、日本原燃(JNFL)での実用化を強く意識したものだといい、JNCでは高く評価している報告書である。しかし、JNFL施設立地点住民の立場から見れば、疑問や懸念を増幅させる内容を数多く含んでいる報告書でもある。この中間報告書を中心に、入手可能な限りの公表資料から六ヶ所再処理工場の高レベル放射性廃液ガラス固化施設の問題点を検討してみた。
 まだまだ不十分な内容であるが、無駄なウラン試験入りを阻止するためにも、多くの仲間たちに論議の材料として供し、反核燃サイクル運動の強化・活性化に資したいと公表することとした次第である。率直な批判を賜れば有り難い。
《はじめに》
(1) ガラス固化施設の健全性確認をウラン試験移行の必須条件にすべき
 先の中間評価報告書には、『JNFLが平成18年度からの商用運転を目指してK施設を建設している現時点において、その施設において用いられる中核的な技術の開発をJNCが平成20年度まで行うという研究開発計画が妥当であるかどうかについては疑問の余地があろう。計画されている研究課題の一部はJNFLが行うべきものとの考え方もあり得るであろう。また、本研究開発課題について、これまでに一度も“課題評価”がなされてこなかったことの妥当性については検討が必要であると考える。』とあり、『研究の成果が少なくとも5年以内に実ることを心から願っている。』(共に20頁)と記述されていることを、ウラン試験入りを容認した三村青森県知事は承知をしているのだろうか。これでは、六ヶ所再処理工場が完成された商用施設ではなく、未だに研究開発途上施設に過ぎない、といっていることになる。
 『研究の成果が少なくとも5年以内に実ることを願っている。』状況下のK施設を、第三グループに位置づけして、他の第一、第二グループのウラン試験への移行条件が整ったからといってウラン試験実施に踏み切る方策は、次のアクティブ試験への移行条件にも同様に適用される懸念がある。原発の発電効果だけに目を向けて、放射性廃棄物処理・処分を先送りして、意識的に目を瞑ってきたとも思われる原子力業界の体質が、再処理施設の運転開始にあたっても、またぞろ発露されるのではと危惧される。
 K施設が化学試験を完全にクリアし、K溶融炉の健全性が実証されることを、ウラン試験入りへの必須条件とすべきである。
(2) 高レベル廃棄物のガラス固化技術は未完成
 しかも、何よりも問題なのは、再処理によって減容量化されるはずの高レベル放射性廃棄物(HLW)ガラス固化処理技術が、完成の域に達していないという事実である。
 『高レベル廃棄物の処分に関しては、高レベル廃棄物をガラス固化体にして、深地層に埋設することは国民にも知られている。しかし、そのガラス固化体を製造する過程の技術開発がまだ十分に開発されていないことを、評価委員になって初めて知った。』
 今年(04年)7月13日に公表された翌24日に、たまたまJNCのWebページで中間報告書の存在に気づき通読後、一番印象に残った「評価意見」まとめ部分結びに近い箇所(20頁)での記述である。
 六ヶ所再処理工場では、ウラン試験入りを前に、その前提としての化学試験最終段階を高レベル廃液ガラス固化建屋において実施中であるが、ガラス固化技術開発の不十分さを象徴するかのように、当該固化建屋における不具合等件数(進捗率59%で258件)が従前の他建屋(6建屋百%完了で373件)に比して異常な多発状況にある。中間評価報告書がガラス固化開発技術について、『研究の成果が少なくとも5年以内に実ることを願っている。』と述べているように、06年7月の六ヶ所再処理工場運転開始予定日までには、固化処理技術の開発完成は可能性がないという現実を示す数字であろう。
(3) 今一度、六ヶ所再処理・ガラス固化施設の健全性確証が必要
 六ヶ所再処理工場は、モザイク的に仏独英等の技術を組み合わせ導入した施設であるが、核拡散防止上という点から要求されたウラン・プルトニウムを混合酸化物として抽出するという日本独自の工程と併せて、国内技術としては、旧動燃=JNCのガラス固化処理方式(LFCM法)を採用している。したがって、技術導入元の先駆プラントが茨城県東海村のTVF(ガラス固化技術開発施設)ということは承知していた。同施設が初期段階でトラブルを連発していたことも記憶にあったが、原子炉等規制法の改正によってガラス固化体の深地層最終処分方式が決まり、海外からの返還ガラス固化体受入・管理も毎年度行事化して定着したことから、ガラス固化体の製造技術は完成したものとの錯覚に陥っていたのではないかと、今更ながら反省させられた。
 国の原子力安全・保安院は今04年3月に、「再処理施設品質保証体制点検結果報告書に対する評価について」で、JNFLの『点検の結果、設備及び建物の健全性は確認できた』との報告を『当院としては、同社の健全性評価の判断は的確に行われたと評価する。』と再処理施設の健全性についてお墨付きを与えていたが、JNC中間評価報告書の存在を知った今、未開発な技術を導入した疑いがある六ヶ所再処理工場ガラス固化施設について、改めて問題点の有無を検証する必要があると感じた次第である。
1. 何故、未確立なLFCM法を採用したのか。
(1) 再処理事業計画の出発時点にLFCM法採用は決まっていた。
 六ヶ所再処理施設は、主要工程の大半が仏コジェマ社のUP3をモデルプラントとして技術導入しておりながら、何故か、ガラス固化処理方式だけは旧動燃=JNCのLFCM法(液体供給式直接通電型セラミックメルタ溶融方式)を採用している。
 再処理施設本体に先行して六ヶ所に建設された高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターへ受入・収納されている海外返還ガラス固化体は、ロータリーキルン仮焼方式のAVM法製造によるのに、六ヶ所再処理事業が申請された1989年3月時点で、既にその前年88年1月14日には旧動燃との間でガラス固化技術の協力協定が締結されていた。しかも、動燃研究施設がモックアップ試験中のみで、固化プラントである東海ガラス固化技術開発施設(TVF)は未だに建設段階という状況の下でLFCM法固化方式採用を決定した真意については明確な説明がなされていない。
 公表されている年表等から判断すれば、旧動燃は75年以来、模擬ガラスによるプロセス技術開発試験を進めていたが、81年2月に独FZK(カールスルーエ原子力研究センター)と「高レベル廃棄物管理分野における協力協定」を締結し、LFCM法による技術開発を採用したことになっている。旧動燃の東海再処理工場は、71年6月に建設着工して、81年1月から本格運転を開始しているが、本体技術の導入先である仏SGN社等の初期トラブル解決等への対応不十分さに反発したのか、仏が採用主流のAVM法を避けて、独が或る程度の実績を有していたLFCM法が、固化溶融炉の寿命が長く炉交換頻度が少なくて済むという売り込みに、打算が働いた結果かとも推測される。
 日本原燃(JNFL)とは、82年6月時点で「再処理施設の建設、運転に関する協力基本協定」を結んでガラス固化技術の情報提供、共同研究等の技術移転契約をいち早く交わしている。旧動燃が独FZKとLFCM法による技術協力協定を結んだ81年2月の翌年6月には、いち早くJNFLと技術移転等に関する協力基本協定を締結しており、国としては開発費用予算節減のため、抜け目がなく費用分担を目論んだのではなかろうか。
 いずれにせよ、先のJNC中間評価報告書の中でも『AVM法 に対するLFCM法の採用について、技術的特徴の比較が行われているが、経済性の評価は明確でない』旨の評価意見(10頁)に対しても、JNCの見解として『定性的には、AVM法と比較したLFCM法の利点の一つに溶融炉寿命の長さがあげられるものの、これまでのTVF開発運転の実績では白金属元素堆積の影響により、設計で想定される溶融炉寿命に到達していないのが現状です』(中間評価報告書の補足説明資料1/25)と答えざるを得なかったように、必ずしも厳密な比較評価がなされた上での固化方式決定というよりは、溶融炉の交換頻度が少ないだろうとの単なる思い込みでの採用ではなかったろうか。
(2) 開発の主導権は、協力メーカーが握っていた
 更に中間報告書には『機構から提示された資料では、「研究開発の目的」がLFCM法の実証を前提とするものとして書き始められており、「目的・意義」と「目標」が曖昧になっているとの印象を受ける。これまでの経緯として、目的を達成する手段としてのLFCM法の採択に至る経緯や、AVM法との定量的な比較の根拠が示されていない。』(13頁)との記述がある一方、『研究内容そのものの目的は明確であるが、JNCとJNFLおよびIHIとの関係が理解しがい。』と指摘(11頁)したり、『プログラムのスタートする以前からIHIの関与が明確になっていたと思われる特異なケースである』とも述べている。
 そして、日本原燃が今04年3月26日に資エネ調原子力部会・技術検討小委に提出した資料13-5-2には、K溶融炉開発の経緯に触れて、IHIが概念設計からK実機溶融炉製作まで関わっていたことが記されている。中間評価報告書も、『研究開発は、…JNC―日本原燃―IHIの当事者間の協力範囲にクローズした状態で進められており、……技術移転に関して、民間再処理事業者の施設整備を受注していることを理由に特定メーカーと直接関係の下で進めるのは必ずしも適切でないと思われ、日本原燃を介した関係に改めることが望ましい。』との危惧を表明(15~16頁)しているように、事業主体の日本原燃が蚊帳の外に位置されたままの丸投げ状況で、設計から施工まで一貫してIHIが主導の下に今日まで推移してきたと推測される。
2. 先行施設TVFのガラス固化体製造実績は?
― 比較的順調に進められてきたというが、課題は山積している ―
 動燃東海事業所(現核燃料サイクル開発機構)のTVF(東海ガラス固化技術開発施設)は、六ヶ所再処理工場内に建設される同様の施設(K施設)への橋渡し役として1988年に着工、1881年からのCPF(高レベル放射性廃棄物研究施設)によるガラス固化体製造確証試験とガラス固化体特性評価研究を受け継いだ形で、92年度からコールド試運転、94年度半ばからのホット試運転を経て、95年2月20日から開発運転を開始し、2002年9月末までに130本のガラス固化体を製造したとされている。しかし130本の内訳は、95年度のホット試験中に22本、開発運転を開始した96年度が40本、97~99年度は東海再処理アスファルト固化施設爆発事故により運転休止、再開後の2000年度に25本、01年度が31本、そして目詰まりした溶融炉の炉内洗浄試験によって12本の実績とされている。
 運転開始時には大々的に宣伝したが、報道陣公開の3体目製造中の22日に、溶融ガラスをキャニスターに流し込む結合装置で目詰まりを起こし、操業中止に追い込まれるという初期トラブルを引き起こしている。動燃広報によると、TVFは三日で一本、年間で最大 140本のガラス固化体が製造できるといっていたが、東海再処理工場爆発事故等による施設停止の余波もあったとはいえ、7年半余という期間での製造実績が年間最大製造可能数値にも届かなかったということが、技術の実態を示していると思う。
 核燃サイクル機構では、96~130本製造という実績とTVF運転を及び保守技術の蓄積の成果を原燃六ヶ所再処理工場のK施設に技術移転を行っているとしている。しかし、技術完成度成果が疑われる7年有余の固化体製造実績程度では、技術移転という名に値しないのではないか。事実、先述の中間評価報告書でも、
 『商用施設稼働に向けての道筋が出来たものと評価』しながら、『しかし、現在直面している白金属元素の堆積対策は、溶融炉の処理能力や寿命を左右させることから、今後のガラス固化技術の高度化に向けての極めて重要な課題である。今後は、技術移転先のスケジュールを睨みつつ、国内外からの知見と指揮者のアドバイスを結集して、この問題の解決に当たる事を期待する。』と、未だに研究開発途上の技術に過ぎないことを告白している。
 旧動燃=サイクル機構では、当初溶融炉(1号炉)「プラントの初期トラブルの幾つか」にはどうにか対応してきたものの、02年3月28日の「主電極冷却空気流路の閉塞事象」発生によって、ガラス溶融炉の全面改良に取り組まざるを得なくなった。02年9月24日に更新工事の準備作業に入り、02年12月2日から1号溶融炉の取り外し作業を開始、03年5月溶融炉撤去完了、03年9月から改良型2号溶融炉の搬入・据付作業入りをし、04年4月に2号溶融炉本体の据付を完了した。そして10月20日から2号溶融炉の運転を開始した。現在は、運転状態での国の使用前検査を受検(11月24日に合格証受領)するとともに、懸案である白金属元素堆積物の除去技術開発による固化処理の安定化を図るための技術開発運転中である。また、このキャン ペーン中に予定していたガラス固化体製造は20本とされていたが、10月20日から11月26日までの間に16本の実績を挙げたとしている。
 2号炉による運転再開の20日深夜23:38~23:39に建屋負圧警報が断続的に吹鳴したが、点検結果は差圧計屋外検出端が強風の影響を受けたことによるとして、異常なしとした。 また、11月5日14:48頃、感震器が作動してガラス溶融炉の運転が自動停止、原因は、作業員が制御室内で機材(半面マスク)を収納した金属トレイを誤って床に落としたため、地震感知装置が作動したものと3日後のWebページ日報のなかで小さな文字で発表。改良型での運転再開でも、事業者の言う「初期トラブル」の洗礼は免れ得なかったことになる。六ヶ所に導入された場合も、トラブルが発生しないなどという例外はあり得ないとの教訓でもあろうか。
 中間評価報告書でも、『この研究開発計画では、JNFLの商用運転に間に合わせるには遅れ気味なのではないかとの印象を受ける。そのため、JNCがJNFLに不完全な技術しか提供できない時点において、商用施設(K施設)が商用運転を開始することになっているとの批判がJNFLに対してなされうるのではないかと危惧する。』と述べているように、
 1) 『設計で想定される溶融炉寿命に到達していないのが現状』 (中間評価報告書・参   考資料3;課題評価委員会の評価意見に対するサイクル機構の見解1/25)
 2) 『JNFLの溶融炉はJNCの炉より大型化しており、FZKの経験からすると    問題を悪化させる可能性もあるのではないか。』(中間評価報告書18頁)
 3) 『低燃焼度燃料の再処理廃液をLFCMによりガラス固化する技術は既に米国で    もJNCのTVFでも実績がある。その一方で、気になるのは………貴金属FP    が含まれる比較的燃焼度の高い燃料では、既にかなりの時間をかけてもなお記載    されているように解決できていない。』(中間評価報告書12頁)
等々の未解決問題を抱えている。
3. 六ヶ所再処理工場K施設の問題点は?
(1) 主工程に比し、従的な存在扱いをされてきた
 承知のように、六ヶ所再処理工場は事業許可申請の段階から今日まで三度にわたる建設費見積額見直しが行われてきた。申請時に7,600億円だったものが、99年4月の見直し変更申請によって2兆1,400億円となり今日に至っている。見直しに当たっては、建設費高騰を抑えるためとして、からり大掛かりな設計変更がなされた。設計変更は、① 精製施設の一段化、② 低レベル廃液処理施設の統合化、③ 高レベル廃液貯蔵施設の移設が主たる内容であり、建設費用的には③が最も節減効果をもたらしたのではと思う。
 当初計画では、高レベル廃液の貯槽セルエリアのある「高レベル廃液貯蔵建屋」と、固化セル中心の「高レベル廃液ガラス固化建屋」に分離していたものを、高レベル廃液ガラス固化建屋一つに統合することとしたものである。そして、建屋の統合だけではなく、統合前に20基を数えていた貯槽が13基にと、統合節減されることになった。
 精製施設の一段化に伴って、アルカリ濃縮廃液の発生量が減少することと、二建屋に高レベル廃液貯槽と高レベル廃液受入貯槽に分離設置されていたものを、建屋統合によって移送配管が不要になり、併せて同一建屋内での一時貯槽から混合槽への移送作業のみで済むことによって、統合前は9+7=17基(容量約1,128m3)の廃液貯・受入槽を8基(容量約726m3)の貯・混合槽へと、およそ半減するという内容であった。
 設工認申請とその審査内容が一切公表されていないので、正確な検討比較は困難であるが、設計変更時に『トラブル発生時のタンク容量の裕度には支障はない。』と説明されたものの、その信憑性に疑問を抱いたことは忘れていない。
 英国BNFLの二つの再処理工場では、ガラス固化施設WVPの実績が可能生産高の34%という乏しい実績によって、高レベル貯蔵タンク(HASTS)が「戦略的貯蔵」というNII(英原子力施設検査局)の削減目標数値に達しないことによって、たびたび再処理工程の中止に追い込まれた経緯があり、昨03年11月のエネルギー法成立によってマグノックス燃料の再処理施設の廃止措置が確定しただけでなく、セラフィールドの商業用・酸化物燃料再処理工場(THORP)すらも「原子力廃止措置機関(NDA)へ、MOX燃料工場を除く資産と債務の移転によってBNFLが再編・処理されるのではとのニュース等にも接している。 六ヶ所再処理工場もK施設の頓挫によって、BNFLの再処理工程中断という轍を踏む危険性を孕んでいるといって過言ではないだろう。
(2) ウラン濃縮工場の二の舞を含む危険性
 JNFL(日本原燃)が、総合資源エネルギー調査会原子力部会核燃料サイクル技術検討小委員会の第13回(04年3月26日開催)に提出した資料(資料13-5-2)の図-4によれば、六ヶ所再処理のガラス固化施設(K施設)溶融炉は01年10月に発注され、02年11月頃固化セルが搬入されたことになっている。そして建設・施工段階の機能確認検査ともいうべき通水作動試験が、02年8月中旬から04年1月下旬まで実施され、04年4月から化学試験に入ると記入されている。
 K施設の安全性は、大きくは高レベル廃液の濃縮缶と貯槽の健全性に関わるとはいえ、溶融炉の機能性が施設の生命線といって過言でなかろう。そのK溶融炉製作が発注されたという01年10月は、TVF・1号溶融炉が運転稼働中で、改良型2号溶融炉の製作開始の02年4月に先立っている。確かにJNFLの説明資料13-5-2では、IHIが2k年7月に実規模大のK-MOC確証改良溶融炉を東海コールド試験施設に据付をして、それぞれ2ヶ月程度の1次、2次試験を実施の上で、K溶融炉およびTVF2号溶融炉の製作に反映させたといっている。しかし、短期間のコールド試験のみで、設計上の溶融処理能力が確認されたとして製作発注に踏み切ったが、3次試験からJNFLが委託試験として関わり、その後の4次試験では試験目的未達成の事態さえも生んでいる。
 現在、六ヶ所ではウラン濃縮工場が、7系列のカスケード設備中3系列が生産停止という状況にある。これは、徒に操業開始を急いだ(核のゴミ捨て場という反対運動への対抗上、化学工場としてのウラン濃縮工場建設を最優先した)ことが、結果的には旧動燃人形峠のパイロット・プラント成果を反映したという原型プラント・遠心分離機を運転開始による実証確認もみないで導入したことが、結果的に新型遠心分離機開発の頓挫と遅滞を来たし、導入遠心分離機は生産運転中に更新時期をまたずに相次いで停止する事態を招くことになり、今年9月末までに累計17,184の台数が停止している。生産ラインの規模縮小は売上げ減少に止まらず、財務状況でも多額の固定資産評価損の計上を余儀なくさせられ、03年度末での572億円余という欠損金を生じた要因ともなっている。
歴史は繰り返されるというが、TVF2号溶融炉の運転実績やK-MOC確証改良溶融炉のホット試験等の実証を待たずに導入されたK溶融炉が、既に触れたように廃液条件等をバラメータにした運転条件確認の試験実施によって試験目的不達成がJNLF資料13-5-2の1頁右欄で報告されており、ウラン濃縮工場遠心分離機と同じような運命を辿ることになる可能性は大きいと、指摘せざるを得ない。
(3) プール漏洩不良・不正施行への反省が活かされていない
 JNFLのF施設(使用済燃料受入・貯蔵施設)貯蔵プール漏水問題では、工事施工時等の品質保証体制が協力会社へ丸投げ状況だったことが主原因とも指摘されている。
 K溶融炉の発注が87年段階で既にIHIへ決定された後に、LFCM-JNC法の採用を88年4月に決めるという順序の後先が気にかかるが、以後もK施設溶融炉の開発がIHI主導でなされてきたことが、前掲のJNFL資料13-5-2の1頁からうかがえる。中間評価報告書でも、このことを『プログラムのスタートする以前からIHIの関与が明確になっていたと思われる得意なケースである。』(15頁)と指摘している。
 K溶融炉の開発がIHI主導とも思える不透明さについては、中間評価報告書の参考資料4に添付された補足説明資料(JNCが各評価委員の質問に対して回答したもの)の中にも、『JNFLのK施設への技術移転を、設計・製作メーカーを通じて行うことを挙げていますが、なぜJNFLへ直接でなく、メーカーを通じる必要があるのでしょうか。…IHIが技術移転に大きくかかわっているが、1企業に独占的に技術を与えることは問題ではないのか?』などの問いかけに対して、『ガラス固化処理技術の移転先はあくまでもJNFLであることから、IHIに関係する本分及びOHP中の表現を変更したいと考えます。』という回答が数カ所でていることからもうかがえる。
 F施設と同様にK施設においても協力会社丸投げだったとしたら、体質は変わっていないし、同じ轍を踏む欠陥施設であり得る可能性が大きいと危惧するものである。
(4) K施設は、安全審査が疑われるお粗末な欠陥施設
当時の科技庁が「指定基準に適合する」との一次審査結果を発表した91年8月時点でも、原子力安全委が二次審査答申の92年12月時点でも高レベル放射性物質研究施設(CPF)で高レベル廃液を使用しての試験中(旧動燃・平成4年度業務概要)という状況で、どのように技術的安全性や施設の健全性に関する安全審査が行われたのか、疑問である。
 なお、原子力安全委の返還ガラス固化体の受入・収納をする六ヶ所における高レベル廃棄物管理事業に対する事業許可答申は92年3月26日で、原研が返還廃棄物の安全性確認試験のためコジェマ社からガラス固化体サンプルを受け入れたのは92年6月第一週であった。当時、原研はサンプルに対する総合評価を93年度末までに終えるとしていた。
 先を見越すのは良しとしても、技術的に検証確認されていない段階で、将来的には可能性が見込めるという判断だけで安全審査を終了していたとするならば大問題である。
 前の各項で指摘してきたように、K施設に技術移転提供するJNCのTVFには、未解決問題が多々あり、中間評価報告書でも、『開発途上で遭遇した数々の課題を、粘り強く解決してきた努力は高く評価される。しかし、JNFLへ移転した技術が実証されたものでない以上、現時点までの成果は当初の目標を達成しているとは言い難い。』との記載(20頁)があるように、目下化学試験に入っているガラス固化建屋施設の健全性が疑われる。しかもTVF1号炉の運転停止前にK溶融炉が発注され、そのK溶融炉と同一設計思想と思われるTVF2号炉が実証運転に入る以前から化学試験を実施しているということを、どのように理解すれば良いのだろうか。
JNFLのWeb頁に記載された主要建屋の試験状況での04年10月末現在での高レベル廃液ガラス固化建屋化学試験進捗率は59%となっている。実施・進捗中のK施設化学試験における不具合等の発生件数が、59%という進捗率で258件を数えている。これは他のすべての建屋での発生件数373件に比しても、異常に多い数値である。一切、詳細が明らかにされていないので推測の域を出ないが、項目別不具合等の内訳件数では、「性能未達・動作不良」50件、「誤動作・不動作」36件、「改善事項等」26件等が合わせて43%を占めていることからも、放射性物質を取り扱う商用施設というには、余りにもお粗末すぎる欠陥施設である、といわざるを得ない。
《おわりに》
(1) 六ヶ所再処理施設を動かしてはならない
 原子力委員会・新長計策定会議の強引な「中間取りまとめ」によって、再処理を基本とする核燃料サイクル政策継続の方向性が決められた。青森県でも、国が核燃料サイクル協議会の場でサイクル事業の着実な推進を約束したとして、事業者と安全協定を締結してウラン試験実施を了承した。更に、この(04年)11月24日には経産副大臣等の要請を受け、MOX(混合酸化物)燃料工場立地へも前向き姿勢を示したと報道されるなど、六ヶ所再処理工場の本格稼働が既成事実化しそうな状況にある。
 しかし、プルサーマル計画の先行き不透明をはじめ、中間貯蔵施設の半永久貯蔵施設化、高レベル廃棄物最終処分場探しの困難等々、再処理推進を取り巻く周辺には問題が山積したままであり、懸案問題のすべてを先送りしての再処理ゴーサインは、「正=プラス」部分のみ摘み食いして「負=マイナス」面には目を瞑ってきた従来の綱渡り手法の延長線でしかない。
 大きく目をそらしてきた一つに再処理によって発生する放射性廃棄物の問題がある。再処理推進論者達は、燃え残りの核燃料物質=プルトニウム・ウランの「リサイクル」を強調し、使用済燃料と高レベル廃棄物・ガラス固化体との容量体積のみを比較した放射性廃棄物の減量化だと主張してきた。だが、プルサーマル等で再利用した後にも再び新たな使用済燃料は発生するし、再処理工程で発生するTRU(超ウラン元素)放射性廃棄物については処理処分方法も決定されていない。
 HLW最終処分までの時間稼ぎには効果があるかも知れぬが、放射能濃度的にも総量的にも、再処理稼働は放射性廃棄物を結果的に増やすだけでしかない。
(2) 再処理路線継続の判断は時期尚早である
 六ヶ所再処理のコストについては、新長計策定会議の他色々な場で検討されたが、百パーセント稼働操業を前提としている。しかし、再処理によって生まれる高レベル廃液処理=ガラス固化体製造が順調に機能しない場合には、再処理工程中断をせざるを得なくなる。(六ヶ所再処理施設の大幅な設計変更がなされた際の青森県専門家会議による96年2月の「再処理設計変更に係る安全性チェック検討会・報告書」では、2基のガラス溶融炉が停止しても、半年以上にわたって上流工程を継続できる貯蔵容量となっているので支障ないとしていたが、仮に固化処理停止が1年以上の長期に及ぶ事態が惹起した場合には、上流工程の停止もやむを得ないこととなるのは必定である。(現に、英国のTHORP再処理工場では、先に触れたように高レベル廃液の増加によってプラント一時停止に追い込まれた前例がある。) 再処理によって抽出されるプルトニウムが過剰になった際、「将来、平和的なプルサーマルで利用可能」という逃げ口上が仮に通用したとしても、建設工費節減のため高レベル廃液貯槽を半減させた経済性優先主義のツケがこの段階で廻ってこようとは、事業者も計算外だったのでは無かろうか。
 いずれにしても、原子力村の一員として各種委員を経験されてきたお歴々が、『ガラス固化体製造の技術開発が、まだ十分でないことを、初めて知った』と述懐しているような段階で、放射性物質を取り扱う(当然、施設・設備の放射能汚染が伴う)ウラン試験入りを認めることは出来ない。トイレ無き原発という言葉があったが、まさにトイレ無き再処理工場となる。
 ガラス固化溶融炉が糞詰まりすることによって再処理工場そのものの糞詰まり状況を生み、2兆1千4百億円を投じた建造物がそのまま巨大な放射性廃棄物=核のゴミと化すような事態を避けるためにも、ウラン試験入りは中止するべきであるし、既定の再処理路線を単純に継続認定したことに過誤がなかったか、再吟味の必要がある。
以上
<主な参考資料>
〇 平成15年度研究開発課題評価(中間評価)報告書
   評価課題「ガラス固化技術開発施設における
        高レベル放射性廃液のガラス固化処理技術開発」
    2004年7月13日      核燃料サイクル開発機構 研究開発課題評価委員会
                         (廃棄物処理処分課題評価委員会)
    www.jnc.go.jp/siryou/hyouka/HY040713/honbun.pdf

〇 六ヶ所再処理施設におけるガラス固化技術の現状と今後の取組みについて
   ― JNCによる技術協力の現状とJNCへの期待 ―
    (総合資源エネルギー調査会原子力部会・再処理技術検討小委員会 資料13-5-2)
    2004年3月26日                     日本原燃株式会社
  www.meti.go.jp/kohosys/committee/summary/0002277/ (議事概要のみ掲載)