原子力長計策定会議意見書(第14回)

長計策定会議意見書(14)

2004年12月22日(水)
原子力資料情報室 伴英幸

I. 安全の確保に関する中間取りまとめ(案)について
1. 新計画において示すべき安全の確保について
新計画において安全の確保の重要性を指摘し、これを確保するための基本的考え方を示すことは、とりわけ現行計画策定以降も東京電力の一連の不正事件や美浜原発3号炉事故などが起きていることを考えれば、きわめて妥当だと考えます。
①「原子力施設に係る公衆リスクを抑制」の表現が限定的かつ緩いと思います。ここは「原子力活動に伴う国民の健康や社会環境におよぼすリスクを十分に抑制」との認識に立つべき。
②セイフティとセキュリティの2つに区分されていますが、ヒューマンファクターの問題、例えば、事業者の不正行為や事故における人為ミスの問題にも言及する必要があると考えます。
3. 新計画における安全の確保に係る基本的考え方
①ここで述べられている規制や安全基準の見直しは、あくまで「より安全に」との考えに立って行なわれるべきです。この点に関し、第14回策定会議において定期検査間隔の延長が認められたとする報道がありましたが、会議ではそのような事実はなかったはずです。会議後の記者レクチャーなりでそう説明されたのであれば遺憾です。適切な処置を望みます。
②はじめにで、「周辺公衆がこれらにより影響を受ける」「周辺公衆に与えるリスクを査定し」とあるが、「周辺」に限定するべきではないと考えます。後に災害は発生すれば公衆への大きな影響を与えるとの認識を示していることからも「周辺」は削除するべき。
③事業者に対して「安全文化」の確立を求めていますが、規制側も事業者側も「安全」を積極的に考える姿勢に乏しい。かつて規制部門の独立論に対し、当時の科学技術庁の事務次官が「仕事を安全規制の範囲に限ることになり、職員の士気が下がる」と反論したことがあります(朝日新聞、1997.5.2)。日本原子力産業会議の副会長(もと東京電力柏崎刈羽原発所長)は、2004年9月21日付電気新聞でこう発言しています。「試運転を終えて営業運転に入ると、設備の完成を目指した攻めの職場である建設所が保守という一見守りの職場である発電所に変わる。あるいは建設部門から発電所保守部門へ配転になる。そうすると職場の活力や従業員の意識が微妙に低下するということを経験しています」
推進重視・建設重視の考え方が改められない限り、安全重視は口先だけのものにとどまることを真剣に議論する必要があります。
④「環境変化を踏まえた今後の原子力の安全確保」にいう環境変化とは、維持基準の導入、性能規定化などに見られる規制緩和のことだと認識します。「安全規制の見直しおよび検査制度の改正」は、最新の知見の反映の結果というよりも、むしろ電力の自由化の中での規制緩和策の一環として出てきています。規制緩和の中での安全の確保が果たして十分に行なわれるのか疑問です。「改正」は安全余裕を切り詰める結果になると考えています。それゆえ、「理にかなったもの」との表現は受け入れられません。
 また、JCO事故とその後の品質管理の実態を見れば、事前段階における「強い規制」に加えて、運転段階においてもやはり「強い規制」が必要ではないかと考えます。
⑤リスクは発生確率とそれが発生した場合のインパクトの両方が定量化される必要があると考えます。「はじめに」では事業者が「公衆に与えるリスクを査定」するとしていますので、3.2事業者の責任と課題の中のリスク分析の中でも同様に言及することが望ましいと考えます。
⑥規制行政について二省庁問題とダブルチェック問題にのみ言及していますが、各自治体の首長や会議などが求めていることは規制機関の推進機関からの独立です(保安院の回答には独立しないことの理由が明確でありませんでした)。この点にも言及するべきです。
⑦テロ対策は、原子力利用が核管理社会を必然化させていることを示しています。そのことをもって原子力利用に反対する大きな理由となっており、核物質防護の強化を手放しで認めることはできません。少なくとも「民間の企業活動への国の介入や個人のプライバシーの侵害などを招かないよう」という総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会防災小委員会の報告書の注意書きを、これも口先だけのものとしない具体的な歯止めが必要です。
⑧安全基準や検査の方法を効果的で効率的なものにするために、「それらの内容に常に最新の科学的知見を反映する」と明記しています。質問への回答も同様の回答でした。既設炉に関しても「法令および通達による要求に基づき、事業者が、定期安全レビュー等において知見の反映を行なうこととしています」となっています。策定会議で地震PSAのことを発言し、浜岡原発の地震PSA結果を事業者に公表するように求めてきました。(参考)に耐震指針検討について流れをまとめましたが、指針が導入された場合に、それが既設炉にどのように反映されるのでしょうか?
II. 「新計画策定会議(第13回)においていただいたご質問について」に対する再質問
番号5:回答にある「安全が許容できるレベル」とは、具体的にどういうことですか。また、「有効性を確保するべく」「安全規制の見直しを行なっていく考え」とあるが、これは「有効性が確保できれば安全規制の緩和を行なう」という考えとは違うと解してよろしいか。
番号9:「技術基準に違反していると判断することは困難」「違反していることが確実ではない」が「減肉が懸念され」たということは、違反している疑いがあったと解してよろしいか。東京電力に対しては、そのような時に「直ちに交換する必要がない」とした姿勢が安全重視の考えに反していないかを問います。
番号10:「推進機関と規制機関の効果的な分離」は「形式的な独立を求めたもの」でないなら、何をもって「効果的な分離」とするのか、独立しない理由はなにか、原子力安全条約第2回締約国検討会合では、どのような説明を行ない、どのような理由で引用のように評価されたのか。議事録と評価の全文を明らかにして説明してください。
番号11:原子力の安全規制コストの原資は電源開発促進税ですが、同税が電気料金の原価に算入され「電気料金によって回収され」るにせよ、明らかに税金であり、電力会社の収入ではありません。説明はまったくの欺瞞です。

(参考)地震国日本において原発耐震安全性の議論は非常に重要
1.原発耐震安全性について
阪神大震災や新潟中越地震を受け、巨大地震が近代社会に与える影響に対して国民の関心は非常に高まっています。しかし、原発の耐震安全性については、『想定外の地震は起こらない』という前提のもと『絶対安全』として中央防災会議の議題にも挙がらないなど、公式の場で議論されることはありませんでした。そんな中、3年前より耐震設計審査指針の見直し(20年ぶり)が原子力安全委員会の耐震指針検討分科会で行われています。最近度重なる震災被害を経験して、とりわけ地震学者の委員の方々はますますリアルに事故の危険性を実感しておられるようすです。
2.地震による重大事故の可能性はすでに共通認識
すでに耐震指針検討分科会の議論は、「(設計で想定した)基準地震動を超える」ような地震動が「大きな事故の誘因」となるリスク(残余のリスク)を共通の認識として進められています。11月24日の当策定会議でヒアリングした保安院の認識とは大きな隔たりがあります。また、こうした認識を反映するようなアンケート調査が毎日新聞より報告されました。(12月17日夕刊)
★ 毎日新聞は、全国の電力会社10社に対し想定外の地震についてアンケートを実施した。以下、記事より抜粋。
【設問は(1)どの程度の地震まで耐えられることを確認しているか(2)想定外の地震や大事故が起きる可能性はゼロと考えるか(3)「想定を大きく上回る地震で大事故の危険性はないのか」との疑問にどう答えるか--とした。 安全性を確認した地震は、全社が「耐震指針が定める大きさまで」と回答。具体的に想定外の地震に対する安全性を確認した社はなかった。 想定外の地震や大事故が起きる可能性は、「起こり得ない」と「ゼロではない」の二者択一で回答を求めたが、全社がどちらも選ばなかった。ある社は「ゼロでないと考えるが、これまで最大限まで考えて設計していると説明してきたので、ゼロでないと答えると矛盾する」と話す。 ただ、中部電力は「選択はできないが、ゼロという認識には立っていない」と説明。東京電力も(3)の回答の中で、「指針を上回る事象の存在は否定できない」とした。】
3.設置許可だけでなく、運転管理の段階でも耐震安全性評価を判定基準に原子炉立地審査指針の基本的目標にうたう公衆の安全確保を、耐震設計審査における立地の判定基準に組み込むべきではないか、という意見が出て現在白熱しています(現行耐震指針では基本設計の段階での許認可判断がなされるシステムになっています。分科会での議論は、詳細設計の段階でなければ地震PSAを適用できないことから、いかにしてその評価結果を許認可判断に反映させるかが議論されているわけです)。
今後地震や地震PSAに関する知見が進む可能性は大いにあるでしょう。指針が導入された場合には、耐震設計審査を超えてさらに運転管理の段階での判断もなされる必要に迫られると考えます。現に、すでに国が想定する「想定東海地震」の震源域において原発の運転停止が問題提起されています(12月10日に配布された『原発震災を防ぐ全国署名連絡会』の要請書参照)。