院内集会と政府交渉報告:梅田さん、厚労省に直接申し立て

『原子力資料情報室通信』第429号(2010/3/1)より


2月8日の市民と議員の院内集会と政府交渉報告
梅田さん、厚労省に直接申し立て

 2月8日、原発被曝労働者・JCO臨界事故被害者の救済に向けた市民と議員の院内集会と政府交渉を行なった。多岐にわたる課題に取り組んだが、今回は原発被曝労働者の問題にしぼって報告する。
 30年前に島根原発と敦賀原発で被曝労働に従事し心筋梗塞で労災申請中の梅田隆亮さんが福岡から参加し、念願であった厚生労働省への申し立てを行なった。これまで本人がなくなった後、遺族が労災申請するという場合がほとんどであった。原発被曝労働にたずさわった本人からの申請は、私たちが知る限りでは岩佐嘉寿幸さんと長尾光明さんに続き3件目で、直接厚労省に訴えたのははじめてだ。
 厚生労働省から、労働基準局労災補償部補償課の片野圭介・企画調整係長、同課職業病認定対策室の宮村満・中央職業病認定調査官、同室の上田勇起、安全衛生部労働衛生課の永田和博・主任中央労働衛生専門官、同課の堀内克浩・業務第四係長、安全衛生部化学物質対策課の小泉潤一・課長補佐(敬称略)が出席した。
 梅田さんは申し立ての中で、敦賀原発で働いた現場の状況を具体的に述べ、この現場の調査を求めた。
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 30年前に梅田さんを取材し、また本誌423号で新たな梅田さんの状況を伝えてくださったフォトジャーナリストの樋口健二さんは、1977年7月に初めて敦賀原発内での写真撮影を許可されたときの労働現場の写真を示し、きびしい被曝労働の実態を訴えた。また、「原発はごめんだ!ヒロシマ市民の会」の木原省治さんは、心筋梗塞が原爆症認定対象となった経過と認定の実態について発言した。
 厚労省は、梅田さん本人の申し立てがあったこととこのような会が開かれたことを重く受け止めると表明した。また、「管理されない被曝(放射線管理手帳に記録されていない被曝)」に関しては、「申し立て」の検討を含めて調査を行なうことを約束した。
 私たちは、心筋梗塞が放射線起因性の疾病で、原爆症認定基準に列挙されていることについて、厚労省に確認させた。

 私たちが提出していた申し入れ・質問書(本誌前号参照)への主な回答は次のようなものだった。
 放射線管理手帳に認定対象疾病(包括的救済を含む)、申請手続き、不服申し立ての制度など労災関連法規を記載することの提案について、厚労省は「所管ではなく、記載内容について我々の方からああするこうするという立場にない」としながらも、「こういった考え方は当然のことながらわれわれも受け入れるべきもの」と積極的に評価した。所管である文部科学省との交渉に向け、手がかりをつかむことができた。
 2008年度に7件の原発被曝労災申請があったことが公表された(北海道、兵庫、島根、長崎、宮崎各1件、福井2件)。単年度に7件もの労災申請があったという事実を、私たちははじめて知った。今後、過去にさかのぼり申請件数、認定件数、検討会の扱い件数との関係などを明らかにしていきたい。
 厚労省は、個人情報保護を理由に、原発被曝労災の申請・認定の公表について、件数以外の疾病名や被曝線量については公表を拒否した。ひとつの産業における労働者の健康影響の実態をきちんと把握し、その内容を公表することは、国民と労働者の健康を守る役割を担う厚労省の重要な仕事のひとつである。この間の厚労省の対応は、個人情報保護法の意味を完全にはきちがえているとしか言いようがない。
 また、「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」の開催要項から疾病、施設、業務、労働局など具体的な記述がいっさい消えてしまったことについて、厚労省は「今年度に開催している検討会では、複数の労働局からりん伺された事案を検討する予定であったので、特定の局を示さない要綱とした。検討会設置の趣旨、目的については考え方を変えたわけではない」という。開催案内に労働局名は明記するとの回答だけに終った。
 労働基準法施行規則第35条の例示疾病の拡大について、私たちは労災認定されたものを例示に加えていくという現在のやり方ではなく、海外も含めて放射線起因性の認められている疾病をすべて例示することを強く求めた。
 海外の例をあげれば、米国エネルギー省雇用者職業病補償では、骨がん、腎臓がん、白血病(慢性リンパ性白血病を除く、最初の被曝から最低2年経過後の発症)、肺がん、最初の被曝から少なくとも5年経過後に発症した多発性骨髄腫、リンパ腫(ホジキン病を除く)、以下の原発性がん、甲状腺、男性・女性の胸、食道、胃、咽頭、結腸、卵巣、肝臓(肝硬変、B型肝炎に関連するものは除く)が補償の対象となっている。イギリスの放射線労働者賠償機構では、世界保健機関(WHO)の疾病および関連保健問題の国際分類(ICD)にしたがって補償対象の疾病を定めている。これらと比較して、日本の実態はきわめて遅れている。早急な対応が必要だ。
 2008年3月から原爆症の認定基準では、すべてのがんが補償の対象となった。また、心筋梗塞も放射線起因の疾病として、札幌地裁、東京高裁、大阪地裁で認められている。原爆被爆者と原発被曝労働者の補償については、ともに厚労省の管轄である。
 健康管理手帳の交付の問題もあわせて、課題は山積している。これからも粘り強く交渉を重ねます。全国のみなさまのご支援をよろしくお願いします。
 梅田さんは、全国から集まった市民のみなさま、服部良一衆議院議員をはじめとする国会議員、議員秘書のみなさまからの暖かい励ましに心から感謝されていました。
 梅田さんはバプテスト教会で活動されていて、その仲間のみなさんに大きく支えられています。また、「プルサーマルと佐賀県の100年を考える会」の石丸初美さんご夫妻も資料整理などお手伝いをしています。周辺にじっくり話を聞いたり、相談に乗ってもらえる人の存在は心強いものです。全国にこんなつながりが育てばいいと思います。
(渡辺美紀子)


原発被曝労働者・JCO臨界事故被害者の救済に向けた申し入れに賛同してください。
被害者の訴えを受け止め、その補償拡大を目指しましょう。
申し入れ書を政府に提出し、今後も交渉を重ねます。各地で運動の輪を広げよう!

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