タニムラボレターNo.022 東京を流れる荒川の堆積物の調査(1)

『原子力資料情報室通信』第480号(2014/6/1)より

 

 

 

 

 これまではビオトープ内の放射能について述べてきましたが、今号は荒川の堆積物の放射能調査について報告します。
 といっても、秩父山地を水源として埼玉と東京を流れて東京湾にそそぐ、広大な荒川の全体像を把握することは目的としていません。荒川のうち、子どもたちがよく遊ぶ場所に着目して、下流域の東京のある1地点を調査しました。
 私たちがいつも行っている土壌採取には、直径5cm、長さ30 cmの円筒状の道具を用います。筒をまっすぐ地面に押し入れて、左右にまわしながら引き抜くと、筒の中に層を保ったままの土壌が残ります。柱状の土壌を一定間隔で切り出して、土壌の厚さごとの放射能測定ができるのです。

 2013年10月、この道具で川底堆積物の採取に挑戦したところ失敗してしまいました。川底の堆積物は含水率が高いため、筒を引き抜くときに、水の流れと一緒に筒の中の堆積物の層が乱れたり、中身が流出したりしてしまったためです。なるべく水の影響をうけないようにするため、川岸に沿って干潟が現れるときに採取した方が良いと考えました。

東京湾の潮位 (気象庁のホームページによる)
潮位基準の標高は-111.3cmであり、A.P.(Arakawa Peil)という。Peilはオランダ語で「水準線」あるいは「基準」などを意味する。ほぼ東京湾の最低水位にあたる。

 一般に、海面水位は周期性をもって上下に変動しています。荒川下流部の水位もそれと連動して変化します。この調査に取り組んで初めて知ったのですが、海面の水位はいくつかの波の重ね合わせのような形で変動しています。変化の原因は月が地球に及ぼす引力などの影響とのことですが、人間の力が及ばない自然の力の壮大さに畏怖の気持が生まれてきます。なお、時間ごとの変化予測を気象庁のHPで見ることができます1)

 採取に失敗した10月の採取日の潮位は58 cm、干潟は8mほど現れていました。潮位予測表をもとに、昼間にかなり潮位が低くなると予測された4月2日(潮位14 cm)に再度、採取を行いました。その日、干潟は約20 m出ており、調査ボランティアの方々の慎重な作業の結果、なんとか岸から5、10、15、20 mの4点を柱状に採取することができました(つづく)。   

1)www.data.kishou.go.jp/kaiyou/db/tide/suisan/index.php

(谷村暢子)

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