日本の原発輸出産業の動向

『原子力資料情報室通信』第524号(2018/2/1)より

日本の原発輸出産業の動向

再生可能エネルギーの増加や化石燃料価格の低下から電力価格が下落し、原子力に対して世界的な逆風が吹いている。そのような中、日本の原子力産業界は、依然として原発輸出を産業の生き残り策として模索している。本稿では、日立・東芝・三菱重工の現状を確認したい。

日立
日立の2016年度の原子力部門売上収益は1,922億円だった。内、海外分は4%に過ぎず、大半はBWR(沸騰水型軽水炉)の再稼働対応や東京電力福島第一原発事故処理作業からの売上だ。なお日立の2016年度売上収益は9.16兆円(営業利益5,873億円、営業利益率6.4%)、売上全体に占める原子力の比率は2%だ。日立は原子力単体の営業利益を未発表だが、電力<CODE NUM=00A5>エネルギー事業の営業利益は71億円(売上収益4,628億円、営業利益率1.5%)と収益率が低い。
米電機大手GEと日立の合弁企業GE日立ニュークリアエナジーは、米国でウラン濃縮の技術開発を行うGE日立グローバル・レーザー・エンリッチメント(GE日立が62.5%、GE本体が13.5%、カナダのウラン生産大手のCamecoが24%出資)から撤退することとし、日立は2016年度決算で出資分の内665億円を営業外損失として減損処理した。加えて2014年に日立と三菱重工の火力発電部門と統合した三菱日立パワーシステムズで、統合前に日立が受注した南アフリカの火力発電所建設事業で発生した巨額の損失について三菱重工が日立に7,600億円を支払うことを求める訴訟を提起している。
日立は2012年、ドイツの電力大手E.ONとRWEが英国に設立した原発事業会社ホライゾン・ニュークリア・パワー(以下ホライゾン)を約850億円で買収した。ホライゾンは英国のアングルシー島ウィルヴァ・ニューウィッドとサウスグロスターシャー州オールドベリーにそれぞれ2~3基のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)を建設する計画を保有している。2つの内、ウィルヴァ計画が先行しており、2016年にはEPC(設計・調達・建設)契約締結までのエンジニアリング業務提供者としてメンター・ニューウィッド(日立・米建設・エンジニアリング大手のベクテル、プラント大手の日揮のコンソーシアム)を指名。さらに日本原子力発電、米発電大手のエクセロンと協力協定を締結し、両社は2017年、ホライゾン計画のサポートのためJExel Nuclear株式会社を設立している。また、2017年4月には2基のABWRを建設するためのサイトライセンス申請を行っている。なお、英国ではABWR建設は初めてのため、包括的設計審査(GDA)を受ける必要があったが、2017年12月に審査は完了した。
日立はウィルヴァ計画の総コストについて明らかにしていないが、総コストの10%を日立が出資する方針だとされていた。昨年末以降、この費用をめぐって複数の報道が流れたが、合計3兆円のプロジェクトに対して日本側が3,000億円、英国側が1,500億円出資し、さらに両国がそれぞれ1.1兆円を融資するとされる。日本側は政府系の国際協力銀行(JBIC)と民間金融機関が融資し、これに全額、日本貿易保険(NEXI)の保証を付ける方針とされる。
なお、昨年末「原子力関連プロジェクトにかかる情報公開指針」を策定したことにより、JBIC/NEXIは原子力関連プロジェクトに融資・保険の付与ができるようになった。
原発建設プロジェクトは巨額のコストを要するプロジェクトであり、さらにこの間コスト超過が相次いだことから、日立は「最強メンバーのワンチーム化により、着実にプロジェクトを推進」、「On Budget/
On Schedule優先の環境構築」と説明する。しかしその一方で、日立は自社のホライゾンへの出資比率を100%から50%以下にするため出資者を求めている。日立は海外での原発建設経験は台湾の第四原発の原子炉製造のみでコスト超過・スケジュール遅延リスクは低くない。自社はリスク回避に向かう一方で、政府系金融機関にはリスク保証を求める日立の姿勢もさることながら、政府系金融機関がこれほどのハイリスク事業に融資・付保を行い仮に焦げ付きが発生した場合、その負債は国民負担ともなる。極めて問題が大きい。

東芝
東芝は、2016年度決算で子会社の米原子力大手ウェスティングハウス(WEC)の経営不振問題で約1.4兆円の損失を計上し、2017年3月にはWECの米連邦破産法11条適用を申請した。債務総額は98.11億ドル。これにより東芝は海外の原子力事業からは撤退することとなった。WECについてはカナダの大手投資ファンドのブルックフィールド・ビジネス・パートナーズが約46億ドル(約5,200億円)で買収すると報じられている。2014年に東芝と仏エネルギー大手GDFスエズ(現エンジー)が買収(その後東芝の100%出資に)した英国の原発事業会社ニュージェネレーションも売却することとしており、韓国電力公社が優先交渉権を獲得している。
一方、東芝の国内事業はどうか。2016年度決算によると、原子力部門の売上高は2015年度2,151億円(営業損益81億円)、2016年度1,821億円(営業損益-451億円)であった。この売り上げの多くは再稼働対応である。もとより、国内原子力事業のみでは事業の生き残りが図れないからこそのウェスティングハウス買収であり、その売却後の展望は描かれていない。なお、2017年には、原子力を含むエネルギー関連事業は東芝エネルギーシステムズ株式会社に分社化された。

三菱重工

2016年度の三菱重工(MHI)の売上は3.9兆円(営業利益1,505億円、営業利益率3.9%)、内原子力を含むパワー部門は1.4兆円(営業利益1,081億円、営業利益率7.5%)だった。MHIは原子力単体での売上高等を公表していないが、公表資料等から約1,900億円と推測できる。
MHIは国内では主に、再稼働と福島第一原発事故対応、核燃料サイクル対応を実施するとしている。海外では、伊藤忠商事や仏エンジ―、トルコ発電会社(EUAS)などとトルコの黒海沿岸のシノップで4基の原発(事実上破たんした仏原子力企業アレバとの合弁企業ATMEAが開発した炉型ATMEA1)の建設計画を進め、加えて、再建中のアレバへの出資を行っている。
アレバは87%政府出資の国営企業だが、仏フラマンビル原発3号機やフィンランドのオルキルオト原発
3号機の建設などで巨額の損失を計上し経営再建中だ。同社の核燃料・再処理部門はNew Areva Holdings
(NewCo)として分社化(1月22日、社名をORANOに変更)、原発部門アレバNPは現在建設中の原発分を除いて別会社化され、社名もアレバに統合される前の旧社名であるフラマトムに戻る。再編されたフラマトムにはMHIが19.5%(約4.83億ユーロ、660億円)、フランス電力公社(EDF)が75.5%、仏エンジニアリング大手Assystemが5%を出資する。MHIはORANOにも日本原燃とともに5%(2.5億ユーロ、340億円)ずつ出資する。ATMEAについても、EDFとMHIが折半出資する形で再編する。
シノップ計画については、現在MHIが実施している事業可能性調査が3月までに完了する見込みだ。総コストは220億~250億ドル(2.4兆~2.8兆円)とされる一方、トルコ側からシノップ原発からの電力
を固定価格で買い取るなどの提案はなされておらず、事業収益性に問題があるとみられる。さらに、地元の反対運動も根強い。

(松久保肇)