核燃料サイクル政策と核拡散の危険

核燃料サイクル政策と核拡散の危険

2005.7.10(講演資料)
原子力資料情報室
共同代表 伴英幸

【PDF版】図版つき

1.原子力発電をめぐる現状

取り巻く状況:
(1)事故多発状況は続いている
(2)新原子力長計(以下、新長計)での議論「近年、電力自由化に伴い、法的供給独占による需要確保や総括原価主義によるコスト回収の保証がなくなり、この決定(原子力発電所の建設を決定)に際して経済性、投資リスクの比重が以前に比して相対的に上昇している。加えて、我が国社会の成熟化に伴い電力需要の伸びが鈍化してきていることもあって、電気事業者は回収に長期を要する大型の投資に対してより慎重な姿勢を示すようになってきている。」(新長計案)つまり、電力自由化の中で原子力の新規立地・増設は困難な状況。
(3)推進側の期待と対策:
①既存原発の設備利用率の向上、定検短縮や長期間運転、出力増強→過酷な使用状況
 →定検短縮で労働者の悲鳴、安全への不安(福島県へ内部告発)
②「2030年以後も総発電電力量の30~40%程度という現在の水準程度か、それ以上の役割を期待することが適切」(新長計案)と現状維持を打ち出した(図1)。これは、原子力発電の出力を一定に(5800万kW)維持することが前提となっている。原発廃炉に対して建替え(リプレイス)を方針として打ち出すことで、原子力産業の維持を狙った方針→総合エネルギー調査会(経産省諮問委員会)原子力部会で新型軽水炉研究か
③建替えよりも省エネと自然エネルギーを!

2.核燃料サイクルをめぐる現状

(1)再処理政策は踏襲されたが…
①長計議論ではコスト高が明らかに→国民負担の増加
②再処理政策放棄で原発も止まる→青森県の地域振興が鍵
③事故多発と品質管理の欠如→再び燃料貯蔵プールから水漏れ、ガラス固化体貯蔵施設での設計ミスなど→運転に不安つのる(青森県民の80%以上が不安)
④プルサーマルは西から東へ?→止め続けることが鍵となる(東電発注のプルサーマル燃料の製造は中断中)
(2) 「もんじゅ」も進みだしたが…
①政治的取引(福井新幹線とエネルギー開発研究拠点化計画への財政支援)が推進力
②最高裁判決の問題点と再審請求
③2050年から実用化?(図2)
「「もんじゅ」等の研究の成果に基づいた実用化への取組を踏まえつつ、ウラン需給の動向等を勘案し、経済性等の諸条件が整うことを前提に、2050年頃から商業ベースでの導入を目指すこととする」(新長計案)
④「もんじゅ」と核兵器級プルトニウム

3.世界の核拡散状況と六ヶ所再処理工場

①被爆60年とNPT再検討会議(ニューヨークでのキャンペーン(別紙))
 NPT再検討会議初日にコフィー・アナン国連事務総長の演説より
「核兵器の材料を作ることのできるウラン濃縮と再処理の技術を何十もの国が開発し、短期間で核兵器を作るテクノロジーを持ってしまえば、核不拡散体制は維持する ことができなくなる。…一つの国がそのような道を進めば、他の国も、自分たちも同じことをしなければと考えてしまう。そうなればあらゆるリスク--核事故、核の違法取り引き、テロリストによる使用、そして、国家自体による使用のリスク--が高まることになる。」
②東北アジアの非核地帯化の重要性

4.新長計に対する意見募集への取り組みのお願い

国民の意見の反映していない!ことを明確に示すための手段として
多くの意見を寄せよう

図1)エネルギーと原子力発電
図2 議論なく出てきた高速増殖炉への期待図

別紙)ニューヨークでのキャンペーン
ノーベル賞受賞者4名を含む200名ほどの世界の著名人が署名
本島元長崎市長も署名 (より詳しい経過はkakujoho.net)
六ヶ所使用済み燃料再処理工場の運転を無期限に延長することによってNPTを強化するようにとの日本への要請
国際社会は、核兵器に利用できる世界の核分裂性物質 ─ 高濃縮ウラン(HEU)及び分離済みプルトニウム ─ の量の最小化を、優先順位の高いものにすべきである。それは、核軍縮と核不拡散を推進するとともに、テロリストが核兵器を手に入れるのを防ぐことにつながるだろう。しかし、日本は、工業規模の分離済みプルトニウムの製造者として、いくつかの核保有国の仲間入りをしようとしている。核不拡散体制がその最大の試練を迎えている時に、日本は、六ヶ所再処理工場の運転開始の現在の計画を進めるべきではない。
「核兵器の不拡散に関する条約(NPT)」の下における公式の核兵器国(米国、ロシア、英国、フランス、中国)は、兵器用のプルトニウム生産を中止しており、HEUの生産については、いかなる目的のものも中止している。しかし、フランス、英国、ロシア、及びインドは、大規模な形で、民生用の発電用原子炉の使用済み燃料からプルトニウムを分離し続けている。
この活動の結果、民生用の分離済みプルトニウムの世界の保有量は増え続けており、2003年末現在で235トンに達している。この量の原子炉級プルトニウムがあれば、3万発の核兵器を作ることができる。それぞれが、広島・長崎の原爆と同等の破壊力を持つものとなる。また、いろいろ間違ったことが言われているが、テロリストも、民生用のプルトニウムを使って強力な核兵器 ─ 少なくともTNT火薬換算で1000トン(1キロトン)の破壊力を持つもの ─ を作ることができる。
ドイツ、ベルギー、スイスを初め、多くの国々が、予見できる将来、使用済み燃料からのプルトニウムの分離を中止することを決めている。分離にもっとも熱心な国の一つだった英国でさえ、数年内に全ての再処理をやめることになりそうである。外国と国内双方で関心が低下してしまったためである。実をいうと、英国の分離プルトニウムの量の増大の危険性を警告する声が、英国内の著名な人々から上がっていた。おそらくもっとも注目に値するのは、1998年に、英国王立協会が、社会的に安定している英国においてさえ、「プルトニウムのストックが、いつか、違法な核兵器製造のために取得されてしまうという可能性が、非常に心配される」と警告したことだろう。
日本は、1997年12月1日、日本の核燃料サイクルは余剰プルトニウムは持たないとの原則に基づくと宣言した。しかし、2003年末までに、日本のプルトニウム総保有量は、宣言当時の24.1トンから40.6トンに増えている。核兵器5000発ほどを作るのに十分な量である(現在約5.4トンが日本にあり、残りは、フランスと英国の再処理工場で日本のために保管されている)。
この膨大な量のプルトニウムの存在にもかかわらず、日本の原子力発電業界は、六ヶ所村の新しい使用済み燃料再処理工場の商業運転を2007年に始めようとしている。使用済み燃料を使った試験は、2005年12月に開始予定である。六ヶ所工場は、その設計通りの能力で運転されれば、年に約8トンのプルトニウムを分離することになる。1000発の原爆を作るのに十分な量である。六ヶ所工場が運転されれば、日本の国内のプルトニウム保有量が大幅に増え、日本が宣言した余剰プルトニウムを持たないという目標の達成が何年も延期されることになる。さらに、余剰プルトニウムが大量にあるにもかかわらず六ヶ所を運転すれば、NPTを強化するという日本の約束について深刻な懸念をもたらすことになる。
六ヶ所工場は、核兵器を持っていない国における最初の工業規模再処理工場であるから、その計画通りの運転は、また、他の国々 ─ イランや北朝鮮を含む ─ が再処理施設や濃縮施設を作るのを思いとどまらせるためになされている国際的努力の弊害となる。
日本は、核兵器国「クラブ」に加わらないという素晴らしい賢明さを示して見せた。私たちは、日本が分離済み民生用プルトニウムのストックの過剰をこれ以上増やさないとの決定をすることによって同じようなリーダーシップを示すよう願ってやまない。その意味で、2005年NPT再検討会議開催に際して、私たちは、六ヶ所再処理工場の運転を、さらには、放射性物質を使った施設の試験を無期限に延期するよう日本に要請する。