韓国で中・低レベル放射性廃棄物の最終処分地選定の住民投票

韓国で中・低レベル放射性廃棄物の最終処分地選定の住民投票が実施されました。その運動期間中(10/12~17)、市民団体のシンポジウムに参加するため現地を訪ねました。

処分場探し20年

 韓国では政府(産業資源部)が放射性廃棄物の管理・処分地選定の責任を負い、原発を運転する韓国水力原子力株式会社にも廃棄物管理プロジェクトの推進が義務づけられています。計画中の処分場では、RI廃棄物等を含むすべての中・低レベル放射性廃棄物の最終処分場(200リットルドラム缶で最終的には80万本分、2008年稼働開始)と、韓国は使用済燃料の再処理を行わないので高レベル廃棄物である使用済燃料の中間貯蔵施設の建設が予定されていました。事実上国内のすべての放射性廃棄物が集中し、高レベル処分場となる可能性もあるのです。そのため過去20年間、候補地の公募や強権的な選定→住民の激しい反対運動→選定の撤回という過程が何度も繰り返されました。以前、扶安の抗議運動を報告したように、住民の放射性廃棄物処分場に対する抵抗運動は非常に強く選定作業は行き詰まっていました。

四自治体が立候補

 扶安住民の強烈な抗議闘争に対し政府は住民の意思を無視し社会的混乱を招いたことを謝罪しました。しかしその反省もないまま、その後も自治体に処分場への立候補を促すための政策が次々と打ち出されました。主なものは、1)中・低レベル放射性廃棄物最終処分と使用済燃料の中間貯蔵施設の分離、2)中低レベル処分地に使用済燃料関連施設の建設を禁止する規定の明文化、3)特別支援金支給(約3000億ウォン:約286億円)、4)廃棄物搬入手数料支給(50~100億ウォン:約5~10億円)、5)韓国水力原子力株式会社の本社移転、6)地域振興のための特別制度の導入、7)選定手続きに住民投票の義務づけ、8)陽子加速器施設の誘致、等々です。
 さらに具体的なサイト公募の手続きとして、1)サイト選定委員会を設置(適合性の評価)、2)議会の同意を得て自治体首長が応募する、3)住民投票で賛成率が一番高い自治体を候補サイトとする、4)応募は2005年8月末締切り、住民投票は10月実施、と決定されました。この公募に慶州(キョンジュ)市、群山(グンサン)市、浦項(ポハン)市、盈徳(ヨンドク)郡の四自治体が応募し、これらの地域で誘致の是非を問う住民投票が実施されました。

六ヶ所村は地域振興の成功例?

 処分地選定の政治過程進行の一方で、処分場候補地の住民は座り込みで事前調査に抗議するなど候補地の応募に反対してきました。しかし対象となる基礎自治体としての慶州市(人口約28万人)、群山市(約27万人)、浦項市(約51万人)、盈徳郡(約4.5万人)では、それぞれの候補地域は事実上の過疎地という大きなハンデを背負い、反対運動の声が広がりにくい状態でした。日本と同様約3000億ウォンという支援金で地域振興をという思惑が首長や自治体議員にあり、強力な誘致運動が展開されました。その地域振興の成功例として六ヶ所村が盛んに宣伝されていたのです。これに対し韓国の環境運動連合(KFEM)は、日本(澤井)、とアメリカ(Erin Rogers)のパネラーによるシンポジウムを候補予定地の4ヶ所で開催しました。私たちは、六ヶ所村や青森県が決して豊かになっておらず現に六ヶ所のイカが買い叩かれている実情や、すでに処分場から放射能が漏れ出ているアメリカの実例を示し、核施設で地域振興に成功した例などどこにもないことを報告しました。
 
不正・不法行為が続出!

 10月1日から開始された住民投票運動で推進側はまず投票率(有権者の1/3以上)を確保して投票を成立させ、さらに多数の賛成票を得るため公務員による誘致宣伝活動や不在者投票対策に大量の公務員や地域組織役員を動員しました。市民団体の反核国民運動の調査では、本人以外の不在者投票申告が調査対象者の40%以上に上っています。さらに不在者投票用紙の入った多数の封筒が村役場のごみ箱やソファーに山積みされていたり、投票の際に職員が賛成への誘導を行っていたことも明らかになっています。
 有権者の60%を60歳以上が占める盈徳郡では、お年寄りや体の不自由な人が役場職員に付き添われて投票に動員され、「”賛成”に記入しろと言われた」と証言しています。各地で金銭による誘致賛成への買収工作などあらゆる不正・不法行為が繰り出されたことが告発されています。その結果不在者投票の投票率が50%を越える地域も出て、第2次世界大戦後60年間なかった前代未聞の事態となりました。

 11月2日に行われた住民投票は、慶州市(投票率70.8%:賛成率89.5%)、群山市(70.2%:84.4%)、盈徳郡(80.2%:79.3%)、浦項市(47.7%:67.5%)という結果でした。賛成率が一番高かった慶州は日本の京都と奈良を合わせたような歴史的地域を含みますが、韓国政府は慶州市を候補地とする手続きを進めると公表しています。しかし住民投票自体が様々な違法行為にまみれ民意を反映したものでないことは明らかで、政府や電力会社が権力や金権によって都合の良い結果を得るために利用したのが実態です。民主的手続きさえ踏みにじって強行された処分場選定を韓国の民主勢力は認めておらず、今後も闘いが続くことは確実でしょう。

(澤井正子)