タニムラボレターNo.002 正確な測定値を得るために(つづき)

『原子力資料情報室通信』第458号(2012/8/1)より

正確な測定値を得るために(つづき)

前号では、強制的に環境温度を変化させた場合は放射能測定値(ベクレル)の誤差の幅が大きくなったことを報告しました。
放射能濃度は、核種固有の崩壊エネルギーをもつ放射線(ガンマ線)が何回カウントされたかを測定し、サンプル質量や容器形状の影響を考慮して算出します。今回の測定では、それらは一定で行いました。

図1 セシウム137の壊変図式
(アイソトープ手帖改定9版をもとに著者作成)

核種固有の崩壊エネルギーは決して変わらない値で、共通の知見として得られています。図1に壊変図式の例を示します。セシウム137は、30.07年の半減期でベータ崩壊をし、その94.4%が不安定なバリウム137mに変化して、その後、半減期2.552分で661.7キロエレクトロンボルト(keV)のガンマ線エネルギーを放出しながら安定状態のバリウム137に変化することが分かります。このことから、661.7 keVのガンマ線エネルギーが観測されると、間接的にセシウム137があると推測できるのです。

 

図2 ガンマ線スペクトルの温度影響

得られたガンマ線スペクトルを図2に示しました。エネルギーの大きさを横軸に、量を縦軸に表しています。測定対象(この場合661.7keV)のガンマ線がどのくらいの量観測されたかは、対象領域(ROI)でベースラインを超えるピーク面積から求めます。
当室の測定器はROIを固定して面積を計算しています。スペクトルを確認したところ、図2にあるように温度上昇によってピークが左にシフトしていました。その結果、算出面積が変化したために、ベクレル数が変化していました。実際、得られたスペクトルとROIを比較すると、左右対称なピークをROIにしているセシウム134は温度影響を受けにくく(1ベクレル以下/℃)、左右非対称なピークをROIにしているセシウム137では大きな影響(5ベクレル/℃)を受けていました。
7月の初旬には栃木県北部の試験農場で、ジャガイモの収穫を行いました。次号は測定結果を報告します。

(谷村暢子)

タニムラボレターNo.000
cnic.jp/1377

タニムラボレターNo.001
cnic.jp/1393

 

 

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