タニムラボレターNo.000
2012年4月、原子力資料情報室内の一画に放射能測定室”タニムラボ”が誕生しました。ここでは放射性セシウムの土壌から植物への移行に関する調査を行います。生産物の放射能濃度の測定だけでなく栽培環境や土壌の調査分析も行い、セシウムがどのように蓄積し、どのように挙動するのか、農作物への移行はどの程度かを調べる予定です。調査研究を通じて、福島原発事故後の環境下で農業を安心して継続するための方策の糸口を見つけ出したいと考えています。
食品のきめ細やかな放射能調査を目的とした放射能測定所はありますが、当室の目的は、より生産者側に寄り添ってともに考えて行動・調査することにあります。調査結果を本誌で報告し、生産者と消費者の間にある、“情報が分からないことからくる不安”を最小化できればと思います。結果だけでなく測定作業でのトライ&エラーも報告し、測定の現実的な課題も報告します。
これまでに福島県と栃木県北部の2組の農家との共同研究体制を構築しました。対象生産物は、じゃがいも、たまねぎ、大豆などとし、生育環境は、肥料の差、耕起の有無などに着目します。現実の生育環境に拘り実際の農場を試験場にしました。一番大きな試験農場は700平方メートル以上あります(写真)。
放射能測定器はヨウ化ナトリウム(NaI)シンチレーション検出器を用います。米国の助成団体からの申し出がきっかけで購入することができました。土壌の分析は、粒度、pH、イオン濃度、酸化還元電位等を測定します。分析作業は筆者と分析実務経験のあるボランティアスタッフの協力を得て行い、理事の古川路明をはじめ複数人の専門家がアドバイザーになっています。
放射能測定活動の研究交流会に参加
開所に先立ち3月25日、高木基金主催の市民グループによる放射能測定活動の研究交流会に参加しました。参加団体は、市民の放射能測定所や、測定所立ち上げ準備段階の人々、放射能汚染の低減に取り組む農家、子供の遊び場の汚染状況を調査したい保育士など15団体でした。日本全国に多くの市民の測定所が出来つつあります。できるだけ被ばくする人を減らしたいという思いから行動を起こした市民の方々です。交流会を通じて、測定するための知識の共有が不十分であること、測定所の運用が手探りの段階であることが分かりました。測定の仕組みは何か? どんな測定器がいいのか? 測定結果はどう解釈すれば良いのか? サンプルの前処理は? 取得データの取り扱いは? 情報公開の範囲は? 筆者も含め、参加者の多くは原発事故以降に放射能を学び始めた人々で、放射能の専門的な教育を受けてきてはいません。知識の共有と測定の信頼性向上が急務であることが確認されました。
放射能測定器の選定ロジック
筆者らは昨年11月から放射能測定器の選定を開始しました。測定器の種類や仕様は様々なものがありますが、選定にあたって上図のロジックで考えました。結論として予算内で可能な限り低濃度の放射能が測定できる機種はどれかを判断基準としました。
測定対象核種は放射性セシウムに決定しました。放射性ストロンチウムによる被ばくも無視できませんが、ベータ線核種の測定は核種を化学的に分離する必要があり、そのためには発煙硝酸法などの専門的な処理技術が必要であるため、筆者らには取り扱えないと判断しました。
ガンマ線測定器は、ゲルマニウム(Ge)半導体検出器とNaIシンチレーション検出器が候補にありました。前者は精度がよい装置ですが、価格が2000万円以上し半導体検出器の冷却(液体窒素などによる)が必要で、測定を継続する維持費が大きいため不適切と判断しました。Ge半導体検出器での測定は必要に応じた外部委託によるクロスチェックを考えています。
NaI検出器の購入先の選定には、日本アイソトープ協会が購入可能な業者を一覧にまとめたものを活用しました(現在はHPから削除されている)。NaI結晶が大きく試料容器が大きいものほど微量の放射能まで測定可能で、遮蔽が強いほど周りの放射線の影響を受けずに精度よく測定できます。一覧によると購入可能なNaI結晶のサイズは1?3インチまでの幅がありました。直径3インチ×高さ3インチの結晶で、1リットルのマリネリ容器(検出器のセンサー部分をすっぽり覆う測定容器)が使用可能な業者にコンタクトを取り、価格や遮蔽体重量の調査をしました。3社に絞った後、ショールームにサンプル試料として千葉県産の玄米を持ち込み、デモ機で使い勝手を確認しました。技術営業担当者との会話を通じて価格と対応やサービスを確認し、最終的に1社を選出しました。
これから毎号タニムラボレターにて進捗状況を伝えていきます。よろしくお願いいたします。
(谷村暢子)