新大綱策定会議奮闘記(8)核燃料サイクルの選択肢、決まる

『原子力資料情報室通信』第456号(2012/6/1)より

新大綱策定会議奮闘記(8)
核燃料サイクルの選択肢、決まる

 原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会(以下、小委)は5月16日の会合で、エネルギー・環境会議(エネ・環会議)から求められていた核燃料サイクルの選択肢案をまとめた。ここではこれまでを振り返り、感想めいたことを書くことにした。なお、エネ・環会議は別途基本問題委員会でまとめられるエネルギーの選択肢と併せて「国民的議論」を進めることになるが、その結果を受けた核燃料サイクル選択肢の最終まとめは新大綱策定会議で行われる。

3つの選択肢と留保

 まとめられた選択肢は1全量再処理、2再処理と直接処分の併存、3全量直接処分である。ただし、全量直接処分でもガラス固化の研究は継続する。すでに高レベル放射性廃液があるからだ。

 それぞれについて利害得失が評価された。事務局は3が極力不利になるような評価を繰り返していたので、筆者は、最終局面で意見書を書いて字句修正を主張した。すべてが反映されたわけではないが、言いたいことは言った。

 現状の政策はどこにあるのか、相当早い時期に現状を共通認識すべく議論を始めたのだったが、鈴木座長がその議論は後送りしたいとのことで、引き下がっていた。その後、そろそろ再開しようと考えていた矢先に山名委員から現状は?だとの発言があった。山名委員は常に再処理が必要という自己の見解と結論を展開していて、選択肢の提示というミッションが頭から抜けている発言が目立ったのだったが、その彼の認識ですら現状はすでに全量再処理路線ではなかった。現行の原子力政策大綱(以下、大綱)では「中間貯蔵された使用済み燃料およびプルサーマルに伴って発生する軽水炉使用済みMOX燃料の処理の方策は?2010年ごろから検討を開始する」となっていて再処理するとは書いていない。これが?が現状と認識する根拠だ。とは言え、現行の大綱は、全量再処理を基本としているので、事務局はあくまでも1の全量再処理が現行政策という立場である。

併存の意味

 2にも受け止め方のニュアンスが異なっていて、山名委員はあくまでも将来に直接処分を判断すれば良いという意味の併存だ。鈴木座長は将来ではなく、今からの併存可能とした。表現では、「再処理と直接処分のいずれも可能である」と定義し、「直接処分の実用化に向けた研究開発に着手」すると書き込んだ。

 現行の大綱では、不確実性への対応として、「直接処分技術等に関する調査研究を、適宜に進めることが期待される」となっているが、期待に反してこの5年間まったく進展がなかった。直接処分への歩みを一歩強めることを求めたわけだ。山地委員は、使用済みMOX燃料は直接処分する、と明記するよう求めたが、これは入れられなかった。1を現状とする事務局の立場から言えば、2は現行政策の変更と言える。

危険な判断留保案

 以上3つに加えて、留保(選択肢判断の一定期間の保留)という選択肢が入りかけた。近藤駿介原子力委員長は選択肢の一つとして認識していたと発言し、それまでも選択肢としてあり得るとの発言を何回か行なっていた。だが、結局そうはならず、選択肢が決まらない場合のオプション的な位置づけとなった。

 筆者は全量直接処分がベストと考えているが、留保についても積極的に意見を述べた。筆者のメインの主張が留保であるかのような印象を持たれたのではないかと恐れもしたが、小委のミッションが選択肢を提示することなので良しとした。留保を主張する理由は、馬淵澄夫衆議院議員が5年間の再処理モラトリアムを提言しているので、この動きに繋がれないかと考えたからだ。

 ところが、留保にも二通りある。一つはモラトリアムで筆者が主張していたものだ。六ヶ所再処理工場の活動、J-MOX工場の建設、プルサーマルの活動を停止し、新たな検討委員会を設置して再処理事業の成立性を含めて再評価しようとするものだ。他方は、判断の保留のことで、本格操業には入らないが、再処理、J-MOXの建設、プルサーマルは継続する。これではますます引き返せなくなるとの意見がまとめの中に括弧書きで入ったが、総合評価からは漏れた。総合評価に入れることを求めたが、山地委員や山名委員から再処理撤退を前提とした評価だと、反対があり、入らなかった。

 他方、余剰プルトニウムを持たないという原子力政策の大原則を確認して書き込むことはできた。なし崩し的に計画さえあれば余剰なしとみなしているのが現状で、この間この大原則は後退してきたが、これに一矢報いた。とはいえ、これまで通りのなし崩し解釈のままだろう。

 電気事業者は毎年、六ヶ所再処理工場で回収されるプルトニウムの利用計画を出してくる。この10月から試験再開するのであれば出す必要がある。しかし、福島原発事故の影響を受けて電力各社は利用計画をたてることができないでいる。机上の計画であっても利用計画を出さないうちは再処理ができない。福島原発事故で福島でのプルサーマル計画は破綻した。他の会社も現時点では白紙に近い状態だ。ただ、大間原発の建設が続行することになった段階で利用計画を出してくる可能性がある。

消えた事業評価

 第11回会合で又吉委員が、モラトリアムするという状況になったときには金融市場が資金供与から逃げると、発言していた。留保が選択肢に採用されただけで、日本原燃は資金不足から事業破綻に陥る可能性があるというのだ。それほど危ういところに原燃がいるのだ。運転をすれば再処理積立金が活用できるというのであろう。

 金子勝氏によれば、すでに日本原燃は破綻している状態だという。今やめても破綻、運転を進めても破綻、まさに「不良債権」なのだ。金子氏は新大綱策定会議(以下、策定会議)の委員で、同会議では不良債権の清算を例に、日本原燃が現時点ですでに事業破綻している企業であり、早急に処理することが望ましいと主張している。そこで、筆者は小委員会で、再処理事業の成立性を議論するべきと主張したが、これはしりぞけられた。策定会議でするように求めているが、近藤委員長は踏み込んでいない。

原子力比率ごとに評価

 これらの選択肢をさらに原子力比率ごとに評価した。比率は基本問題委員会の議論を持ってきている。その中には比率35%程度とする案があるが、これは、山地委員が策定会議の議論を基本問題委員会へ持ち込んだものだ。

 それはともかく、比率は35%、20%、15%、0%の4通り。15%案は基本問題委員会で4月終わり頃に急に出てきたものだ。

 0%を主張している筆者だが、15%案も推した。0%と20%、25%、35%が基本問題委員会での選択肢案だった。これでは0%が選ばれなければ20%以上になってしまう。そしてそれは原発の50年以上の運転や新増設を認めるものだから、新増設なし40年運転(設備利用率80%)の結果である15%案を0%でない場合の上限として選択肢に入れたかった。

 核燃料サイクル選択肢の1-3が選択肢として成立するのは、原子力比率35%と20%である。15%は全量再処理の継続はむつかしいと評価された。0%では3しか成立しない。従って、国民的議論を経て決まるであろうエネルギーの選択肢によっては3しか成立しない場合もある。

政策変更にともなう諸課題

 これが曲者だ。全量直接処分への政策変更に伴うリスクとして、A六ヶ所再処理工場にある再処理前の使用済み燃料を各原発へ返送、Bむつ市の中間貯蔵施設は再処理までの間の貯蔵という約束になっているから利用できなくなる、C海外返還廃棄物の受け入れが困難になり、国際問題となる、などが主張された。Aでは使用済み燃料の置場がなくなり原発が動かせなくなるため、火力を炊き増しするので、燃料費が20-30兆円かかるといった試算も登場した。

 今回の小委では、第11回会合(4月12日)の事務局作成資料「政策変更または政策を実現するための課題」に考慮すべき事項の一つとして「海外再処理に伴う返還廃棄物」との文言が入っていた。しかし、このことの説明はなかった。また、第12回会合(4月19日)の事務局作成資料では「再処理を中止するため、~返還廃棄物を受け入れることができなくなる可能性がある」と記載している。事務局説明はなかったが、電事連の小田部長は事務局資料をひいて、基本方針が変更されると「六ヶ所の全事業の停止につながるという可能性は否定できない」とサポートしている。

 同じ会合に電事連から「サイクル関連施設の立地等にかかる社会的受容性について」という資料が提出され、ここには国のこれまでの政策が列挙されており、青森県などとの協定などが資料として記載されていた。しかし、この中にはCは入っていなかった。余談だが、電事連の資料に対して近藤委員長は「原子力委員会としては、過去に決めた政策は必ず継続しなければならないといっているような資料にスタンプを押すことはなかなか難しいと思いますよ」と釘をさした。

 全事業が停止する可能性の根拠は示されていないので、Cはどうやら三村申吾青森県知事(新大綱策定会議委員)がそう騒いでいるらしい。そしてそれが近藤委員長の「苦い薬」発言につながったようだ。東奥日報の報道によれば、3月29日の新大綱策定会議の後の記者会見で「青森県のために日本国の政策を決めるということにはならない」と言った上で「苦い薬でも、飲んでもらわなければいけない薬だったら、飲んでもらうようにするのも政治」と述べた。

 この日の会議での三村青森県知事の発言は、県内での再生可能エネルギーの導入に積極的に取り組んできたが、課題が多いことを述べ、「私ども現場をお預かりしておりますから、国民の生活を守るという観点から責任ある検討をお願い」と述べたにとどまり、筆者には含みは感じられない。海外返還廃棄物をめぐる攻防は陰で行われていたようだ。

 これらの政策変更に伴うリスクは、政策を変更する場合に、国と事業者が協力して、そうならないように避けるべき課題と位置付けるものであって、避けられなかった結果膨大な費用がかかるなどと書き込むべきものではないと主張したが、壁は厚かった。

経済性評価の顛末

 経済性をめぐる議論も同様だった。2030年までにかかる費用を算出する際には、六ヶ所再処理工場の解体費用や借入金などおよそ5兆円を加える形で表を作ってきた(合計欄はなかったが併記されていた)。そして事務局は、これを直接処分のコストに合計して説明した。政策の転換にともなう費用が膨大だと言わんばかりだ。

 内訳は償却資産の見合い費用1.78兆円、再処理工場の廃止に必要な費用1.85兆円、直接処分とガラス固化の処分費用の差1.02兆円、青森から使用済み燃料の返送費用500億円、行き場を失った海外返還廃棄物関連費用2500億円、低レベル廃棄物の六ケ所への受入れが滞る費用600億円、むつ市の中間貯蔵施設中止にともなう費用300億円と並べ立てていた。

 松村委員は「そもそも小委では日本原燃の事業性は扱わないと整理したはずだ」そして「(原発は)膨大な社会的費用をかけないと政策の変更もできない見かけ以上に極めてコスト高な電源であることを電事連が一生懸命強調した資料であると理解すべき」と鋭く指摘した。

 事務局は、鈴木座長が既に投資した分を除いて試算すると言っていたにもかかわらず、上記の費用を合計して考えるべきものと説明した。近藤委員長も合計する主旨のものではないと言った。

 そうはいえ、マスコミ数社が直接処分のコストに合計して報道した(4月13日付)ことから、騒ぎが大きくなった。結局、別のやり方で試算を示すことになった。今度は、再処理費用、廃止費用、廃棄物処分費用から2011年以前に支出した費用、初期建設の減価償却費を除いて算出した。いわゆるサンクコストの考え方を取り入れた(表参照)。これは松村委員が以前から要求していた計算だ。

将来を見通して発生する費用ベースの核燃料サイクル費用

 事務局は間違いを認めたくないので、2030年までのものとサンクコストを考慮したものの二本立てにした。ややこしい限りである。松村委員が「これからどのシナリオをとったら国民全体でどれだけ負担するか示す必要がある」と後者を最初に記載するよう順序に注文をつけたので、後者の試算が先に載ることになった。あらゆる計算は直接処分コストが安いことを示している。しかし、その後も直接処分路線への変更に多大な費用が必要との印象を与えようとする事務局の姿勢はまったく変わっていない。

 選択肢の抽出は一段落した。案は原子力委員会決定を経てエネルギー・環境会議に送られることになる。全量直接処分が一つの選択肢に残るだろう。後は国民議論でどこまで押し出せるかが、私たちの課題といえる。

(伴英幸)

 5月9日の基本問題委員会では、エネルギー選択肢案ごとに経済分析モデル結果が中間報告された。2030年時点のGDP、産業や雇用への影響などだ。一見して原子力比率が小さいほど産業は衰退し光熱費が家計を圧迫する結果になった。説明によるとその強い影響はCO2削減コストという。原発ゼロの案は再エネと省エネを中心とした分散型社会がエッセンスであるのに、引き算で一方的に火力が50%と決められたことの影響だ。

(谷村暢子)


●わたしたちがエネルギーを選ぶ新しい時代へ 原子力資料情報室声明
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●伴英幸提出の新大綱策定会議奮闘記
(7)えっ、原子力35%?? 異常な事態
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(6)核燃料サイクル技術検討小委員会のまとめ
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