原子力小委員会傍聴記 第13 回原子力小委員会の感想
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会が2年半ぶりに開催されました。当室共同代表の伴英幸も委員を務めており、意見書を提出しています。
原子力小委員会傍聴記 第13 回原子力小委員会の感想
1月16日に開催された第13 回原子力小委員会を傍聴した。未だに東京電力福島第一原発事故以前の、再生可能エネルギーの爆発的な普及以前の議論が十年一日のように続けられている。まるで不思議の国に迷い込んだかのような印象だ。
前提をまず確認しよう。2010年度の日本の1次エネルギーの国内供給量は約2,214.4京ジュール、内原子力による供給は246.2京ジュール(全体に占める割合:11.1%)、再生可能エネルギー(水力含む)は113.2京ジュール(同5.1%)だった。一方、2016年度は1次エネルギー国内供給量が2,015.9京ジュール、原子力による供給は15.1京ジュール(0.7%)、再生可能エネルギーによる供給は153.0京ジュール(7.6%)である。日本はこの6年間で198.5京ジュール分のエネルギーを削減したことになる。電力供給については2010年度 1.11兆kWh、内原子力分は0.29兆kWh(全体に占める割合:25.8%)、再生可能エネルギー(水力含む)は0.11兆kWh(同10%)、2016年度は全体が1.05兆kWh、内原子力分は0.02兆kWh(2%)、再生可能エネルギー分は0.16兆kWh(同15%)である[i]。この間、0.06兆kWh分の発電量が減少し、再生可能エネルギー導入促進により0.05兆kWh分発電量が増加したことになる。一次エネルギー総供給量は2011年以降、ほぼ一貫して減少を重ねてきた一方、GDPは実質値で492.9兆円から524.4兆円に増加[ii]した。経済成長とエネルギー需要のデカップリングがこの間進んできたことが明らかとなっている。
一方、世界では、再生可能エネルギーへの投資が加速しており、Bloomberg New Energy Financeの推計によると、2016年の再生可能エネルギーへの投資総額が2,266億ドルであるのに対し、原子力には300億ドルとされる[iii]。この間、再生可能エネルギーへの投資額はおそよ2,000億ドル前後、原子力に対しては500億ドル未満で推移している。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の報告[iv]によると、大規模太陽光発電の均等化発電原価(LCOE)は2010年の36セント/kWh(39.2円/kWh)から2016年には10セント/kWh(11.1円/kWh)へと73%下落した。陸上風力は8セント/kWh(8.7円/kWh)から6セント/kWh(6.7円/kWh)、洋上風力も17セント/kWh(18.5円/kWh)から14セント/kWh(11.1円/kWh)へ下落した。一方、原発の建設コストは長期的に上昇し続けてきた[v]。
しかし、第13回原子力小委員会では、こうした事実を踏まえない発言があった。
今回から委員長代理に就任した山口彰委員(東京大学教授)は、エネルギー自給率は現在8%だが、2010年以前は20%程度あり、原子力は内15%あったと発言した。百歩譲って原子力をエネルギー自給率に含めたとしても、一次エネルギー国内供給量に占める原子力は13%を上回ったことはなく、2010年時点では11.1%であった。
また、複数の委員から再生可能エネルギーの不安定性を強調する発言が見られた。しかし過去、日本では複数回、原発トラブルによって、電力不足に陥っていること。最も顕著な例は、2011年の東京電力福島第一原発事故後の電力危機に伴う計画停電だが、それ以外にも、東京電力が原発で発生したトラブルを隠ぺいしていたことが発覚し保有する原発を停止・点検する必要が生じたことから2003年に電力不足に陥っている。原発のような大規模電源が計画外停止すると、大規模な電力不足に陥る。再生可能エネルギーによる発電でも確かに変動は生じるが、このような大規模停電リスクはない。
複数委員が原子力発電は低廉な電力を供給すると認識しているようだ。しかし、原発を再稼働した電力会社の内、値下げに踏み切ったのは関西電力のみだ。さらに関西電力は確かに高浜原発3・4号機の再稼働に合わせて電力値下げを行ったが、4.3%の値下げの内、原発再稼働による値下げは2.0%であり、経営効率の改善が2.3%であった[vi]。
多くの委員は明らかに原子力を過大に評価している。
さらに、昨年の伊方原発3号機について広島高裁がだした運転差止仮処分命令について、原子力規制委員会が専門性をもって出した判決について司法が介入することを問題視する意見も見られた。東京電力福島第一原発事故以前、司法は行政庁の専門技術的裁量を広く認めてきた。それが行政が「規制の虜」となった一つの要因であったはずだ。さらに、海外では原発に関して規制当局が認めたことについて司法が否定することはなかったとの指摘もあったが、例えばドイツではミュルハイム=ケアリッヒ原発について、連邦行政裁判所が許可を取消す判決を出している[vii]。
原子力小委員会は、原子力委員会が原子力政策大綱を策定しなくなって以降、日本の原子力政策を方向付ける、ほとんど唯一といってよい場になった。少なくとも、各委員の空想の世界での議論ではなく、事実に即した議論が求められる。
(松久保 肇)
[i] www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/results.html#headline1
[ii] www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html
[iii] fs-unep-centre.org/sites/default/files/publications/globaltrendsinrenewableenergyinvestment2017.pdf
[iv] www.irena.org/publications/2018/Jan/Renewable-power-generation-costs-in-2017
[v] www.iiasa.ac.at/web/home/research/researchPrograms/TransitionstoNewTechnologies/06_Grubler_French_Nuclear_WEB.pdf
[vi] www.kepco.co.jp/corporate/pr/2017/0706_2j.html
[vii] BVerwGE 106, 115