訪米報告 ユタ州、アメリカのウラン開発と日本のウランのごみ(前)

『原子力資料情報室通信』第576号(2022/6/1)より

 日本原子力研究開発機構(JAEA)の東濃地科学センター(岐阜県)・人形峠環境技術センター(岡山県・鳥取県の県境)では、過去のウラン開発の遺物として、ウラン鉱などが保管されています(計123トン)。JAEAは以前から、こうしたウラン関連物質を米ユタ州のホワイトメサ製錬所に輸送する計画を温めてきました。すでに2005年、人形峠のウラン残土を同製錬所に輸出しています。しかし、ホワイトメサ製錬所近郊には、ユートマウンテンユート先住民のホワイトメサ居留地があり、住民は製錬所の廃止を訴えています。

 高木仁三郎市民科学基金の助成をいただき、3月31日から4月9日の日程で現地の状況はどうなっているのか、アメリカのウラン開発事情やアメリカ先住民の事情に詳しい玉山ともよさんとともに視察してきました。

 また、今回の訪米では、グランドキャニオンとコロラド高原の環境保護およびアメリカ先住民の人権擁護を行っているNGOのGrand Canyon Trustと、ユタ州で環境問題に取り組むNGOのHeal Utahに多大なご支援をいただきました。

 

訪問箇所

 私たちが今回訪問したユタ州はアメリカ西部にある州で、州都のソルトレークシティの緯度はだいたい青森県と同じです。面積は219,900 km²ですから、おおむね本州と同じぐらいの広さ、人口は約315万人で、その9割はソルトレークシティやその近郊に住んでいます。なお人口の6割以上がモルモン教徒です。

 今回の訪米では大きく4つの目標を立てました。1点目は、ホワイトメサ製錬所とホワイトメサ居留地の訪問およびヒアリング(Cエリア)、2点目はユタ州でのウラン開発状況及びその痕跡の視察(A、B、C、Dエリア)、3点目は、放射性廃棄物の処分状況(F地点)、4点目はユタ州の規制当局へのヒアリング(E地点)です。その観点から訪問箇所を選びました。

訪問先

 

3月31日 渡航、入国

 アメリカン航空の激安チケット(ダラス・フォートワース空港経由ソルトレークシティ空港着)をだいぶ前に購入していました。購入時点では羽田発だったのですが、前日にチェックしたらいつの間にか成田発になっていて驚愕。

 アメリカ入国には新型コロナウィルスの陰性証明書が必要です。しかし、成田空港で陰性証明書を発行してもらうと数万円かかります。ネットで調べてみたところ、羽田空港にある木下グループの抗原定量検査(無料~数千円)でもアメリカに入国できるようでした。そこで、遠回りですが、一度羽田空港によってから、成田空港に行くことにしました。

 抗原検査で無事陰性だったので、成田空港に移動しました(成田と羽田は直通電車があります)。少し心配でしたが、航空会社のカウンターで陰性証明書(スマートフォンの画面)、新型コロナウィルスのワクチン接種証明書を提示したところ、問題なく航空券を発券してもらえました。ちなみに、米国入国時には、陰性証明書やワクチン接種証明書は特に確認

されませんでした。ソルトレークシティ空港で先についていた玉山さんと合流して空港近くのホテルへ。

 

4月1日 モアブへ

 朝、Heal Utahのカルメンさんと合流して、まずモアブへ移動しました(地図上のA地点周辺)。モアブはユタ州を代表するアーチーズ国立公園の最寄りの町です。同時にかつてウラン開発が行われていた場所で、モアブの町はずれには除染中のウラン製錬所跡地があります。

 ソルトレークシティからモアブへは車で5時間程度かかるので、モアブに到着したころにはすでに4時頃でした。でもユタ州の日の入りは8時ごろです。そこで、アーチーズ国立公園を散策しました。

デリケート・アーチ

 

Energy Queen鉱山

 

4月2日 ラ・サル、モアブ、ウラン開発の跡

 この日はUranium Watchという団体を主宰するモアブ在住のサラ・フィールズさんに案内いただき、ラ・サル山脈南側にあるウラン開発跡を訪問しました(Bエリア)。

 まず立ち寄ったのは、Energy Queen鉱山です。この鉱山は1982年まで操業しましたが、その後はウラン価格の低迷から採掘を停止しています。現在はEnergy Fuels社が所有しており、2009年に一度再開が検討されましたが、結局ウラン価格の低迷とともに計画は立ち消えとなりました。

 続いて、ほど近くにあるラ・サル・コンプレックスを訪問しました。ここはラ・サル鉱山、パンドラ鉱山、ビーバーシャフト、スノーボール鉱山から構成されています。もともとは所有者が別でしたが、現在はEnergy Fuels社が所有しています。

 まずビーバーシャフト周辺から見学しました。現在は操業を停止しているためか、非常に興味深いことに、牧場が併設され、牛がウラン鉱の捨て石周辺で散策していました。入り口には門があり、関係者以外立入禁止と書かれていました。ちなみに、この周辺には小学校と郵便局があります。

 その後、約1kmの距離にあるラ・サル鉱山、スノーボール鉱山を見学しました。こちらは敷地境界には柵があるものの、道端に捨て石が積み上げられていました。施設の入り口周辺の空間線量は0.3~0.4μSv/h程度です。捨て石そばで測ってみると、比較的高い線量でした。このような捨て石は、まったく管理されている様子はなく、警告標識などもありません。このように容易に立入可能な場所が管理されていないことに驚きました。

ビーバーシャフト入口

 

放牧されている牛

 

事務所入り口と捨て石

 

ラ・サル鉱山の道端に積み上げられた捨て石

 

捨て石の空間線量(左2.62μSv/h、右2.171μSv/h)

 

 その後、モアブに戻り、1956~1984年までウラン製錬を行っていたモアブ製錬所跡地を見に行きました。所有者は倒産してしまったので、現在はエネルギー省が除染作業を行っています(MoabUMTRA計画)。看板に出ている通り、除染作業で出る廃棄物は鉄道で40kmほど離れたCrescentJunctionに輸送して最終処分されています。2030年代に完了する予定です。なお、後日ソルトレークシティへ戻る途上でモアブを通り過ぎた際、廃棄物を輸送する列車に出くわしました。

 モアブ製錬所の敷地境界周辺で空間線量を計測したところ、私の持って行った空間線量計(ECOTEST製MKS-05“TERRA” Bluetooth)と玉山さんの空間線量計(堀場製作所製PA-1000 Radi)の計測値が大きく異なりました。GM管(前者)、NaIシンチレーター(後者)によると思われますが、他の地点ではこのようなことはありませんでした。敷地境界には放射能標識が出ていました。製錬所はコロラド川沿いにあり、周辺はロッククライミング用の垂直の岩場や、キャンプ場、アメリカ先住民の岩絵などがある観光地です。日常と非日常が非常に近いことに驚きを覚えました。

Moab UMTRA計画の看板

 

旧鉱滓池の状況

 

モアブ製錬所敷地境界周辺での空間線量

 

廃棄物を運ぶ列車、放射能標識が見える

 

モアブ製錬所そばを流れるコロラド川

 

(松久保肇 後編へ続く)

 

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。