訪米報告 ユタ州、アメリカのウラン開発と日本のウランのごみ(後)

『原子力資料情報室通信』第577号(2022/7/1)より

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4月3日 メキシカンハット製錬所跡へ

 モアブを出発した私たちは、ひたすら南下し、ブラフという小さな町で宿泊。翌朝、ホテル近く(といっても車で5分)のアメリカ先住民料理店でフライブレッドを食べました。

 今ではアメリカ先住民のソウルフードといってもいいフライブレッドですが、複雑な背景があります。19世紀半ば、アメリカ先住民は各地で移住を強制され、伝統的な生活様式から切り離されました。そして、それまで栽培していた豆などの主食は穫れなくなった結果、米政府から配給された安価な小麦粉、ラードなどで作ったフライブレッドを食べるようになりました。つまり生存のために強いられた食生活だったのです。私たちが食べたフライブレッドもそうでしたが、カロリー、脂質などが見るからに高い。そのためもあってか、アメリカ先住民の肥満率は高く(人口に占めるBMI30以上の比率は42.9%)、平均寿命も他人種と比べて短くなっています。

 朝食後、メキシカンハットと呼ばれる奇岩の近くにあるメキシカンハット処分場に立ち寄りました。幹線道路のすぐそばにあるこの処分場は、1950~60年代に操業していたメキシカンハット・ウラン製錬所の跡地で、そこから出た残渣や残渣を利用して作られた建造物(学校含む)のがれき、また近隣のモニュメントバレーのウラン製錬所の残渣などを処分しています。監視カメラなどはありませんでしたが、鉄条網などで覆われ、またあちこちに米エネルギー省が管理する放射性廃棄物処分場である旨を示す看板が立っていました(空間線量率は毎時0.15μSv程度)。

 その後は、モニュメントバレーという、いかにもアメリカ西部という印象を受ける観光地に行きました。ここにもウラン採掘の傷跡が残るからです。モニュメントバレーはナバホ先住民の居留地の中にある広大なエリアで、赤茶けた砂漠の中に巨大な岩が点在しています。モニュメントバレー内に住んでいる女性に話を伺ったところ、ウラン試掘跡がきちんと管理されておらず、被ばくによって、父親は健康を害したそうです(国からの保障を受けている)。また、雨がほとんど降らないエリアなので、水はとても貴重なのですが、ウラン採掘などによって水が汚染され、農業や牧畜には不向きな場所になったため、生計は、モニュメントバレーにやってくる観光客相手の土産物店で立てているのだそうです。

 

訪問先

 

アメリカ先住民料理

 

メキシカンハット放射性廃棄物処分場

 

モニュメントバレー

 

4月4日 ホワイトメサへ

 翌日はまずホワイトメサ製錬所から南に8.5kmの距離にあるユートマウンテンユート先住民のホワイトメサ居留地にすむマイケル・バッドバックさんを訪ねました。バッドバックさんは長年ホワイトメサ製錬所に懸念の声を上げてきたかたです。

 住民が一番心配しているのは水の問題です。製錬所のいくつかある鉱滓池のうち一つはすでに水漏れが発生しているからです。この汚染された水が飲料水を採取しているナバホ帯水層に到達することが懸念されています。また、工場からは風向きによって異臭が漂ってきており、人々の健康に影響がないか心配だと話していました。

 次に、Energy Fuels社のホワイトメサ製錬所を訪問しました。あとで知りましたが、この時出迎えてくれた同社のカーティス・ムーアさんは、この日の朝、プライベートジェット(!)で本社のあるコロラド州から来てくれたのだそうです。

 ホワイトメサ製錬所では、最初にウランやバナジウム、そしていま同社が力を入れているレアメタルの製錬方法のガイダンスののち、施設を案内してもらいました。1980年代に操業した工場で古びた箇所も目立ちましたが、全米唯一のウラン製錬所ということもあり、職員は誇りをもっているようでした。施設内の撮影は許されませんでしたが、案内されたうちで最も高い箇所は毎時約3μSv程度でした。Energy Fuels社の説明によれば、ナバホ帯水層の地下水は年間数メートルしか移動しないので、鉱滓池の漏れによってホワイトメサ保留地に影響が出るのはずっと先のことになるとのことでした。

 ホワイトメサ製錬所を視察した後、Grand Canyon Trustのティム・ピーターソンさんのアレンジで、セスナ機で周辺を飛行してくれる地元のNPOエコフライトのツアーに参加して、ホワイトメサ製錬所上空を飛行しました。聞くと、フライト費用はエコフライトが持ってくれていたのだそうです。

 

4月5日 ベアーズイヤーズ国定保護区とウラン

 4月5日、ティム・ピーターソンさんの案内で、ベアーズイヤーズ国定保護区の一部を回りました。この保護区は2016年12月、オバマ政権末期に指定されたユタ州南東部にある自然・文化保護区です。5,500km2ものエリア内に、アメリカ先住民の聖地、様々な遺跡、美しい自然環境が保護されています。

バッドバックさん宅にて

 

 一方、保護区内にはウラン鉱脈を含む天然資源が埋蔵されており、トランプ政権になると面積が85%縮小、その後、バイデン政権になると元に戻されるという変遷をたどってきました。なお、この動きにはEnergy Fuels社も大きく関与しています。なぜなら、ホワイトメサ製錬所は保護区に隣接しており、さらに同社は保護区域内のウラン採掘のために保護区を縮小するようトランプ政権に要望していたからです。

 保護区では、まず、アメリカでもっとも最近に掘られたウラン鉱であるイージーピージー(スラングでとっても簡単、という意味)鉱山に立ち寄りました。この鉱山はトランプ政権下で保護区が縮小された2018年に試掘が行われ、およそ30トンのウラン鉱が回収されましたが、ウラン価格が低迷していたことから採掘を停止、その後、保護区の復元により休鉱となったとのことです。

 周りの風景はほとんど変わりない中、放射線量が高いといった標識は何もなく突然鉱山は現れます。採掘用の機械のうち、いくつかはそのまま放置され、管理されている様子はありません。周辺に坑道を掘る際に捨てられたと思われる捨て石が積み上げられていたので、線量をはかってみたところ、毎時1μSv程度でした。せっかくなので、実際に坑道に入ってみましたが、中の空間線量率はおよそ毎時2~3μSv程度でした。

 その後、ベアーズイヤーズの名前の由来となったアメリカ先住民の聖地である山のふもとや、雄大な風景を楽しみましたが、一日回っても、広大なベアーズイヤーズ国定保護区に触れただけだそうです。

ホワイトメサ製錬所上空をセスナから撮影

 

4月6日 一路ソルトレークシティへ

 翌日は、午前中、Traveling School(3か月間、全米から集まった女子高校生が旅をしながら様々な社会問題に触れながら学習するという非営利団体が提供するカリキュラム)の学生からのインタビューや、地元紙記者との意見交換をした後、ソルトレークシティへ戻りました(約500km)。

 

4月7日 ユタ州規制当局へのヒアリング、抗体検査

 ホワイトメサ製錬所への規制は原子力規制委員会とユタ州では環境品質省(DEQ)の廃棄物管理・放射線管理局が担当しています。そこでユタ州の規制当局にホワイトメサ製錬所への規制と、JAEAの放射性物質輸入問題についてヒアリングを行いました。

 規制当局側の観点からは、ホワイトメサ製錬所の操業による顕著な汚染は見られない、また製錬所周辺の風向きは主に南から北に向かうため、南側にある保留地に大きな影響は考えられない、悪臭については、保留地内にある下水処理施設が問題なのではないかと話していました。なお私たちが保留地に行った際、下水処理施設にも若干立ち寄りましたが、特に匂いはしませんでした。

 インタビュー後に、もう一つ訪問したかったEnergy Solutions社(テネシー州では廃炉から出る大型金属リサイクルを、ユタ州では低レベル放射性廃棄物処分場を運営している)が、全く返答してくれなかったと愚痴を言ってみたところ、急遽、翌日連れて行ってもらえることになりました。

 

Easy Peasy鉱山

 

クライブ処分場、廃棄された蒸気発生器など

 

またこの日は、9日に帰国するため、Walgreens(薬局チェーン)のドライブスルーで抗体検査を受けました。ウェブ予約の上、ドライブスルーの窓口に行くと、綿棒で鼻の奥の検体を採取するタイプの抗体検査キットを渡されるので、検査しました。すべて車の中で完結します。さすが車社会だなと思いました。

 

4月8日 クライブ処分場へ

 朝、DEQのオフィスを再訪すると、州の車(Jeepラングラー)に乗り換えて、ソルトレークシティから1時間半ぐらいの距離にあるクライブ処分場に連れて行っていただきました。

 クライブ処分場は米国に4か所ある低レベル放射性廃棄物処分場の一つでクラスA(日本のL3相当)のもののみが処分されています。現在、劣化ウランの処分について審査が行われている(すでに施設で管理されている)そうでした。

 空軍の爆撃訓練場だった敷地(爆撃によってできたクレータ跡などもある)に、廃棄物が処分されています。クライブ処分場の職員に放射線管理区域外を案内してもらいました。驚くのは、蒸気発生器などの大型機器が野ざらしで置かれていることです。将来的には埋設するといいます。Energy Solutions社は大型機器の金属リサイクルを商売にしていて、日本もこの話に乗りたがっているという話をしたところ、案内してくれた職員が「あんなものゴミにしかならない。どうするつもりだ」といっていたのは印象的でした。

 

感想

 今回、とても印象的だったのは、放射性廃棄物の管理のムラでした。処分が完了している場所では空間線量率も特に気になるレベルではありませんが、操業中の施設や放置されている鉱山などでは非常に高い空間線量率にもかかわらず、何らの管理も行われていません。安全に対する哲学の違いもあるのかもしれませんが、米国で行われているという合理的な原子力規制の実態を垣間見る旅でした。

 

(松久保 肇)

 

 

 

 

 

 

 

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