北海道・神恵内村「高レベル放射性廃棄物の地層処分に関するシンポジウム」 参加報告

『原子力資料情報室通信』第577号(2022/7/1)より

 2020年11月に北海道の寿都町と神恵内村で、高レベル放射性廃棄物処分場選定手続きの一環として、文献調査が開始されて以来、1年半以上が経過した。その間、両自治体では、処分場選定を担当するNUMO(原子力発電環境整備機構)が「対話の場」を設け、地域住民とのコミュニケーションを図ってきた。NUMOは、対話の場を地層処分推進のための合意形成の場ではないと形式的には説明するものの、実質的にはNUMOが主導的に地層処分の理解促進活動を展開してきた。地域住民や市民社会からは、対話の場が住民への懐柔策としてしか機能していないという批判も上がっていた1)。

 今まで神恵内村では8回、対話の場が開催されてきたが、その間、対話の場の運営委員会および村民からNUMOとは違う意見、反対の意見も聞いてみたいという声が上がっていた。そこでNUMOは5月29日に、地層処分に賛成/反対両方の専門家を招き、神恵内村漁村センターで「高レベル放射性廃棄物の地層処分に関するシンポジウム」を開催した2)。賛成側の専門家として名古屋大学博物館の吉田英一館長、反対側の専門家として当室の伴英幸共同代表が参加をし、筆者も同行した。

 シンポジウムは政策面、技術面の2部で構成された。政策面については、伴共同代表が、無用な地域内の混乱を避けるため、当該自治体の知事の同意も得たうえで、文献調査を開始する必要があると指摘した。文献調査段階で交付金を支給することは、貧しい自治体が交付金に誘惑され応募してしまう可能性があるため望ましくなく、巨額の交付金が地場産業を衰退させる副作用もあると述べた。また、処分しなければならない高レベル放射性廃棄物の種類と総量確定の必要性についても言及した。プルサーマル発電後の高レベル放射性廃棄物は現状では再処理不可能で、事故後の福島原発デブリなども処分先は決まっていない。全量再処理はコストの面で明らかに問題があり、見直しは必至な状況だ。種類や総量が不確定のまま、処分地選定を先行させるのはおかしいと批判した。一方、100年単位の長期保存を対案として提示した。現代の技術水準でも200年の貯蔵は可能で、放射線量は3桁(1000分の1)減る。その間に、技術水準の向上を目指しながら、合意や総量確定など必要な議論を積み重ねるべきだと主張した。

 総量確定に関して、吉田館長は、種類や総量を確定するのは困難な部分もあるが、それができるなら理想的という立場を示した。また、地層処分をより安全に進めるという観点からは、高レベル放射性廃棄物がこれ以上増えるのは望ましくない。CO2を出さないというメリットはあるが、津波などそれ以外のリスクをトータルに考慮すると、別のエネルギー源を開発した方がよいと述べた。従って政策面では特に対立点はなく、むしろこれ以上、核のゴミを増やさず、原発の稼働も極力抑える方向性で一致が見られた。

 

1) NUMOが行う対話の場の問題点については、本誌第575号の高野 聡「放射性廃棄物WG奮闘記① NUMO理事長の無責任な態度が露呈した第36回会合」でも指摘した。

2) シンポジウムの様子はYouTubeで確認できる。アドレスはwww.youtube.com/watch?v=LUFTrLwkMKw

 

シンポジウム会場の様子

 

 技術面に関しては、吉田館長が地層中の砂や泥が鉱物で塞がれ、岩塊が緻密で硬くなる「コンクリーション」という地質現象を紹介し、それを地層処分に応用できれば、安全な地層処分に役立つと説明した。地下数百メートルには、地上からの風化の進行具合や地震動、火山活動、断層運動など地上や地下環境が処分場に与える影響を緩衝する働きがある。その緩衝の度合いを「コクーン度」と呼び、それが高ければ地層処分に適していると述べた。文献調査で集めた技術的なデータに基づいて、コクーン度が高い地域を明らかにし、概要調査に進むのか否かについて、NUMOが判断しなければならないと指摘した。またコクーン度調査のためには、今後、地下水年代調査が必要だと説明した。調査によって、数百万年代の地下水があることを発見できれば、それは、その間の様々な地上及び地質現象を経たうえで、長期に水を蓄えてきたことを意味する。従って、そこは安定的な地層であると示すことができる。幌延などの地下施設での調査・研究実績もあり、調査測定もレベルが向上してきていると述べた。

 吉田館長はまた、水冷破砕岩を神恵内の地質的特徴として指摘した。水冷破砕岩とは、海底火山が噴火して流れ出た溶岩や火山灰が、海で冷やされ、砕けて堆積した岩石である。神恵内や積丹半島一帯はそれが隆起してできている。その水冷破砕岩が地下何メートルまであるかを明らかにすることが、文献調査の大きなポイントだと説明した。

神恵内村の民宿近くで見た、水冷破砕岩らしき岩肌

 

 一方、伴共同代表は、文献調査の結果、地層処分に不適格な基準が明記されていないことを問題視した。科学的特性マップは非常に大ざっぱな基準であり、より厳格な基準を作るべきだと主張した。例えば科学的特性マップにも示されている「火山フロント」の東側は、今後も火山活動は起きないことが予測されるため、その範囲内に選定地を絞り込むことを提案した。また包括的技術報告書では、稀頻度事象が起きた場合のシミュレーションをしているが、TRU廃棄物の場合、年4~14ミリシーベルトの被ばくが発生する可能性が言及されている。年20ミリシーベルト以下なので大丈夫だと説明しているが、それは問題だと指摘した。一般人の被ばく許容限度は年1ミリシーベルトであり、その基準も原子力利用と健康影響のバランスで決定されている。将来世代が原発を利用している可能性は非常に低く、原子力を利用していない将来世代に年20ミリシーベルトの基準を適用することは、倫理的に許されないと述べた。

 このシンポジウムで印象的だったことが1つある。それは神恵内村の高橋村長が開会と閉会の挨拶をしたが、挨拶が終了した後、誰も拍手をしなかったことだ。首長が挨拶の言葉を述べた後は、形式的にでも会場から拍手が起こりそうなものだが、一切拍手は起こらなかった。ましてや人口800人以下の小さな村で長年、村長を務めており、村民なら誰もが知る人物である。拍手が起こらなかった理由は、村民から話を聞くことができなかったのでわからない。しかし、もしかしたら国からの文献調査の申請を受諾したことに対する村長への不満が、多くの村民の心の中では渦巻いているのかもしれない。そんなことを思わせる場面だった。今後も神恵内での文献調査の行方を批判的に見つめながら、この問題に対する村民の思いや感情を理解する努力をしていきたい。

(高野 聡)

 

 

 

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