【原子力資料情報室声明】 原発は当てにできない電力供給源 もとめられる早急な原発廃炉

2022年6月7日

NPO法人原子力資料情報室

6月7日、政府の「電力需給に関する検討会合」は、今年の夏冬、電力ひっ迫が懸念されるとして、原子力発電の最大限の活用を含む総合対策を決定した。しかし、特に原子力発電について、この対策は有意義なものとは言えない。

 原子力発電は定期点検の実施時期も含めて、複数年の運転計画を立てており、トラブルなどがない限り、これを前提にして運転している。原子力事業者は利益を最大化するために、運転計画も可能な限り効率的になるように策定している。つまり、いまさら、「最大限の活用」と言ってみたところで、ほとんど意味はない。

 各原子力事業者が原子力規制委員会に提出した月次の運転計画から、原発の発電電力量とそのシェアを推計した(表1、図1)。2022年度は6.0%と、2021年(暦年)実績の5.3%を若干上回るにとどまる。稼働基数は2022年度最大9基、2023年度、2024年度は最大12基である。2023年2月に再稼働する予定とされている中国電力島根原発2号機はこの計画に盛り込まれていないが、2022年度の大勢に影響を与えるものではない。

表 1 原子炉運転計画から推計した総需要に占める原発シェア
図 1 原子力発電電力量と送配電想定需要に占める原発シェア

 なお、冬場、電力価格が高騰した2020年にも、関西電力ではトラブル対処のために、原発の定期検査延長が相次いだことは記憶に新しい。今年も、定期検査で見つかった伝熱管トラブルから高浜原発3号機の再稼働予定を5月から未定に変更している。高浜原発では同種のトラブルが相次いでおり、高浜原発4号機でも6月に定期検査入りが予定されているが、定期検査が長期化することが考えられる。

 今年3月16日、福島県沖でマグニチュード7.4、最大震度6強の地震が発生し、複数の火力発電所が停止を余儀なくされた。この時、原発が稼働していれば電力不足にならなかったと主張する声もあった。だが地震による原子力発電所の停止も東日本大震災での例を除いても枚挙にいとまがない。

 原発の停止はそこにとどまらない影響がある。原発はベースロードで運転するからだ。発電事業者は原発を運転する前提でLNGを調達している。過去の経験を踏まえて、LNG在庫は一定程度の余裕を確保されているが、原発のような大規模電源が複数基停止した場合、ひっ迫する可能性がある。

 原発を再稼働させれば、電力の供給構造が安定化するとの言説が多くみられる。だがむしろ、この間の電力需給ひっ迫は、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から11年間の停滞がもたらしたものだ。電力会社は保有する多くの原発を再稼働させられないまま、維持費、新規制基準対応に10兆円以上の巨費を垂れ流し続け、その費用は電力消費者に薄く広く徴収されてきた。そして国は原子力に固執した結果、供給構造を大幅に変化できたはずの11年間を停滞の11年に変えてしまった。

 また、制度が複雑で検討に時間を要する容量市場を採用したことも大きな誤りだった。結局、容量不足が懸念される事態に至った。今回、当室などがこれまで検討を求めてきた即効性の高い戦略的予備力を「一定期間内に再稼働可能な休止電源を維持する枠組みについて、容量市場など既存の制度を補完するものとして検討」する方針を示したことは歓迎する。ただ、あまりに遅きに失した対応と言わざるを得ない。

 もはやこれ以上の余裕は存在しない。再稼働できない原発は速やかに廃炉とし、さらに40年廃炉を厳密に適用するべきだ。いつまでも動かない原発が系統に居座っているために、電源開発(省エネやデマンドレスポンスを含む)をためらう状況が生まれている。そして原子力・火力発電を中心とする現状の電力システムの維持強化につながる容量市場は早急に撤廃するべきだ。

以上

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