核燃料サイクル特設サイト開設記念シンポジウム「核危機と平和利用―六ヶ所再処理工場の操業が持つ意味」報告

『原子力資料情報室通信』第576号(2022/6/1)より

 4月28日に核燃料サイクル特設サイト開設記念シンポジウム「核危機と平和利用―六ヶ所再処理工場の操業が持つ意味」を開催した1)。米国からプリンストン大学のフランク・フォンヒッペル氏、テキサス大学のアラン・J・クーパーマン氏、韓国から元原子力安全委員会委員長のカン・ジョンミン氏、日本からはグリーン・アクションのアイリーン・美緒子・スミス氏が参加した。それぞれが基調講演を行った後、質疑応答の時間を設けた。フォンヒッペル氏は、「ウクライナと『核』の脅威」というタイトルで発表し、戦争中の原発への攻撃による事故は、福島原発事故よりも大きな被害をもたらす可能性があると指摘した。福島原発事故では燃料全体に含まれる放射性物質セシウム2%しか放出されなかったが、使用済み燃料プールや放射性廃棄物貯蔵タンクが攻撃で破壊され、冷却機能が喪失すれば、より多くの放射性物質が放出され、避難指示範囲は福島の場合より遥かに広くなる。また日本政府が、非経済的にもかかわらず、核燃料サイクル施設を維持する理由に、潜在的な核兵器開発能力の保持があると指摘した。MOX燃料によるプルトニウム・リサイクルは低濃度のウランよりも10倍のコストがかかる。日本原燃のウラン濃縮能力は、原発一基の燃料を提供することもできないくらい僅かである一方、年間300㎏の兵器級ウランを生産することは可能だ。私たちの目標は、核兵器ゼロ、分離済プルトニウムゼロ、単独国家所有の濃縮工場ゼロであるべきだ。核兵器の使用が長崎以来なかったのは、幸運とも表現でき、威嚇や誤警報は今までもあったのであり、この幸運がいつまでも続くかどうかわからない。だからこそ日本政府は核兵器の先制不使用を呼びかけ、第一回核兵器禁止条約締約国会議にもオブザーバー参加するべきだと提案した。

 クーパーマン氏は「核施設とテロリズム」と題し、特に青森県の六ヶ所村再処理施設における二つのテロの脅威を指摘した。一つ目は核兵器製造を目的としたプルトニウムの盗難だ。六ヶ所村再処理施設が稼働すれば、年間8,000kg生み出される。問題は、IAEAの保障措置ではプルトニウムの盗難を探知することが困難なことだ。保障措置は、246kgのプルトニウムが転用されれば探知可能な水準であり、六ヶ所のような大規模な再処理工場では精密な探知は不可能と、IAEA自身が認めている。つまり長崎級原爆が製造可能である8kgのプルトニウムをテロリストが盗むことは、盗難の事実すら発覚されることもなく可能なのだ。さらに盗難されたプルトニウムは、核兵器を作ったことがない者でも、既存の知識を使えば、比較的容易に製造可能だという。二つ目の脅威は、使用済み燃料プールへ攻撃を加え、放射能をまき散らす破壊行為だ。六ヶ所再処理施設には、約3,000tの使用済み核燃料が保管されている。この量は一般的な原発が保管している量の30倍だ。その保管プールが攻撃を受け、火災が発生すれば、福島事故あるいは世界のどの原発よりも放射能が大量に放出される可能性がある。福島原発事故は、その被害が膨大だった一方、圧力容器や格納容器が放射能の放出をある程度閉じ込め、火災もなかったため、あの程度の「比較的少ない流出で済んだ」と言える一面もある。しかし六ヶ所で事故が起これば、被害額は数百兆円の規模に上る可能性もあると述べた。

 カン・ジョンミン氏は、自身が行った、ザポリージャ原発1号機への攻撃による事故シミュレーションを公表した(図1)。炉心溶融により、1号機の燃料に含まれるセシウム137の総量の50%である157PBq(ペタベクレル、1015)が放出し、同時に1号機の使用済み燃料プールでの使用済み燃料火災により、プール内のセシウム137の総量の75%である590 PBqが放出したと想定し、チョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故基準でどれくらいの避難民が発生するかを試算した(表1)。これによると、実際に攻撃を受けた3月の第三週目の気象条件では、ウクライナで最大360万人、ルーマニアやベラルーシなどでも数十万から数百万の強制避難者が発生すると予想した。

ザポリージャ原発1号機と使用済み核燃料プールでの同時事故による放射能拡散シミュレーション

 

ザポリージャ原発1号機と使用済み核燃料プールでの同時事故による避難者数

 

 アイリーン氏は、六ヶ所再処理工場の運転開始による国内及び国際的な影響について説明した。国内的影響については、経済的コストの他、MOX燃料使用炉の拡大への圧力、原子炉敷地内の使用済MOX燃料の増加による高レベル核廃棄物問題の悪化、青森県のMOX燃料加工工場推進への圧力、すべてをMOX燃料で賄う大間原発建設への圧力などを挙げた。国際的影響については核拡散や核テロ、放射性物質の海洋への放出反対などを挙げた。再処理工場の運転再開を防ぐ方法としては、日本の稼働原発の数を抑え、プルトニウム需要をなくすこと、訴訟、国民の反対、地元自治体の懸念表明などがあると指摘した。

 講演終了後、質疑応答に移った。原子力関係の科学者やエンジニアに伝えたいメッセージはあるかとの質問に対し、フォンヒッペル氏は、もはやみな原子力エンジニアであり、そのコミュニティは科学というより宗教に近いと指摘した。特に高速増殖炉に関して、もんじゅなど明らかに失敗しているのにもかかわらず、未だに技術的に克服できると信じる姿は宗教のようだと述べた。なぜ日本政府は核燃料サイクルを推進するのかとの質問に対して、アイリーン氏は、その推進は使用済燃料対策であり、核廃棄物問題に正面から向き合わないための時間稼ぎをしていると説明した。また埋没費用があることを政策関係者はわかってはいるが、誰も責任を取りたくないため、同じテーブルについて議論をしない、そのためのファシリテーターも不在だと指摘した。クーパーマン氏は、再処理を行っている7か国のうち5か国は将来的にやめる方向だが、継続に固執する2か国、つまり日本とフランスの特殊性に言及した。再処理は危険で、経済性がなく、汚くて、人気もないにもかかわらず、2か国で続けられる理由は、官僚やエンジニアの制度的な支援があるからだと説明した。反対の声を上げて制度の変更を目指すべきだが、国家と市民社会のバランスという視点から見ると、日本とフランスは国家が強く、市民社会の影響力が発揮できていない状況があると分析した。

 韓国の再処理問題の今後についての質問に対し、カン・ジョンミン氏は、尹錫悅政権もパイロ・プロセッシングという乾式再処理技術を強力に推進するつもりであり、推進派はその口実として、日本で再処理ができるのに、なぜ韓国ではできないのだと主張している事実を指摘した。一方、それ以外にも北朝鮮に対抗して、核兵器開発能力を持ちたいという政治的意思もありうると説明した。

(高野 聡)

 

 

 

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