第90回原子力資料情報室・公開研究会報告 原発再稼動とプルサーマル計画
3月8日に衆議院第二議員会館で開催された第90回公開研究会には約50名が参加した。メアリー・オルソンさん(原子力情報サービス)と、スティーブン・リーパーさん(前広島平和文化センター理事長)が講演した。原発再稼働とプルサーマル計画におけるアメリカの現状と日本の課題についてお話を聞き、意見交換をおこなった。
日本と米国の比較:伴 英幸
日米のプルトニウム計画には大きな違いがある。米国のプルトニウム利用計画は、解体核兵器のプルトニウムを処分する狙いであり、原発の使用済み燃料を再処理することは考えていない。米国のプルサーマル計画はコスト高により失敗しつつある。他方で日本は、プルトニウムを資源として見ている。元々は高速増殖炉もんじゅで使う計画だったが、1995年に事故を起こした直後に、電気事業連合会がプルサーマル計画を発表した。2010年までの間に16基から18基の原発でプルサーマルをおこない、英仏に再処理委託していた約5,600トンの原発の使用済み核燃料から取り出されるプルトニウムを使う計画だった。順調にいけば10年程度で使い終わり、六ヶ所再処理工場が動き始めると国内のプルトニウムの利用へとつながるという構想を描いていた。
福島事故前は高浜、伊方、玄海などで若干のプルサーマル運転がおこなわれ、今年に入って高浜原発3・4号機がプルサーマルで再稼働したが、現在は止まっている。この状態ではとても計画基数には達しない。電力自由化の中で再処理は破綻に瀕しており、日本政府は法律を上程し、使用済み燃料再処理機構を設立して積立金を拠出金に変え、何とか六ヶ所再処理工場を維持しようとしている。しかし、うまくいく見通しはほとんどない。日本と米国はプルサーマルの意味合いが違うが、米国の破綻の事例は日本の再処理の将来を考える上で参考になる。
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米国のMOX計画と反対運動:メアリー・オルソン
原子力情報サービス(NIRS)は米国の全ての州で草の根活動をしている。連邦政府は1996年にプルトニウム利用計画を開始した。核兵器を解体してプルトニウムを取り出し、原発でMOX燃料として使うことを決めた。それに対してMOX廃止を訴える「NIX × MOX(なくそうMOX)キャンペーン」を開始した。大きな×印を作り道路を封鎖して「我々はMOXを通さない」という運動をおこなった。集会や公聴会を通じて人々にプルトニウムの啓蒙活動をおこない、米原子力規制委員会(NRC)に抗議した。
サバンナリバーサイトというサウスカロライナ州にある加工施設にプルトニウムが貯蔵され、核兵器から取り出された解体プルトニウムを核燃料に変換していく計画がある。2015年の段階で60%まで完成しているが、建設工事は15年間遅れて予算は750%オーバーしている。サバンナリバーサイト阻止運動では、工場のライセンスを阻止しようとして、南部核廃棄物監視市民の会が訴訟を起こした。8kgのプルトニウムで核兵器ができるが、この工場では380kgのプルトニウムが常に循環している状態になる。もしその中の8kgがなくなっても、それを追跡できるのかということが訴訟の争点だった。残念ながら法律上、工場を建設しているアレバ社はサイバーセキュリティの規制を満たす必要はないと判断されて市民の会は敗訴した。しかし、2000年から2016年まで続いた訴訟でサイバーテロへの警鐘を鳴らすことができた。さらに、工場建設を大幅に遅らせ、当初16億ドルだった建設予算は、現時点で300億ドル以上に膨らむ結果となった。実際にはプルトニウムは半分のコストで廃棄物として処理できるが、費用高騰のためオバマ政権はサバンナリバーサイトのMOX燃料加工施設の中止を打ち出した。
放射線影響の男女差
MOXにおけるもう一つの問題は、被曝の問題だ。2011年の福島原発事故が起きた時に「放射能の影響に男女差はあるのか」という質問を受けた。この疑問に答えるため、米国科学アカデミーのレポートにおける広島・長崎の原爆のデータを解析した。このレポートによると、子どもの時に被曝して生涯の中でがんになった場合、男性1人ががんになるのに対して、女性は2人ががんになる。つまり放射線の影響には男女差があり、男性より女性が2倍高く影響が出る。生殖に関係する細胞は女性のほうが多いため、影響を受けやすいのではないかと考えられる。多くの研究では、成人男性を標準人としてきた。成人男性を基準とした場合、5歳の男の子が被曝すると5倍、女の子は10倍以上の影響が出る。MOX原子炉の事故では、さらにがんの発生率が20倍高くなる。
【質疑応答】
問:廃棄物としてプルトニウムを処分する方法はアメリカではどういう方法が検討されたのか。
メアリー:放射性廃棄物と一緒にして、ガラス固化体にする方法がある。最終処分場の目途はついていない。
問:講演中に示した被曝のデータは広島のものかアメリカのものか。
メアリー:米国科学アカデミーBEIRVII※1から引用した。広島・長崎の被ばく者データを男女差と年齢別に示している。
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福島の現状-核との共存を拒否する論理:スティーブン・リーパー
2月11日からアーニー・ガンダーセン氏と東北を回った。福島原発事故では、日本はとても運が良かった。午後2時は約1,000人の技術者が原発にいた。彼らはメルトダウンと闘った。もし、午後2時ではなく午前2時だったら10基のメルトダウンが起きて、日本の半分は住めなくなっただろう。このようなリスクを背負う危険な電気の作り方は必要ない。代替エネルギーで十分まかなえる。
「誰も死んでいない、誰も病気になっていない、アンダーコントロール」と政府は言うが、実際に現地に行って2つのことに驚いた。1つは、帰還困難区域で線量を測ると7μSv/h以上になった。5年後でもあれだけ放射能が強いことに驚いた。数十kmもの誰もいない“ゴーストタウン”が続いている。このような状態を引き起こすものは核しかない。
2つ目は、放射能の話になると誰もわからないということだ。南相馬は安全か安全ではないか、東京が安全かどうか誰もわからない。今もたくさんの人が病気になっているが、多くの人は放射能の影響だと思っていない。
福島原発事故で何も変わっていない。基準を変えただけだ。このままいけば全部の原発が再稼働して福島以上の事故が起こるだろう。日本の存続のために原発を止めなければいけない。
【質疑応答】
問:アメリカの軍や警察は市民運動に対してどのような動きをするのか。
スティーブン:アメリカの警察はオキュパイ運動※2で不当逮捕するなど強力に抑圧した。重要なことは普通の人の意識だ。原発を止めるためには母親たちが動くことが重要だ。
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日本が保有するプルトニウムに対して批判が高まっている。原発と核兵器は表裏一体で、海外からは潜在的な核保有国とみられている。日本は福島原発事故の後もなお、再処理とMOXによる核燃料サイクルにしがみついている。日本ではMOX加工はこれからだが、うまくいく保証はない。米国のように、MOX燃料加工を中止して核燃料サイクルから政策転換すべきだ。
(片岡遼平)
※1 米国科学アカデミーBEIR・は、Eメールを登録すれば無料でPDFがダウンロードできる。
www.nap.edu/catalog/11340/health-risks-from-exposure-to-low-levels-of-ionizing-radiation
※2 「ウォール街オキュパイ(占拠)運動」:ニューヨーク・ウォール街で2011年9月に始まった若者らによる草の根デモ。インターネットで結びついた参加者は、ウォール街近くの公園に野営しながら、経済格差の解消を求めて富裕層への課税強化などを訴えた。