プルサーマルは何のため? 誰のため?-国策維持と原子力産業のためのプルサーマル計画-

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プルサーマルは何のため? 誰のため? 
-国策維持と原子力産業のためのプルサーマル計画-
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2006年8月20日 松江市(プルサーマルシンポジウム資料)

原子力資料情報室 伴英幸

1.プルサーマルで資源の節約効果はほとんどない

電力会社のホームページなどを見ると、プルサーマルを推進する理由に「資源の節約効果」をあげている。使用済みウラン燃料に含まれているプルトニウムはせいぜい1%程度に過ぎない。ロスなどにより使えるのは0.8%以下になるだろう※。

※日本原燃の再処理計画によれば、プルトニウム回収量は0.8%としている。MOX燃料加工工場でのロスを考えれば、それ以下となる。

資源節約効果を主張する一方で、プルサーマルのコスト増を電力料金に転嫁しない説明では、プルサーマルは一部で行なうだけだからコストに影響しないと矛盾した説明をしている。資源の節約効果はほとんどないことは電力会社が認めているといえる。

使用済み燃料1トンからわずか8キログラムのプルトニウムを回収するために行なわれる再処理によって、環境への放射能放出は「原発1年分を1日で放出する」と言われるほどに多量であり、将来的な影響の可能性を住民たちは引き受けなければならなくなる。さらに、処分するべき放射性廃棄物の量が増えることも引き受けなければならなくなる。再処理によって回収したウランも将来には放射性廃棄物となるものであり、これもまた、引き受けなければならなくなる。これでは節約効果ありとはとても言えない。

にもかかわらずプルサーマル計画が強く進められているのは、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の事故がきっかけとなっている。高速増殖炉計画がつまずいた結果、今日のプルサーマル計画があるといえる。

2.国策維持と原子力産業のためのプルサーマル計画

2.1高速増殖炉の実用化はあと50年先?

高速増殖炉開発は日本の原子力政策の黎明期からの目標だった。燃料を消費しながらそれ以上の新たな燃料を作り出す「夢の原子炉」と言われ、この実用化によって、私たちは資源問題に悩むことはなくなると信じられていた(とはいえ、高速増殖炉でも電気しか作れないので資源問題は残るのだが…)。しかし、この50年の間に世界の高速増殖炉開発先進国は撤退していった※。

※現在、欧州では高速炉開発計画があるが、未だ概念設計レベルである。また、プルトニウムを増やす高速増殖炉とプルトニウムを減らす高速炉は考えが全く異なる。日本ではあえて混同して使おうとしている。高速増殖炉撤退国はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど。まだ、継続している国はロシア、インド、日本だけ。

日本は積極的な高速増殖炉開発を夢見ている数少ない国の1つだが、日本の楽観点な見通しでも、実用化までにあと50年程度かかるという。もっとも、時間をかけても実用化はできないと筆者は考えている※。

※その理由は、①プルトニウム倍増時間が国の最も良い評価でも46年だから、増殖率が悪すぎる。②現在の技術では発電炉と同等のコストになるという展望が示されていない。

高速増殖炉で作られるプルトニウムは核兵器級といわれるプルトニウム※。

※プルトニウム239の割合が93%を超える。

核拡散防止という国際的な取り組みからも、高速増殖炉開発が実現するか疑わしい状況だ。

こうした状況では、先ずプルトニウムを取り出す再処理を中止することが賢明な政策だと考える。原子力推進の中にもこの選択肢を主張する学者たちがいる※。

※たとえば、山地憲治ら原子力未来研究会。

しかし、政府は2005年10月に原子力政策大綱※を決定し、「合理的に達成できる限りにおいて」との条件つきで再処理政策を堅持することを決めた。

※筆者は脱原発の立場から新計画策定会議に参加して、再処理からの撤退を訴えた。

2.2再処理は日本の既得権、これを維持するためのプルサーマル

原子力政策大綱を審議した新計画策定会議では、再処理政策をめぐって4つの選択肢(後述)を選んで総合的な検討が行われた。再処理政策が維持されることになった理由の1つは、再処理を止めると地域(青森県)の信頼を失うことになり、使用済み燃料を青森県から各原発サイトへ引き取らなくてはならなくなる、そうなると原発も止まる、その影響を避けるべきというものだった。果たして原発まで止まるかどうか真偽は確かではないが、これが大きな理由とされた。

審議の中で注目すべき発言は、再処理は日本がアメリカに認められた既得権だから維持すべきという意見だった。2001年9月11日の同時多発爆破事件とその後に明らかになった核拡散の状況(カーン博士の闇の核ネットワーク)から、ウラン濃縮や再処理技術が核兵器国以外に拡散していくことを阻止しようとする動きが強まっている。このことから、日本が既得権を手放せば再び手に入れることは出来ないとの指摘は、その限りにおいて的を射ているといえよう。アメリカは、日本に再処理を認めて例外扱いにしていることは二重基準だと批判されているが、このような核兵器開発につながる技術は平和とは相容れず、積極的に放棄するべきだ。

さらに、再処理を止めると高速増殖炉開発も放棄することになるとの懸念も示された。1956年に初めて策定された原子力基本計画(後の原子力開発利用長期計画、原子力政策大綱)に国産増殖炉を目指すとされて以来、連綿と維持してきた日本の原子力政策の理論的支柱が崩れる可能性への危機感が示されたと筆者は理解した。

再処理を行なえばプルトニウムが出てくることから、このプルトニウムの扱いが問題となる。プルトニウムを高速増殖炉で利用するまで貯蔵し続けることは、プルトニウムが核兵器に転用できるもの※であるために、大きな国際問題となる。

※原発から得られるプルトニウムは原子炉級プルトニウムと言われている。このプルトニウムでも核兵器に利用できることに関して議論はない、とIAEAは宣言している。

93年に日本は余剰のプルトニウムを保有しない※と国際公約している。

※2004年末の時点で、国内に5トン、英仏に37トンほどのプルトニウムを所有していて、折に触れて批判の的となっている。

そこで、プルサーマルでプルトニウムを消費する方策が採られることとなる。しかし、プルサーマルを行なっても、多くのプルトニウムはその使用済み燃料中に残るのであり、実際には消費されない。そのうえ、日本の場合は、今ある分を消費する計画だけでなく、六ヶ所再処理工場でさらにプルトニウムを取り出し、今後40年以上にわたってプルサーマルをしようという計画だ。この点はドイツやスイスなど海外のプルサーマルとは異なる。

プルサーマルを進めるほんとうの理由は、過去の原子力政策への妄執と原子力産業の維持であると考える。市民不在のプルサーマルである。

3.プルサーマルの危険性

3.1プルサーマルで事故の危険が増す

プルトニウムはウランに比べて中性子への反応が良く核分裂しやすい。ウラン燃料を使っている原子炉の中ではプルトニウムが作られ、この一部は原子炉の中で核分裂していることから、新しいことではないかのような宣伝が行なわれているが、これは誤りである。なぜなら、炉心に装荷されるプルトニウムの量が圧倒的に多いからだ。そこで、ウラン燃料に比べて、プルサーマル燃料には以下のような特徴が出てくる。

・制御棒の停止余裕が減る
・燃料の融点が下がる
・核反応がより不安定になる

これらの変化は電力会社も認めているが、安全余裕の範囲内にあるから問題ないとしている。しかし、ウラン燃料の場合には回避されるかもしれない事故がプルサーマル燃料であるために回避できずに大惨事に進展してしまう恐れが生じる。安全余裕を切り詰めてよいのだろうか。その上、安全余裕の切り詰めは、配管の亀裂問題や耐震問題などさまざまなところでも行なわれている。

・燃料の破損の危険が増す

プルトニウムとウランを混合するとき、必ずしも均質に混ざるとは限らない。不均質なところで局所的なプルトニウムの燃焼が進むことで燃料破損の恐れが高まる。また、燃料は損の恐れは燃料棒間や集合体間のばらつきからも高まる。政府も電力会社も考慮済みというが、実績に乏しいことから、この主張をそのまま受け入れることは出来ないだろう。
海外でのプルサーマル実績が強調されるが、BWRでの海外実績は、実質的にはドイツの2基しかない。これらの累積装荷体数は570体(2004年末まで)ほどしかない※。

※2002年末時点で見ると、グンドレミンゲンBは炉心燃料784体中MOX燃料は244体で31%、グンドレミンゲンCは同784体中104体で13%である。これに対して島根2号炉での計画では560体中228体で約41%になる。

これでは、海外実績を強調してもほとんど意味がない。さらに言えば、国内ではこれまでに少数体試験が行なわれただけで(BWRの実績はわずか2体)、計画されていた実証試験を電力会社は行わなかった※。

※1982年に策定された原子力開発利用長期計画では「1990年代中頃までには、その実証を終了し実用化を目指す」とされていたが、結局行なわれなかった。電力会社が消極的だったことが分かる。

3.2大事故で被害が格段に広がる

プルサーマル燃料を使った原子炉での事故評価は審査指針に従って行なわれて、いずれも大規模な放射能放出には至らないとしている。しかし事故が必ずその範囲に収まるとは保障できない。仮に、プルサーマルを実施している原子炉で大規模な放射能放出を伴う事故が起きたら、ウラン燃料だけの原子炉よりも影響範囲が数倍に広がる。そうなると人口密集地域が含まれてくることになり、影響を受ける人々もそれだけ多くなるだろう※。

※原子力資料情報室ではいくつかのケースで試算を行い、ホームページで公開している。( cnic.jp/modules/news/index.php?storytopic=19 )

3.3輸送上の問題も出てくる

さらに輸送上のさまざまな問題も出てくる。英仏からプルサーマル燃料が日本へ輸送されるが、今までとは異なり今後は格段に厳しい警護が必要になるだろう。さらに、六ヶ所再処理工場で取り出されたプルトニウムは同工場の敷地内に建設が予定されている燃料加工工場でプルサーマル燃料に加工された後に船で国内の各原発へ輸送されることになる。これらの輸送も厳しい警護が要求されることになるだろう。問題は警護の厳しさだけでなく、輸送情報が秘密にされ、輸送の安全に関心を持つ人々が監視されるだろうことだ。プルトニウム利用に伴って、人が厳しく監視されて人権が軽んじられる社会を私たちはプルトニウム社会と呼んでいる。このような社会は私たちが望む社会ではない。

4.プルサーマルは高くつく

4.1圧倒的に高いサイクルコスト

原子力政策大綱の審議の過程で、サイクルのコスト比較が行なわれた。これはプルサーマルを前提としての計算だった。コスト比較は次の4つのケースで行なわれた。①これまでの政策どおりに全量を再処理する②六ヶ所再処理工場の能力分のみ再処理する③再処理せずに直接処分する④再処理せずに使用済み燃料は貯蔵し、再処理がコスト的に有利になった時に再処理する(ここでは50年後に半分を再処理するケースを仮に想定した)の4つ。評価期間は60年間。この結果、サイクルコストは安い順に③(0.9~1.1円/kWh)<④(1.1~1.2円/kWh)<②(1.4~1.5円/kWh)<①(1.6円/kWh)となり※、再処理-プルサーマルが高くつくことが明白になった。

※これに建設などの資本費や運転維持費の合計3.6円/kWhを加えると発電単価となる。しかし、これは実際の原発の発電単価とは異なる。

最近はウランの市場価格が上昇しているが、原子力資料情報室が行なった計算では、③と①とを比較した場合のコスト差は、ウラン価格が想定の43倍(およそ2億円4000万円/トンU)まで上昇しないと埋まらないことが分かった。市場価格の上昇はそこまで達するはずがないことから、この差は決して埋まらないだろう。

これに対して、コスト差は一般消費者の月々の電気料金でみるとわずか50円~70円程度高いだけであり容認できるという意見も新計画策定会議では出された。そもそもさまざまな仮定の上に立ち、かつ遠い将来にかかる費用を現在の費用で見積もり、さらに割引率を織り込んだコスト比較の差を、現実の月々の電気料金と比較することは間違いだ。

ところで、プルサーマル燃料とウラン燃料の製造コストを比較※すると、プルサーマル燃料の方が10倍程度高い。

※プルサーマル燃料の単価試算=(再処理総事業費11兆円+MOX燃料加工総事業費1.19兆円)÷(総生産量4800トン)=25億円/トン(コスト等検討小委員会提出資料に基づく)これに対してウラン燃料1トンの取得費用は2.2億円(経産省の発電コスト試算に基づく)

電力各社は吸収できる程度の差だといっているが、それは原発は燃料のコストに占める割合が低く、その上、全体の3割くらいの原発で3割程度プルサーマル燃料を入れるのだから、コストに及ぼす影響は1割程度になるという理屈だ(このことは逆に、資源節約効果が少ないことを意味する)。しかし、コストは将来上昇する要因こそあれ、下がることはない。

4.2なお残るコスト上昇要因

コスト試算をしたときには含めなかったコストや、計算されているが将来の費用は上昇すると推察できるものが多くある。上記にも述べたように現在の価格で30年とか40年先にかかる費用を見積もるのだから、本来、不確定なものであり、六ヶ所再処理工場がそうであったように、事業実施の時点では価格が一段と上昇している可能性が高いとみるべきだろう。

4.2.1回収ウランの処分費

コスト計算において、再処理※で回収されたウランについては貯蔵費用を計算に入れただけだ。

※再処理では、使用済み燃料からプルトニウムと燃え残りのウランと核分裂生成物を分けて取り出す。

国や電力会社は将来に再利用する説明しているが、現時点での具体的な利用計画はない。仮に再利用したとしても、これはわずかで大部分は利用できずに残る※。

※策定会議に提出された資料では1トンの使用済み燃料の再処理で回収されるウラン940kgのうち再利用できるのはせいぜい130kgであり、残り810kgは劣化ウランとなって再利用されない。中国電力の資料でも1トンの使用済み燃料から回収されるウラン960kgのうち再利用できるとしている分は250kgであり、710kgは再利用されない。これは将来廃棄物となる。

結局、回収ウランの大部分は必ず廃棄物として処分しなければならなくなる。政府や電力各社はこのことを故意に伏せて97%が再利用可能といった宣伝をしており、明らかに誤りである。回収ウランの処分費用は将来に必ず発生する。

4.2.2再処理廃棄物の処理処分費

再処理の工程で出てくる廃棄物の処分は3通りの処分方法が考えられて、それにしたがって費用が見積もられているが、地層処分も余裕深度処分も一度も実施経験がなく、その費用は将来において上昇する可能性が高い。

4.2.3MOX燃料製造工場の建設費

再処理工場の建設費は当初見積もりから3倍強に跳ね上がり、2兆1900億円ほどに達した。まだ少し上昇するだろう。MOX燃料加工工場は国内では初の建設であり、また、海外でもフランス・イギリス・ベルギーなどわずかの国で運転されているに過ぎないことから、1,215億円と見積もられている建設費は、実際に建設が始まっていくと、再処理工場同様に上昇する可能性が高い。

4.2.4使用済みMOX燃料の扱い

プルサーマルの使用済み燃料は発熱量が長期にわたって高く、取り扱いが厄介だ。六ヶ所再処理工場では再処理できない。使用済みプルサーマル燃料の行き場が決まっていないことから、長期にわたって発電所内で貯蔵されることになるだろう。第2再処理工場で処理が可能となると説明されているが、第2再処理工場は2010年頃から検討を開始することになっていて、いまだ建設の可否すら決まっていない。長期貯蔵後に処分される可能性が高い。しかし、この費用は考慮されていない。

4.3納得できないものは認められない

すでに再処理のコストは電気料金に含まれているのだが、プルサーマルを実施すれば、上に見たさまざまなコスト上昇要因を含めて、将来これらが料金に上乗せされてくることは確実だろう。消費者として、納得できないものはたとえ金額がわずかでも認めないという立場で臨むことが求められているのではないか。プルサーマルが消費者の利益につながるものではなく、これが始まれば、消費者は事故の危険と将来の高いコストを引き受けることになるだろう。

4.4省エネルギー・再生可能エネルギーのベストミックス

電力供給のあり方について政府や電力各社は原子力、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料、水力などさまざまな電源のベストミックスを主張している。ベストミックスは聞こえが良いが、ベストであることを判断する基準や根拠は明らかにされていない。国や電力各社の需給見通しでは電力の需要が増えることを前提としている。これでは、結果として二酸化炭素の排出量は増えていくことになるだろう。

自然環境や生活環境の本来の意味での持続可能性を考えるなら、省エネルギーと再生可能エネルギーを中心に据えることが必要だ。原発が生み出す放射性廃棄物による環境汚染、あるいは再処理による環境の放射能汚染を避けるためにも、早急に一人ひとりが考え方を変えていくことが必要ではないだろうか。