エネルギー選択肢の背景と意味
エネルギー選択肢の背景と意味
パブリックコメント募集中
エネルギー・環境会議(以下、エネ・環会議)は6月29日にエネルギーミックスの選択肢を提示してパブリックコメント(以下、パブコメ)に入った。エネ・環会議は国民的議論を経て選択肢を絞り込みたいとしている。そのためのパブコメだ。当情報室のみならず多くのNGOが「パブコメで未来を変えよう」と積極的な応募を呼びかけている。
パブコメは当初は7月末までの予定とされたが、期間が短かすぎるとの批判が強かったことから、8月12日まで締め切りを延期した。その結果、本誌が締め切りに間に合うようになった。
パブコメの他にも、全国11ヵ所で行う意見聴取会、また、討論型世論調査などが実施されて、8月末までにシナリオを選定する。意見聴取会は、すでに埼玉や仙台、名古屋で実施されているが、「やらせ」ではないかと強い批判が出ている。というのは、20?25%を支持する発言者に電力会社やメーカーの人間が入っていたからだ。発言者の選任では、申込者にどのシナリオを支持するかを尋ね、それぞれのシナリオに対して3名ずつ意見を述べる形式をとっている。そうなると、20?25%を支持する意見はどうしても電力会社やメーカーで働く人に多く、結果として彼らの発言が目立つ。言い換えれば、この割合を支持するのは電力関係者以外にはほとんどいないということだ。これでは絞り込んだ選択肢の客観性が疑われる。エネ・環会議にとってもよくない状況と言えよう。
また、短い国民的議論で結論を急ぐ理由はよく分からないが、極めてたくさんの一人一人の意見が届けば、じっくり構えるほかなくなるだろう。
福島原発事故
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震によって太平洋側に設置されていた15の原発がいっせいに停止、福島第一原発の1から3号機で燃料溶融事故に至った。そして4号機を含めて水素爆発が起きた(2号機が水素爆発だったかは疑問が出ている)。爆発によって大量の放射能が環境にばらまかれた。事故は今も終息せず、その爪あとは何十年にわたって続く。東京電力は4基の原発の廃炉を決定したが、福島県は県内10基の原発の廃止を求めている。東海原発も村上村長が運転再開を認めないと明言している。浜岡原発は隣接の牧之原市議会が永久停止を決議している。もはや原発には依存できない状況に至った。また、野田佳彦内閣総理大臣も原発の新増設はないと明言している。
破綻した現行エネルギー基本計画
他方、現行のエネルギー基本計画(2010年6月閣議決定)は2030年までに原発を14基も増設し、発電電力量に占める原発の割合を50%にまで高める計画だった(コジェネや自家発の発電分を加えると、原発の割合は45%となる)。そのために、定期検査間隔を2年まで延長する制度を導入したり、原発の建設が容易になるように減価償却費の事前積み立て制度などを導入してきた。さらに廃炉を認めず60年運転を半ば強いるようなことまで行ってきた。そして、原発に依存することによって、二酸化炭素排出量を減らそうというのである。
ところが、福島原発での爆発は上に述べたように現行のエネルギー基本計画を吹き飛ばしてしまったと言えよう。その結果、計画を見直すことが必然となった。閣僚で構成されるエネルギー・環境会議はゼロベースからの見直しを掲げ、経済産業省に対して、エネルギーのとり得る選択肢について諮問した。そこで、経産省は従来の基本計画委員会を廃止して、新たに基本問題委員会を設置して、審議を進めてきた。その際、委員について、一応のバランスを考えた人選を行った。こうした流れの端緒は、事故当時に菅直人政権だったことが大きく影響していると考えている。事故を受けて、菅政権は将来的には脱原発を目指すことを掲げて歩みだした。だが、次の野田政権は脱原発を脱原発依存と言い換えて、依存度を下げる方向へ変更した。このことが選択肢にも影響してきていると考えられる。
エネルギー・環境会議の基本的方向性
昨年12月にエネ・環会議は中間取りまとめを行ったが、見直しの基本方向として、?省エネルギーの抜本的強化、?再生可能エネルギーの導入を最大限加速化する、?化石燃料のクリーン化、?原子力発電のできる限りの低減を掲げていた。しかし、この基本方向は最終的な選択肢案では後退していた。
エネ・環会議が6月29日に公表した「エネルギー・環境に関する選択肢」では、今後の環境エネルギー戦略を考える7つの視座が提示されていて、その中には、エネルギー安全保障やエネルギー源の多様化、あるいは、原子力平和利用国としての責務や世界への貢献などがうたわれている。
原発がエネルギー安全保障に寄与するとの主張もあり、原子力を加えたエネルギー源の多様化のニュアンスもあり、こうした主張を意識した表現と言えるのではないか。
提案されている3つの選択肢
総合資源エネルギー調査会基本問題委員会での議論の過程では5つの選択肢が提案されていたが、最終的に4つを報告書にまとめてエネ・環会議に答申した。それは①原発比率を早期にゼロとし、再生可能エネルギーを基軸とするゼロシナリオ、②原発依存度低減を基本とするが、2030年段階で検証を加える、15シナリオ、③原発依存度を低減するが一定程度は維持する、20~25シナリオ、④社会的コストを適切に負担する仕組みの下で、市場における需要家の選択にゆだねる、の4シナリオだった。
エネ・環会議が提案した選択肢はここからさらに絞り、3シナリオとした。また、二酸化炭素排出量など、中央環境審議会との摺合せを行った結果が示された。
基本問題委員会ではゼロシナリオは追加対策前の値だった(ただし、再生可能エネルギー35%となっていたが、その中にはコジェネ15%の一部が含まれていたと考えられる)。温室効果ガス排出量は16%の削減にしかなっていなかったが、中央環境審議会との摺合せの結果、追加対策後がゼロシナリオとなった。これで削減幅は23%となった。「原子力か温暖化対策かという悪魔の選択肢」(枝廣淳子委員)は避けられた。
選択肢全体へのコメント
選択肢で顕著なのは、省エネルギーが非常に消極的である点だ。表1の発電電力量の項目が省エネにあたるが、ここでは横ばいになっている。経済成長(2020年まで毎年1%、次の10年は毎年0.8%)を見込んだ結果としての横ばいで、削減率は2010年比でおよそ10%である。
脱原発を進めるためには省エネルギーが重要な鍵になる。この点、何度も一層の省エネ導入を主張したが、聞き入れられなかった。選択肢によって省エネのあり方は異なってくるだろうが、シナリオ共通にしたいと三村明夫委員長は頑固だった。また、電力価格等が高くなれば、多くの人が節電にいっそう努めるようになるだろうが、そうした効果も加味されなかった。
産業界でも節電が進んでいるようだが、産業界の効果は十分にはカウントされていない。10%は主として家庭部門の節電である。
シナリオの意味あい(核燃料サイクルを含む)
ゼロシナリオは2030年までのできるだけ早い時期に原発をゼロにするというものである。委員会の中でこのシナリオを主張している人たちは2020年までに原発をゼロにする意見が多かったことから「できるだけ早い時期に」という文言になっているのである。
また、ゼロシナリオは核燃料サイクルに関して、直接処分への政策転換を含んでいる。六ヶ所再処理工場の試験運転~本格運転入りをやめて閉鎖することを意味している。さらに、高速増殖原型炉「もんじゅ」に関しても閉鎖することを意味している。
15シナリオは40年運転に制限することを運用していった場合に2030年の時点で15%程度に減少している(発電電力量の割合)というものだ。この場合、設備利用率を80%とすれば増設は必要がないが、70%とすると建設中の2基の運転を認める内容となる。この点は明言されていないが、どちらもあり得るものとなっている。
15シナリオはそのまま行くとゼロになるかのように見えるが、実は2030年に改めて見直すことを前提としているシナリオなのだ。 エネ・環会議の選択肢案には見直しは各シナリオ共通の行為と書き込まれているが、もともとは15シナリオの主張の中で議論された、いわば15シナリオ特有のものだった。したがって、各シナリオ共通となっても、15シナリオにおける見直しは特有の意味合いを持っている。それは、原発の割合を増やすことを含めた見直しであると同時に、判断を先送りするシナリオなのである。
20~25シナリオは原発を一定程度維持するシナリオだが、この割合を維持していくのだから、原発を新たに建設していく(リプレース)ことが前提となっている。
15シナリオと20~25シナリオでは、核燃料サイクルは再処理・直接処分があり得るという曖昧な表現となっている。核燃料サイクルは選択肢ではなくてシナリオに付随するような書き方になっているが、エネ・環会議に確認すると、これも選択肢であり国民議論の対象であるという。一般には極めて分かりにくい。
原子力委員会決定では、15シナリオは再処理・直接処分の併存が良い選択肢であり、20~25シナリオでは全量再処理もしくは併存が選択肢との決定になっている。これは具体的には六ヶ所再処理も「もんじゅ」も運転を認めるという選択肢である。あいまいな表現になったのは、秘密会議が暴露されて決定内容の信頼性に疑問符が付いたことが影響しているようだ。字面からすれば15シナリオや20~25シナリオでも直接処分が選択できるようになっているが、むしろ15シナリオでも全量再処理が選択できるようにとの全量再処理派からの巻き返しとのうわさもある。
いずれにせよ、後の二つのシナリオは六ヶ所再処理と「もんじゅ」の運転を容認するものとみておくべきだ。
ここで抑えておくべき点は、原発ゼロという方向を決めないと?省エネの抜本的強化や再生可能エネルギーの最大導入が十分には進んでいかない、?核燃料サイクルは継続するということだ。
基本問題委員会では、原発を維持しないと地球温暖化を進めるという脅しのような説明がされていました。そして、省エネ比率はどの選択肢でも一定のはずだと、三村委員長に一方的に決められました。枝廣委員の言う悪魔の選択肢です。しかしエネ・環会議が提示した原発ゼロの選択肢は他よりも省エネを一段進めたもので、CO2排出量は他の選択肢とそん色ないものになりました。このことからも三村委員長の横暴さがうかがえます。
(谷村暢子)