見据えるべきは原発の無い未来
新年明けましておめでとうございます。 旧年中はNPO法人原子力資料情報室の活動にご理解とご協力を賜りまして、まことにありがとうございます。今年もご支援・ご協力をお願い申し上げます。
2024年を振り返ると、原発再稼働基数は女川2号が11月、島根2号が12月に再稼働し、2基増の14基(1325.3万kW)だった。廃炉となった原発は24 基(1742.3万kW、東海、浜岡1/2号含む)で変わらず、新規制基準審査中は9基(952.1万kW、建設中の大間、島根3含む)、審査合格は3基(381.2万kW)、不合格1基(116万kW、敦賀2号)未申請は9基(963万kW、東電東通含む)となっている。
再稼働をめぐる動き
2025年中の原発再稼働は見込めない。審査合格済みの日本原電東海第二は2023年10月に防潮堤の施工不良を明らかにしており、24年8月には工事完了を2026年12月に延期している。
柏崎刈羽原発6/7号では21年4月に出された核燃料の移動禁止命令が23年12月に解除された。24年4月には7号の燃料装荷を行い、25年6月には6号にも装荷するという。また使用済み燃料の7号から3号への輸送(24年度中、380体)や青森県むつ市のリサイクル燃料貯蔵㈱の中間貯蔵施設への燃料輸送が行われた(9月24日~26日、4号から69体、キャスク1体)。柏崎市の桜井雅浩市長は6/7号の使用済燃料貯蔵率を概ね80%以下とすることを再稼働に同意する条件として挙げており、号機間輸送はその条件を達成するために行われている。
一方、新潟県内では、県民投票条例制定をもとめる署名活動が行われている(12月28日まで)。花角英世新潟県知事は8月、遅くとも2026年6月の2期目満了に伴う県知事選までに再稼働是非を判断する時期を示すとしている。つまり、そこまでは再稼働はないと言える。
その他の原発は当面再稼働のめどはたっていない。ただし、泊や浜岡など審査に進捗がみられる原発が出てきており、予断を許さない。
使用済み燃料をめぐる動き
使用済み燃料問題に関連しては、上述の通り、むつのリサイクル燃料貯蔵の供用開始が2024年度最も大きな動きだった。関西電力が中国電力と計画している上関の中間貯蔵施設については、4月~11月までボーリング調査が行われた。また、関西電力は23年に電気事業連合会が発表した使用済MOX燃料再処理実証研究に伴い、27年~29年にかけて高浜原発の使用済燃料190トン/使用済MOX燃料10トンを仏Orano社に搬出する計画だ。高浜原発の使用済み燃料貯蔵量は2027年には満杯となり、それ以上の運転ができなくなることから、この輸送は事実上の使用済み燃料対策だと言える。
最終処分をめぐっても2024年は動きがあった。北海道の寿都町・神恵内村で行っていた文献調査が完了し報告書が発表された。2025年には北海道などで説明会が開催される。玄海町での文献調査も6月から実施されている。
総選挙と原子力
2024年10月の総選挙では残念ながらエネルギー政策は大きな争点とはならなかった。だがメディア各社が行った立候補者へのアンケート調査から当選者の回答を分析すると興味深い状況が浮かび上がる。NHKと朝日新聞、日本テレビの調査を分析したが、たとえばNHKのアンケート結果からは、当選者の中では原発依存度は現状維持や高めるといった意見よりも、下げる、またはゼロにするという回答の方が多いことが分かるのだ。ただ現状というのが2023年度の9%なのか、それとも2030年目標の20~22%なのかは不明だ。また、朝日新聞と日本テレビでは質問している内容は似ているが、「いますぐ」廃止と聞くか「将来的」全廃と聞くかで回答結果は大きく変わっている点も興味深い。
NHKおよび日本テレビの回答を総合すれば、衆議院における原発縮小派と脱原発派は実は半数を占めていることになる。併せて政党別での回答傾向を示した(紙幅の都合からNHK分のみ)。原子力政策に限ると自民党と公明党は傾向に大きな違いがあることがわかる。公明党の回答傾向は立憲民主党に近い。
議員個人の意見が政策にそのまま反映するわけではないが、この結果は現状の原子力積極推進路線がそのまま通る状態ではないことを示唆している。私たちは説得力のある情報を提供することで、脱原発派議員を支援する必要がある。
第7次エネルギー基本計画
岸田政権は、GX(グリーントランスフォーメーション)の名の下、原発積極推進政策に舵を切った。GXとは「産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する」ことを意味する造語だ。特に大きいのは福島第一原発事故後の停止期間を原発の運転期間から除外したことだ。法律で原発の運転期間は40年または例外的に60年とされていた。だがこの改悪によって多くの原発は稼働期間が10年以上伸びた。
一方で、筆者も参加した第7次エネルギー基本計画にむけた原子力小委員会の議論では原発が今後廃炉を迎え、設備容量が減少する想定が示された。これを受けて設備容量を維持するためには、原発の新設が必要だという意見が複数の委員から示された。だが、停止期間分、稼働期間を延長した場合どうなるのかを経産省は示していない。そこで、延長した場合の設備容量推移を推計した(60年稼働+アルファシナリオ:再稼働していない未廃炉原発はすべて2028年末に再稼働、建設中の大間・東電東通・島根3は2030年稼働と想定)。廃炉になっていない原発が停止期間分延長した場合、少なくとも2050年まで、現在の設備容量を上回り続けることになる。そのため、経産省らが主張する通り原発を新設した場合、現状の設備容量を上回ることになる。
併せて、現行エネルギー基本計画では2030年20~22%とされている原発比率が将来どうなるのかも推計した(前提:年間電力需要は2033年まではOCCTO需要想定、2040年は1兆kWh、2050年は1.2兆kWhと仮定し、その間を線形補完、原発は60年稼働+アルファシナリオで設備利用率70%)。結果、仮に全原発が再稼働できた場合、原発シェアは2030年から2047年まで20%台で推移することが分かった。
電力需要のために原発の新規建設が必要だという主張は明白な誤りである。経産省の資料は委員のミスリードを促すものだったといえよう。
2023年に閣議決定されたGX基本方針は革新軽水炉の運転開始を2030年代後半と見込んだ。仮に60年運転と考えると、2090年代後半まで稼働する。ところで、2023年12月に開催された第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)のサイドイベントで、米英日など23カ国が2050年までに世界の原発設備容量を3倍にするという宣言を発表した。2024年11月のCOP29でも同じ宣言が採択され、賛同国は31カ国に増えた。
原発の燃料はウランだ。現在は在来型のウラン鉱山から採掘されたものを用いているが、特に安価に採掘できるウランは年々減少している(1トン当たりの採掘コストが40USD(米ドル)以下のウラン確認埋蔵量は2001年の205万トンから2021年には77万トンに減少)。そこで今後のウランの状況はどうなるのかを2021年時点のウランの確認埋蔵量792万トンと原発3倍宣言をもとに推計した(前提:合計設備容量393GW時の年間ウラン消費量を6.3万トンとして、設備容量を2050年に3倍とし、その間は線形補完、MOXなどのウラン2次供給分は世界原子力協会資料から作成)。結果、在来型のウランは2070年代に枯渇する見込みとなった。新設する革新軽水炉の燃料は2050年原発3倍宣言が実現した場合、寿命中途でなくなることになる。追加でウランが発見されなければ、という条件付きではあるが、燃料安定供給という点からは大きなリスクだといえよう。
原子力小委員会では、原子力事業者らが原発新設に係る費用や原発維持費を支援するよう求めている。原発は国民につけを回さなければ建たない電源と化したのだ。そのうえ新設する根拠も極めて不透明なうえ、いずれ燃料が枯渇する。もはや原発新設は百害あって一利なしとなったといえよう。
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昨年6月、当室共同代表を長らく務めてきた伴英幸が亡くなりました。11月に開催した偲ぶ会には多くの皆様にご参加いただきました。誠にありがとうございます。伴を失ったことは私たちにとって大きな痛手でした。ですが、脱原発に向かうためにスタッフ一同日々努める所存です。
今年は当室の開室50年の節目の年になります。ご支援・ご協力の程、何卒よろしくお願いいたします。
(松久保 肇・事務局長)
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