[韓国訪問記] 汚染水の海洋投棄に厳しい視線と強い反対の声

『原子力資料情報室通信』第589号(2023/7/1)より

 5月8~10日にかけて韓国に招聘された。日本で進行中の汚染水の海洋放出に関する講演だ。今回訪問したのは、済州(チェジュ)島、麗水(ヨス)市、ソウル市の3カ所で、4回の講演を行なった。
 チェジュでは、まずチェジュ特別自治道議会の会議室で話した。この時は6野党が連携して「福島原発汚染水海洋投棄阻止6野党共同対策委員会」と韓国環境運動連合チェジュ支部、YWCAチェジュ支部が主催した。グリーンピース・インタナショナル・アジア担当のショーン・バーニー氏と2人で話した。彼はトリチウムの危険性に焦点を当てた話だったので、筆者は、日本でも漁業者団体を中心に強い反対があること、彼らの合意なしに放出はできないこと、トリチウムを含む31核種の放出が30年以上にわたって続くことに焦点を当て、代替案としてのモルタル固化について話した。
 「政治参加を進める母たち」チャン・ハナさんは、海洋投棄は国際海洋法違反であり、政府が訴えるべきだと主張していた。その根拠は、同条約194条が「いずれの国も、あらゆる発生源からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、利用することができる実行可能な最善の手段を用い」るよう求めていることにある。
 KFEM1)チェジュの事務局長キム・ジョンドさんは、日本の海洋投棄の決定に対して日本領事館に抗議文を持って行ったが、受け取ってくれずショックを受けたと語った。道知事は投棄が始まっていない今こそ阻止を求める意見書を出すべきだとも語った。
 道議会から別の建物へ移動して、海女さんたちとの会合に臨んだ。韓国の沿岸地域には海女さんが非常に多い。そしてとにかく元気がよかった。口々に放出されたら私たちは生活できなくなると捲し立てた。反対運動への参加を呼びかける主催者も組織の上部へ直接働かけるべきと反論されるほどだった。

麗水市環境図書館で講演
 麗水市も漁業のまちだが、大きな化学工場があり水俣であったような影響が出ているとのことで、水俣病センター相思社と交流があるという。YWCA、アイコープ生協、KFEMなど6団体が共催して開催された。集会には韓国全漁連執行委員長キム・ヨンチョル氏が参加してくれた。釜山から麗水にかけての沿岸の漁師たちが強く反対していることを伝えてくれた。この日は筆者だけの講演だったので、トリチウムの危険性などにも触れながら話した。通訳が入るので1時間の短いプレゼンだった。

ソウルの国会議員会館にて
 10日は、国会議員会館での講演で、ここではショーン・バーニー氏とIEER 2)のアージュン・マキジャニ氏も加わり演者は3人だった。主催したのは、共に民主党、正義党、進歩党と市民団体「福島放射性汚染水海洋投棄阻止行動」らだった。日本での場合と
似て、国会議員の挨拶が続いた後、マキジャニ氏から始まり、筆者は最後にプレゼンを行なった。
 放出されれば、汚染水はアジア大陸や太平洋島嶼国などの沿岸に到達する。薄まり、わずかかもしれないが、人々には放出からのメリットは何もないが、デメリットだけ受けることになる、とのマキジャニ氏の発言が強く印象に残った。
 どの会場でも受けた質問は、反対の声が上がっているのに「なぜ政府は海洋投棄を強行しようとしているのか」という問いだった。これには答えに窮した。かろうじて政府・東電が福島県との間で、廃炉で出る汚染物質を県外に搬出すると、できない約束をし
たからだと答えた。        
1)韓国環境連合運動(Korean Federation for Environmental Movement)
2)環境とエネルギー調査研究所(米国)(Institute for Environment and Energy Research)

  (伴 英幸)

 

 

 

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