放射性廃棄物WG奮闘記④ いい加減な対話の場の総括が露呈した第39回会合
5月23日に第39回放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)がオンラインで開催された。今回の議題は大きく2つあった。1つ目が、「当面の取組方針2023」の策定であり、2つ目が文献調査に関する経済社会的観点からの評価だ。委員として発言した筆者のコメントとそれに対する回答を中心に、WGの内容をまとめたい。
対話の場に対する緩すぎるNUMOの自己評価
当面の取組方針は2019年に策定され、国が複数地域での文献調査実施に向けた取り組みをまとめたものだ。現在、国はその内容を更新することを目指している。内容が多岐にわたるため、ここでは文献調査が実施された北海道寿都町と神恵内村に設置された対話の場の総括について重点的に扱いたい。
対話の場は、地層処分について調査地域の住民が議論を行う場で、自治体とNUMOが共同で運営している。筆者は以前のWGで、特に寿都での運営の問題点を、たびたび指摘してきた。今回のWGでは、NUMOが自らその振り返りを行った。まずNUMOは寿都での対話の場について、当初は「目的が処分場誘致ありきで不適切」といった不満の声があったことを紹介した。批判的な住民の声を紹介したのはやや意外だったが、その後は手緩い自己評価が続いた。
まず対話の場のテーマは、NUMOがメンバー全員と相談して決定しており、地層処分事業から国のエネルギー政策、さらには将来の町づくりへとテーマが推移しており、あたかも順調に議論が積み重なっているように説明した。寿都町で対話の場のファシリテーターを務める北海道大学の竹田宜人教授の言葉を引用し、メンバーの皆さんの意見が出尽くすところまで対話を継続することに努めていると述べた。また町役場の意見も紹介し、ファシリテーターがいることで、話したことを聞いてくれる、キャッチボールができる、という議論のスキームができていることを強調した。また、対話の場以外にも、「寿都町の将来に向けた勉強会」を作り、様々な対話活動を実施していることを印象付けた。
基本方針違反の対話の場の運営
実情とかけ離れたこのNUMOの自己評価に対して、筆者は厳しく追及した。まず基本方針に規定されている「対話の場」の運営方針が、寿都町と神恵内村で順守されていない実態を指摘した。基本方針には「多様な関係住民が参画し、情報を継続的に共有」する場として、対話の場を規定している。また国とNUMOは、そのために「専門家等からの多様な意見や情報の提供の確保」に努めるとしている。
しかし両町村で実施された対話の場には、地層処分や科学的特性マップに批判的な専門家の意見を均等に聞く機会は確保されなかった。神恵内村ではただ一度、批判的な専門家を招いたシンポジウムが開かれたのみであり、寿都町においては、批判的な専門家からの意見も聞きたいという住民の要求を聞き入れなかった。NUMOによる一方的な情報提供の
どこが、多様な意見や情報の提供と言えるのか。
また、寿都町の対話の場は、大多数が文献調査賛成住民であり、多様な関係住民の参画も実現していない。基本方針に反する実態をなぜ放置したのか、経産省とNUMOの見解を聞いた。さらに、この事態の改善のために、今後の対話の場の運営においては、文献調査に反対する住民の参加を半数程度確保し、反対派の対話の場メンバーが推薦する専門家を招集することを権利として保障すべきと提案した。
不公正な対話の場を放置した弊害
基本方針に違反した対話の場の運営によって生じた被害についても問い質した。その被害は、一言で言えば、地域の分断の助長だ。それは、寿都町で文献調査反対の活動をしている「子どもたちに核のゴミのない寿都を!町民の会(以下、町民の会)」が5月5日に経済産業省放射性廃棄物対策課に提出した質問状に象徴的に表れている。
質問状の内容は、改定された基本方針で新たに明記された「政府の責任」についてだ。そこでは地域社会の分断で生じた住民の精神的苦痛に対して、政府の責任として謝罪をしないのかと追及している。これに対し、経産省は5月16日に「具体的な事実関係に応じて対応すべき」と述べ、「いただいた御意見については、真摯に向き合う」と回答していた。
筆者は、このやり取りを取り上げ、具体的な事実関係に応じて対応するために、独立性の高い専門チームを作ることを提案した。このチームが実際に寿都町や神恵内村で聞き取り調査を行い、文献調査によって生じた社会的経済的被害や精神的苦痛の実態を解明することこそ、対話の場の総括における、具体的な事実関係の把握につながるはずだ。NUMOが、共同運営者である町役場の声や、自らが推薦したファシリテーターの意見だけを聞いて、対話の場の検証を終わらせるのであれば、無責任極まりない態度であり、大きな禍根を残すことになる。
無回答で逃げた経産省とNUMO
筆者の質問や提案に経産省やNUMOがどう答えるか、注目していた。しかし結果は「無回答」だった。会議場には、NUMOの近藤駿介理事長も出席していた。基本方針違反という問題提起に対して、そうではないと思うならば堂々と反論をすればいい。何も回答せず逃げる姿勢に、果たして何のためにNUMOの理事長が出席しているのか、理解しがたかった。
同様に経産省も、町民の会に対して示した「具体的な事実関係に応じて対応する」という回答の具体的内容を語らなかった。改定された基本方針で新たに「政府の責任」を謳いながら、地域住民の訴えを無視し続けるのであれば、その無責任な態度は、厳しく市民社会から批判されるだろう。
文献調査に関する経済社会的評価
もう一つの議題だった、文献調査に関する経済社会的観点からの評価についても簡単に触れたい。NUMOが文献調査の評価のあり方について案を出し、この数カ月間、地層処分技術WGがその技術的評価を実施してきた。4月28日に開かれた第24回地層処分技術WGで、技術的評価が終了したため、今回の放射性廃棄物WGで経済社会的観点からの評価が行われた。
経済社会的観点からの評価というと、とても範囲が広く聞こえるが、NUMOの説明では、その内容がほぼ、調査の際の「土地利用制限」に限定されていた。つまり文献調査実施地域において、国土利用計画や土地利用基本計画など土地利用に関する個別規制法等の指定状況を調査して、利用制限の有無を確認するということだ。
これに対し、筆者は、いくつか疑問点を指摘した。まず放射性廃棄物WGは、土地利用が専門の委員が多くいるわけでもないので、このWGでどれだけ実質的な評価ができるのか疑問だ。それにそもそも経済社会的観点を土地利用制限に限定する正当な理由や根拠も不明だ。環境法や環境社会学、環境教育学の専門家などを招き、文献調査において、経済社会的観点をどのような範囲や内容にすべきか改めて議論してもよいのではないかと提案した。
NUMOの回答は、最初の文献調査段階では、まず土地利用という制度面での議論が最も重要であり、今後調査が進むにつれて、考慮事項が増えていくと回答した。しかし、実際の文献調査において、すでに様々な経済社会的問題が表出しているだろう。形式的な説明に説得力は感じられなかった。
(高野 聡)