沸騰水型原発で制御棒の破損とひび割れ(『通信』より)

沸騰水型原発で制御棒の破損とひび割れ

『原子力資料情報室通信』381号掲載(図表略)

■制御棒破損問題の広がり

 福島第一原発6号炉でみつかっている制御棒の破損とひび割れの問題は、他の原発へと広がるようすを見せている。

 1月9日からの福島第一6号炉の点検で、大きな破損や40箇所を超える多数のひび割れがみつかったのは東芝製の制御棒である。中性子の吸収材として板状のハフニウムを使っているタイプのハフニウム板型制御棒で、「出力調整用」として部分的に炉心に挿入して用いられている。

 図にあるように薄いハフニウム板の組がステンレスのさや(シース)でつつまれ、コマとよばれる部材によってシースに固定されて、1枚のブレード(厚さ7?8ミリ)を構成している。4枚のブレードがタイロッドでつなぎ合わされて1本の制御棒になる。問題になっているのは、シースとタイロッドに発生しているたくさんのひび割れと、そこから発展して起きたと見られるシースの破損である。福島第一6号炉では、使用中の17本のハフニウム板型制御棒のうちの9本に破損とひび割れが起きているのがわかった。

 ハフニウム板型の制御棒は、他の沸騰水型炉の分を合わせて382本使用中であり、使い終えたものは207本保管されている。2月3日の段階では、使用中のもののうち31本しか点検がすんでおらず、いまのところ異常が見つかったのは福島第一6号炉の分だけである。使い終えた制御棒129本を調べたところ、柏崎刈羽2号炉で4本、同6号炉で1本、浜岡3号炉で13本に異常が発見されている。

■こわれたブレーキのまま運転継続

 原子力安全・保安院はこれらの損傷は中性子の照射量がかかわっているとして、2月3日に沸騰水型炉を運転する電力各社に、熱中性子照射量が4.0×10^21個/cm^2を超えている制御棒や今運転期間中に超える見込みのものについては、運転中は完全に挿入した状態にするように指示を出した。壊れて挿入できなくなる前に炉心に入れておけばいい、というのである。このような状態で運転を継続するのは異常事態である。

 これにより、たとえば、浜岡4号では21本の制御棒を挿入し約40万キロワットも出力低下させて,約70万キロワット(62%)で運転を続けている。制御棒は原子炉のブレーキにあたる機器であり、それが正常でない状態で運転を続けるというのは危険きわまりない。米国のラサール2号炉での出力振動事故(1983年)やウクライナのチェルノブイリ4号炉(1986年)の大事故は低出力運転状態での事故であった。大惨事を招かないためにも、電力会社は原子炉を直ちに止めて詳しく点検を行なうべきである。

■中性子照射による応力腐食割れ(IASCC)

 シースやタイロッドはSUS316Lというステンレス鋼製である。ハフニウムを中性子吸収材として使用する際に、長期間の使用を前提として、従来の制御棒に使用していたSUS304より応力腐食割れが起こりにくいというので採用されたものだ。しかし、米国での研究炉やBWRの照射実験によると、SUS316でも高速中性子照射量1.0×10^21[n/cm^2]を超えると応力腐食割れが発生することが知られており、それほど有利ともいえない。長期間の運転のために、より高燃焼度の燃料を採用したり、MOX燃料を使用したりということになると条件はさらに厳しくなる。

 保安院の指示は熱中性子照射量4.0×10^21[n/cm^2]を超えるものを対象にしているが、高速中性子照射量は一般にこれよりかなり多い。過去の事故例からも、もっと少ないレベルで応力腐食割れが発生して潜在している可能性が高いので、調査・点検の対象を広げるべきである。制御棒のタイプについても、最近の事例だけでもハフニウムフラットチューブ型、ハフニウム棒型、ハフニウム-ボロンカーバイド型のいずれのタイプでもひび割れが起きており、ハフニウム板型に限定されるべきではない。

 東京電力スキャンダルでSUS316Lのひび割れに注目が集まっており、さらに、2003年にハフニウム板型でコマ溶接部周辺を中心にひび割れが見つかっていることから、電力会社が制御棒のひび割れについて調査していなかったとは考えにくい。使用済みの制御棒でのひび割れ発見は、ひび割れを見つけていながら隠していたことを意味しているのではないか。(上澤千尋)

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