長計策定会議日誌(5)
長計策定会議日誌(5)
2004年8月13日
第1回技術検討小委員会(8月10日)
この小委員会では直接処分のコスト試算を出した上で、ガラス固化体の処分など他の選択肢との比較を行なう手順で進めることを確認し、コスト試算のための前提条件の議論を行なった。さまざまな意見が出たが、印象に残っているのは再臨界問題だ。使用済み燃料がキャニスター(処分のための容器)の中で溶けて集まり臨界を起こす恐れがあることが指摘された。再臨界といってもそれによって爆発するのではなく、熱の発生あるいは、核分裂生成物が新たに出来てしまうことの問題である。これを避けるために、田中委員は1キャニスターに2体(PWR燃料として)を入れることも検討するべきとの主張であった。事務局提案は4体だったので、倍の容器が必要になりそれに伴ってより広い処分場面積が必要となるだろう。
使用済み燃料の貯蔵期間が54年間とする原案に対して、伴はその期間を発熱量がガラス固化体と同等になる90年で試算も行なうことを発言した。その他に、98年に試算された原子力発電環境整備センターの資料には1キャニスターあたり3体になっていたので、その試算を参考にすることも発言した。また、ガラス固化体の処分費用の見積り額(約3兆円)の明細の公表を求めた。
キャニスターを縦置きにするのか横置きにするのかなど、他の委員からも活発な発言があった。
余談ながら、佐竹委員(藤委員の代理、東電)が、直接処分策を選択したとしても海外返還のガラス固化体の地層処分は避けられないとの発言も面白かった。前回策定会議で、私は逆の発言をしたからだ(再処理をしてもガラス固化体のみの処分では済まず、いずれ使用済み燃料を直接処分することになる)。直接処分策に対抗して、ガラス固化体処分研究のこれまでの努力が水泡に帰すかの発言があるが、再処理政策を掲げていることで、直接処分の研究にはまともな予算がついてこなかったことのほうがむしろ問題だ。
技術小委員会の作業は9月中に行なうとのこと。コスト試算は時間のかかる作業なので、すでにほとんどが行なわれているのだろうと推察している。ただ、条件設定では委員の了解が必要なので、今は、手続き的議論とそれに伴う若干のコスト修正のための時間と考えられる。
情報室は、現在の安易な地層処分策は認められないとの主張を展開してきた。ガラス固化体処分の安全評価にも疑問と批判を行なってきた。政策選択のための一つの視点としてのコスト比較となると、一旦はガラス固化体処分の諸条件をある程度前提にすることになる。また、4つの選択肢では、目の前の六ヶ所再処理工場の運転を認めるのか否かを含めた再処理政策のとり得る選択肢を議論している。このような議論の中では、根っこのところの原子力政策からの撤退の議論にはならないもどかしさがある。脱原発議論は不可欠で、総合評価段階で主張していきたい。
第5回策定会議がその翌日の早朝9時から開催された。美浜原発事故で4名の方がなくなったことへの黙祷が約10秒間だったが行なわれた。この事故で毎回意見書を提出するとの私の公約は敗れてしまった。それはともかく、2次系は放射能が含まれていないとの原子力安全・保安院の発表は間違いなので、トリチウム他の2次系冷却水の放射能データの調査公表を求めた。また、定検日数減少に血道をあげる安全軽視も問いたださなければならないことも付け加えた。この事故は指摘を受けながらもそれを軽視して運転を続けてきた関電の制度疲労が背景要因だと私は考えている。
策定会議では、前日の技術検討小委の報告と条件設定で問題提起があったが、議論は持ち越しとなった。また、情報の共有と言うことで、いくつかの機関が行なっている長期的な需給シナリオの説明が、原研からあった。シナリオには市民エネルギー調査会が最近発表したシナリオもISEP研究として紹介されていた。省エネ策の導入を柱の一つに据えているので、「いきかえる」シナリオがひときわ目立っていた。他は相変わらずの需要増大予想が主流だ。この予測については、勝俣委員(東電)、殿塚委員(JNC)、内山委員(元電中研)などの予測を立てたことのある委員たちが、”この種の予測は当たったためしがない”と口をそろえたことには痛快だった。当たったためしのない予測に何も言うこともないと思ったが、やはり、コメントするべきだったと後悔した。