自由民主党総裁選挙における候補者の核燃料サイクルに関連する発言について

自由民主党総裁選挙における候補者の核燃料サイクルに関連する発言について

2021年9月23日

NPO法人原子力資料情報室

現在行われている自由民主党総裁選挙の議論において、核燃料サイクルに関して見過しにできない大きな誤解がみられたので、指摘しておきたい。

9月18日の日本記者クラブでの候補者討論会で、岸田文雄元外相は「核燃料サイクルを止めてしまうと、除去される高レベルの核廃棄物はそのままということになる。再処理すると廃棄物の処理期間は300年と言われている。高レベルの核廃棄物を直接処理すると10万年かかると言われている。この処理の問題をどう考えるのか。核燃料サイクルを止めてしまうとプルトニウムがどんどん積み上がってしまう。日米原子力協定をはじめ、日本の外交問題にも発展するのではないか。この問題をどう考えるか。核燃料サイクルを止めると別の問題が出てくるのではないかと思っている。」と発言された。

岸田氏の発言は、前半は核燃料サイクルでの廃棄物問題解決、後半はプルトニウムにからむ外交問題ということになる。前半は間違いに加えて核燃料の再処理だけで高レベル放射性廃棄物の問題が解決するかのような誤解が見られる。後半は間違っている。

「再処理すると廃棄物の処理期間は300年」というが、「処理期間」ではなく「有害度低下期間」と資源エネルギー庁などが呼んでいる期間で、まったく別物である。さらにこの場合の「再処理」は、現在、青森県六ヶ所村で建設中の六ヶ所再処理工場での使用済み燃料の再処理のことではない。未だ計画すら見えない第2再処理工場を建設し(現在の見積もりでは総費用は13.5兆円)、さらに、すでに1兆円以上を投じて失敗した高速増殖炉/高速炉を十数基新設して、何十年もこれを運転することで、初めて実現できることである。あたかも使用済み燃料を再処理することで問題が解決するかのように説明するのは、誤解を招く。

後半の「核燃料サイクルを止めてしまうとプルトニウムがどんどん積み上がってしまう」というのは端的に誤りである。使用済み燃料を再処理することでプルトニウムが分離され、増えていく。原発でMOX燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料)を使うことをやめれば、プルトニウムの消費はできなくなるが、それでも使用済み燃料を再処理しなければプルトニウムが増えることはなくなる。歴史的には米カーター政権時代、米国は日本の再処理に懸念を表明し、その後も日本のプルトニウム蓄積状況を注視している。むしろ外交問題を引き起こしているのは再処理である。

また、9月19日、NHK日曜討論で、高市早苗前総務相は「原発を使い続ける限りサイクルを止めてしまうわけにはいかない」と述べ、岸田氏は「サイクルを止めると高レベル廃棄物の処理が問題になる。維持すべきだ」と述べている。再処理を止めると使用済み燃料が行き場を失い、原発が止まるという見解だ。これも認識に誤りが見られる。世界を見渡して、使用済み燃料の再処理をしている原子力利用国は現状、フランス、ロシア、インドのみだ。他のいずれの国も再処理しておらず、放射性廃棄物の最終処分も進んでいない。それでも、使用済み燃料の行き場がないという状況は生まれていない。多くの国で、使用済み燃料の乾式貯蔵が進められているからだ。

現在、日本の原発の使用済み燃料プールが満杯に近くなっているのは、原子力事業者が、六ヶ所再処理工場で再処理できることを前提に使用済み燃料の貯蔵能力を確保する一方、六ヶ所再処理工場が25回の稼働延期を繰り返した結果である。つまり、むしろ使用済み燃料の再処理を軸とする核燃料サイクル政策自体がプール問題の原因となっている。

 六ヶ所再処理工場は14.4兆円、MOX燃料工場分も含めると16.9兆円にも上る巨大事業である。稼働すれば、莫大な量の放射性物質を海や大気に放出する。このような事業を単に電力会社の使用済み燃料の置き場がないといった程度の問題ですすめるべきか。実現性の低い高速炉サイクルといった夢を追うのではなく、現実を踏まえた政策議論をお願いしたい。

以上

 

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