原子力委員会政策評価部会の意見募集:平和利用の担保について
「原子力政策大綱に示している原子力の平和利用の担保に関する基本的考え方の妥当性の評価について」報告書(案)
意見募集の期間:平成19年3月13日(火)~4月12日(木)17時まで
意見を提出したい方:原子力委員会のホームページをご覧になって下さい:
aec.jst.go.jp/jicst/NC/senmon/seisaku/bosyu/070313/bosyu070313.htm
ご参考のために:原子力資料情報室の国際担当フィリップ・ワイトが提出したいくつかの意見を以下にはっておきました。
意見1
「原子力政策大綱に示している原子力の平和利用の担保に関する基本的考え方の妥当性の評価について」報告書(案)に対する御意見の対象箇所:
全体
御意見の概要
原子力の平和利用の担保は技術的な問題だけではなく、政治的な問題でもある。原子力委員会はどういうふうに核武装化の政治的な動きを探知するか、探知した場合、どういうふうに平和利用を担保するかを示すべきである。
御意見及びその理由
原子力委員会の基本的な役目は原子力の平和利用の担保ですが、核武装するかどうかは政治的な問題である。政治的なレベルで核武装化の動きが出たら、原子力委員会はどういうふうに原子力の平和利用を担保するかが「案」の中に示されていない。原子力委員会は、核武装化の動きをどういうふうに探知するか、探知した場合、どういうふうに平和利用を担保するかを示すべきである。これができなければ「原子力の平和利用」という表現はごまかしに過ぎない。
意見2
「原子力政策大綱に示している原子力の平和利用の担保に関する基本的考え方の妥当性の評価について」報告書(案)に対する御意見の対象箇所:
全体
御意見の概要
日本の原子力政策(特に核燃料サイクル)は、核拡散に拍車をかける恐れがあるという認識を明記するべきである。
御意見及びその理由
「案」は日本が原子力の平和利用のモデル国であると自慢しているが(例えば3.3.4、p.23)、海外では必ずしもそういうふうに見られていない。逆に、非核兵器国としてフル核燃料サイクルを有している唯一の国であることの不平等性に対して、不満を抱いている国もある。例えば、隣の韓国の原子力研究者からそういう文句をよく聞く。また、核疑惑国が日本の前例をあげて、自分の態度を正当化しようとすることもある。こういうことは核拡散に拍車をかける恐れがあるという認識を「案」に示すべきである。
意見3
「原子力政策大綱に示している原子力の平和利用の担保に関する基本的考え方の妥当性の評価について」報告書(案)に対する御意見の対象箇所:
3.1.3 部会及び「ご意見を聴く会」における議論⑯、p.14
御意見の概要
最後の段落「東海再処理施設・・・提起されているものです」を破棄するべきである。
御意見及びその理由
核武装するかどうかは政治的な問題であるのに対し、MOXの核不拡散性は物理的な問題である。「この意見に対するコメント」は物理的な側面に限って述べるべきである。以下に説明するように、MOXについての今までの政治的な判断は信頼性に欠けている。
東海再処理施設で「混合転換することで米国が同工場の運転について我が国に同位し」たことは、日本の粘り強い外交のためにアメリカが妥協したということに過ぎない。
GNEPの方は、「製品がプルトニウム単体ではないこと」という表現の意味にかなりの幅がある。2006年2月にGNEPが発表された祭考えられていた再処理製品は、日本の東海村・六ヶ所村にある再処理工場で製造されているMOX製品と全然違う。EOI(感心意図表明)における「トラック1」でも、日本のMOX製品とまったく同じものが認められるかどうかはかならずしも明確ではない。
そもそも、2006年2月に提案されたGNEPの再処理方法は核不拡散性に優れていないと多くの学者が指摘している。しかし、トラック1で採用しようとしている再処理技術は、最初に発表されたGNEP案にあったものではない。原案はあまりにも非現実的であり、実現性があるとしても何十年も先になるので、もっと近い将来に採用できる技術から始めようという考え方から提案された技術である。「核不拡散の観点からプルトニウム単体より他の元素との混合物の方が優れるとの判断」より、むしろブッシュ政権の任期内にGNEPを定着させるために核不拡散性の物理学的な根拠がなくても押し進めようという判断から生まれた案である。
物理的な問題を政治的な問題と混乱させてはならない。そして、東海村・六ヶ所村にある再処理工場で製造されているMOX製品であれ、GNEPのトラック1で提案されている製品であれ、核不拡散性に優れていないということを原子力委員会はごまかしてはならない。そのゆえ、この段落を破棄すべきである。
意見4
「原子力政策大綱に示している原子力の平和利用の担保に関する基本的考え方の妥当性の評価について」報告書(案)に対する御意見の対象箇所:
3.3国際社会に対する発信
御意見の概要
プルトニウム管理状況を日本語で発表する祭、同じ細かい内容を英語でも発表するべきである。
御意見及びその理由
海外の方々は日本のプルトニウム管理状況に大変感心がある。「余剰プルトニウムを持たない」という約束は海外に対する約束でもあったので、プルトニウム管理状況を海外にいる方々に徹底的に説明すべきである。
意見5
「原子力政策大綱に示している原子力の平和利用の担保に関する基本的考え方の妥当性の評価について」報告書(案)に対する御意見の対象箇所:
3.4.3「部会及び「ご意見を聴く会」における議論」、④、⑤、⑥、p.25;3.4.4「評価」
御意見の概要
「余剰プルトニウムを持たない」という国際的約束に変わりがないことを明記するべきである。
御意見及びその理由
日本政府は「余剰プルトニウムを持たない」という国際的約束をしたが、2000年以降原子力委員会はその約束を曖昧にしてきた。以下の『原子力政策大綱』と『長期計画』から抜粋した箇所を見ると、プルトニウム利用政策が「余剰プルトニウムを持たない」から「利用目的のないプルトニウムを持たない」に移ってきた経過が明らかになる。この経過があるから、2007年2月20日の政策評価部会第2回で配付された「案」に、議論の中で提起された「意見」として突然加われた「プルトニウムの適切な在庫」という表現は、いくら「意見」に過ぎないと言っても、もともとの約束をさらに薄めようとする動きの表れだとしか考えられない。
以上のことは言葉と解釈の問題だが、原子力委員会はより重大な問題を隠そうとしている。実は、日本は既に「余剰プルトニウムを持たない」という国際的な約束を見事に破っている。どう解釈しても、43トン以上のプルトニウム在庫は余剰である。「利用目的のないプルトニウムを持たない」というより曖昧な表現に変更しても、約束が守れない。海外で取り出されたプルトニウムの利用計画がまだ示されていないだけではなく、国内のプルトニウムの利用計画もまだ示されていない。電気事業者連合会が発表したプルトニウムの利用計画は、六ヶ所再処理工場で取り出されたプルトニウムがいつまでに利用されるかを示していないからである。そこで、「プルトニウムの適切な在庫」という表現が出たとしか考えられない。
原子力委員会は「余剰プルトニウムを持たない」という政策に変わりがない、「プルトニウムの適切な在庫」を持つことが日本のプルトニウム政策ではない、と確認すべきである。以上に示された政策失敗を認め、3.4.4「評価」にも反映すべきである。
プルトニウム利用政策が「余剰プルトニウムを持たない」から「利用目的のないプルトニウムを持たない」に移ってきた経過
1.『原子力政策大綱』、原子力委員会、2005年10月11日
「我が国のプルトニウム利用が厳に平和の目的に限っていることについての国内外の理解と信頼の向上を図るため、利用目的のないプルトニウムを持たないという原則を示し、プルトニウム在庫に関する情報の管理と公開の充実を図ってきた。」(第2章、2-3.平和利用の担保, p. 23)
2. 『我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方』、原子力委員会決定、2003年8月5日
「 原子力委員会は、利用目的のないプルトニウムを持たない、すなわち余剰プルトニウムを持たないとの原則を示し、毎年のプルトニウム管理状況の公表など積極的な情報発信の方針を示してきた。」(『原子力政策大綱』資料4核燃料サイクル、4.6.1、p. 96)
3.『原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画』、原子力委員会、2000年11月24日
「我が国の平和利用政策に係る国際的理解と信頼を得る外交的努力とともに、利用目的のない余剰のプルトニウムを持たないとの従来からの原則を一層明らかにする観点からプルトニウム在庫に関する情報の管理と公開の充実を図るなどプルトニウム利用の徹底した透明化を進める。」(第2部、第3章、1. 基本的考え方)
4.『原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画』、原子力委員会、1994年6月24日
「我が国において計画遂行に必要な量以上のプルトニウム,すなわち余剰のプルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ,合理的かつ整合性のある計画の下でその透明性の確保に努めていきます。」(第2章、3.原子力開発利用の基本方針、(3)将来を展望した核燃料リサイクルの着実な展開)