【原子力資料情報室声明】原発の「運転期間延長」案を撤回せよ
2022年10月11日
NPO法人原子力資料情報室
10月5日、原子力規制委員会の定例会合で山中委員長は、原子炉等規制法が定める「原発の運転期間は原則として40年、ただし、特別の場合に限って1回の20年延長が認められる」とのルールを撤廃する経産省案に対して、「運転期間は原子力の利用のあり方に関する政策判断である。規制委員会が意見を述べる事柄ではない」と言明し、原子炉等規制法からの削除を容認する姿勢を示した。他の4委員からも異論は出なかった。
まったく言語道断というべき原子力規制委員会の姿勢である。
「40年ルール」はあの悲惨な東京電力福島第一原発の核事故を教訓として、2012年6月に導入されたものである。2011年3月、メルトダウンに至った福島第一原発の3基の原子炉のうち1号機はまもなく40年目を迎えるところだった。事故の収束も見通せないまま11年半あまりたつが、いまだ、「緊急事態宣言」は解除されてはいない。
進行中の経産省の原子力小委員会では、「安全を第一に」を大多数の委員が異口同音に繰り返しながら、原発の再利用へかじを切ろうとしている。再開された国会審議の場でも、野党に問われて10月7日、岸田首相も同じ「安全を第一に」と答弁をした。
それならば、問う。「安全第一」をどうやって確認できると言うのか。
原発の心臓部というべき「原子炉(圧力)容器」は中性子照射脆化(ぜいか)という危険症状をどう避けるかが最大の問題である。一般に原子炉容器にも用いられている金属は使用期間が長くなると原子炉内を飛び交う中性子を浴び続けるため、脆化が進む(脆くなる)が、その程度を非破壊検査で知る技術は無い。原子炉容器の中に挿入された幾つかの監視試験片を定期検査中に取り出して脆化の様子を調べることによって推量するのが唯一の方法だが、これが必ずしも当てにならない。2007年に制定された電気技術規定「JEAC4201-2007」は、この方法を用いるさいの規範だが、原子力安全・保安院(当時の規制機関)によって是認(エンドース)されて、適用されてきた。その後、2015年に、この規範に基本的な誤りがあることがわが国の指導的な専門家たちによって指摘された。原子力規制委員会・規制庁もそれを認めている。だが、一向に改善されないまま、すでに7年が過ぎた。また、脆化の状況を調べるはずの監視試験片は数が限られているため、頻繁に劣化状況が確認されているわけではない。運転期間が長期化すれば脆化が進展するにもかかわらず、監視試験片の不足も課題になる。試験済み監視試験片を再生利用するというが、再生できる量も限られ、さらに結局は何らかの加工を加えた形になるため、同等のものとは言えない。
「安全を確認する方法が無い」ことを示しているのだ。
もし、原発の活用をはかるのであれば、日本列島に住むすべての人々は、原発の存在というリスクを抱えて生きざるを得ない。もし、原発をやめるならば、このリスクをゼロにすることができる。
原子力規制委員会と政府は、業界の意を汲むか、国民の意に沿うか、判断を迫られているのだ。少なくとも、「運転期間延長」案は撤回すべきである。
以上