原発の気候変動脆弱性研究会報告書

原発の気候変動脆弱性研究会報告書

原発は気候危機に耐えられるか

気候変動の深刻化とともに、気候変動の長期に渡る影響がある程度見えてきた。そして、気候変動による異常気象が原発に与える影響についても、多くの学術論文が発表されるようになってきた。だが日本では、原発のCO2排出量の低さには着目されるものの、気候変動が原発に与える影響についてはほぼ関心がもたれていない。そこで、NPO法人原子力資料情報室は、原発の気候変動脆弱性研究会を立ち上げ、気候変動対策として原発が本当に使えるシステムなのかを検討するため、原発の気候変動脆弱性に関して、現時点の状況の取りまとめを行った。

※本研究は一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストの2022年度企画助成事業を受けて実施した。


2023/12/8 ウェビナー「原発の気候変動脆弱性研究会報告書 原発は気候危機に耐えられるか」を開催しました。


研究会メンバー鮎川ゆりか(千葉商科大学名誉教授、CUCエネルギー株式会社 取締役)
大島堅一(龍谷大学 政策学部 教授)
川井康郎(プラント技術者の会)
蓮井誠一郎(茨城大学 人文社会科学部 教授)
松久保肇(原子力資料情報室事務局長)

オブザーバー 山口幸夫(原子力資料情報室共同代表)
報告書概要第一章
現時点での原発と他電源のCO2排出量を比較し、原発の優位性が圧倒的ではないことを確認した。また気候変動が原発施設に与える影響を概観し、電源選択にあたっては原発が利用できる環境が長期的に維持されるのかどうかが課題になるという、本報告書のテーマを示した。

第二章
経済的な観点から原発が気候変動対策に効果的な選択肢かどうかを検討した。気候変動対策に取りうる選択肢は複数存在し、原発はその中の1オプションに過ぎない。気候変動対策が喫緊の課題である以上、費用対効果・時間対効果の観点は非常に重要であるが、原発はコストが高く、時間がかかりすぎ、気候変動対策たり得ないことを明らかにした。また、将来の原発のCO2排出量についても検討した。現在、原発のCO2排出量の半分以上はフロントエンド、つまり燃料製造段階で発生している。なかでもウラン濃縮が最も排出量が多い。だがウラン資源の枯渇にともない、より低品位のウランを採掘するようになると、ウラン採掘・製錬工程でのCO2排出量が増加していく。場合によっては、LNG火力発電所並みのCO2排出量になりうる。

第三章
原発の安全性に関する気候変動の影響の検討を行った。海外では東京電力福島第一原発事故を契機にして気候変動による極端事象に原発が耐えうるかという観点からの研究が数多く存在する。にもかかわらず、日本では気候変動への危機意識が低い。多くの文献レビューで浮かび上がってくることは、気候変動が原発に及ぼすきわめて深刻な影響と危険性である。気候変動の深刻化とともに、原発の停止頻度は増加傾向にある。また海面上昇や水温上昇、冬の豪雪など、気候変動に伴う事象により、原発の安全性は影響を受ける。

第四章
2011年の東京電力福島第一原発事故を踏まえて策定された新規制基準が気候変動とどのように向き合っているのかを検討した。現在の規制基準は設計時点における最大外部衝撃予測値に対して安全機能が損なわれない設備を求めているだけのものであり、気候変動による将来的なリスクは、現時点での設計余裕を除いては考慮されていない。激化する気象現象に対して、安全を担保する仕組みとして心もとないものと言わざるを得ない。

第五章
気候安全保障の観点から原発の有効性を検討した。なお、気候安全保障とは、2005年頃から用いられるようになったもので、軍事的な国家安全保障よりも広い含意を持つ。原発が気候変動対策として機能し得るためには原発が安全かつ安定的に稼働するという大前提が横たわっている。第三章で確認した通り、今後、気候変動による影響が大きくなるにつれ、その前提は損なわれていく可能性は高い。気候変動対策は喫緊の課題であり、かつ非常に長期にわたる課題でもある。目前の電力不足だけを見て対応すれば、長い将来にわたるリスクを背負うこととなる。

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