『核ゴミいらない青森フォーラム』参加報告

『原子力資料情報室通信』第607号(2025/1/1)より

1984年7月、電気事業連合会から青森県と六ヶ所村へ核燃料サイクル主要施設三点セット(再処理、ウラン濃縮、低レベル放射性廃棄物埋設施設)の立地要請が行われた。それから40年を経た11月30日、「核のゴミから未来を守る青森県民の会」と原子力資料情報室の共催で『核ゴミいらない青森フォーラム』が青森市民ホールで開催された。当日はあいにくの大雪で来場がかなわなかった方も多かったのではないかとおもわれるが、およそ250人の参加があった。
会場では、まず反核燃・反原発のパッチワークやポスターの展示に迎えられる。現在までの運動の軌跡に触れた展示の先のホワイエ(ロビー)では、青森の伝統工芸や布絵本の展示、工芸品、書籍、リンゴや農産物加工品、生活クラブ生協や自由木民族珈琲のコーヒーなどの販売が行われていた。
フォーラムはこれまでの40年間を検証する第一部と、これからの青森を考える第二部で構成された。約6時間にわたり、住みよい環境の維持とそれを目指すため闘われてきた運動を、どのように未来につないでいくのかが検討された。開演前とお昼休みには、「40年間の運動」の映像が上映された。

第一部

パネルディスカッション その1

第一部は反核ロックフェス「大MAGROCK」などの運営に携わるYAM(山内雅一)さんと、「核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団運営委員」の澤井正子さんをコーディネーターに「核燃サイクルの破綻・40年間の検証」と「原発・再処理・むつ中間貯蔵は中止の運動」をテーマに行われた。
パネリストは、青森県内で反対運動に関わってきた6人。今村修さん(青森県反核実行委員会代表)、荒木茂信さん(青森県農業者政治連盟協議会会長)、菊川慶子さん(六ヶ所村花とハーブの里)、浅石紘爾(あさいし こうじ)さん(核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団代表)、赤石勇人さん(核燃料サイクル施設立地反対連絡会議事務局長)、野坂庸子さん(「中間貯蔵施設はいらない!下北の会」代表)が登壇された。青森県の成り立ちから関連施設誘致の経緯、各々の活動の歴史や現状が報告され、ディスカッションとなった。
今年9月、むつ市の使用済核燃料中間貯蔵施設に東京電力柏崎刈羽原発からの使用済み核燃料の搬入があった。野中さんはこれによって始まった長い『見守り』を次の世代にどうつなぐか、これからが活動のスタートだと述べた。安全な土地と暮らしを子や孫、その先の世代に残すための運動をどうつないでいくのか?また原発ではない核関連施設への理解が一般的に低いことや、子ども達にその存在を学校で教えないことなどへの懸念も語られた。

「青森県に集中する核のゴミ政策を問う」

続いて当室事務局長の松久保が講演を行った。そもそも核燃料サイクルとは何か?から、電力会社にとっては、核燃料サイクルは原発を運転し続けるための使用済み核燃料の送り先確保が主眼となっているということ。六ヶ所村で貯蔵管理されている高レベル放射性廃棄物の県外搬出期限が2045年に迫る中、まずは原発を止めてゴミを出さないことが大切と訴えた。

第二部

「福島事故、終わっていなでぇ~、地方をバカにするのもええ加減にせぇ!」

第2部は、夫婦漫才コンビ、おしどりマコ・ケンさんのおはなしからはじまった。福島第一原発事故後、東京電力記者会見、様々な省庁、地方自治体の会見、議会・討論会、学会、シンポジウムの取材、また現地にも頻繁に足を運び取材し、様々な媒体でその模様を公開している。ニュースや新聞にはとり上げられない福島県農民連政府交渉や世論操作の実態や核燃料サイクル政策に関する2020年の原子力規制委員会委員長退任会見の一幕など次から次へと話題を展開した。そしてドイツでの取材の報告から、世の中に自分に関係ないことはなく、自分で調べ選ぶことの大切さなどに触れた。世の中を変えていくためには自分の生活の半径5メートルから変えていくことが大切、と締めくくった。

パネルディスカッション その2

テーマは、「みんなの力で、あずましい青森を創ろう」と「私たちはこんな青森をつくりたい」。‘あずましい’は‘落ち着く’とか‘心地良い’、‘住みよい’などという意味でつかわれる。コーディネーターはYAMさんと、おしどりマコ・ケンさんが務めた。
パネリストは6人。弘前大学で、青森県における原子力関連会社からの寄附講義に疑問を呈した教員たちによってはじめられた、核燃・原子力と青森県のミライを考える核燃講義を行っている宮永崇史さん(「核燃・だまっちゃおられん津軽の会」代表)。移動型商店街プロジェクト「Market Caravan」を主宰、「馬門(まかど)山族」(半自給型自伐型林業)の活動をされる板橋諒さん(オーガニックコーヒーショップ「自由木民族珈琲(じゆうぼくみんぞくこーひー)」)。新郷村で、離農等で耕作されなくなった農地を借り受け、無肥料・無農薬・無除草剤の自然栽培に取り組み、趣味で「キリストっぷ」(キリストの墓にちなんだお店)を営む平葭健悦(たいよし けんえつ)さん。自宅を新築した際の経験から森林に興味を持ち、原子力ではなく森林を守り、地域の人々が関わっていける地産地消のエネルギーである木質燃料を勧めるお仕事をされる、石村真弓さん(薪ストーブプロショップ ウッドラック勤務)。高専時代の夏休みの宿題「私の幸福論」について考え直しているうち、自分が幸せに感じるためには親が幸せであることが条件に入ってきた事に気づき、トヨタでのエンジン設計の仕事を辞め帰郷・就農した 哘清悦(さそう せいえつ)さん。そして、安心安全な社会を未来の子ども達につなげていきたいという思いで、脱原発運動他様々な活動に取り組む生活クラブ生活協同組合理事長の棟方千恵子さん。
板橋さんは「核燃料サイクルにも、反対する立場ではある。原子力関連の歴史的な文脈を捉えれば、意を反したくなる。ただし、エネルギーとしては、必要不可欠な安心安全快適な暮らしで成り立っている以上、胸を張って言える立場にはまだない。かつ信頼のおける友人やその家族も、その資本の上で生活が成り立っている。それに真っ向から反対という覚悟や解決策を、僕は持ち合わせていない。なおさら原子力関連施設を労働先として選び、生活を養っている友人やその家族を真っ向から否定することは、僕にはできない」と言う。私は、こんな風に感じている人はとても多いのではないかと思う。哘さんは「県民が一人一人よく考える青森を創りたい」「よく考える青森県から選挙で選ばれた議員はやはり優秀だ!という青森をつくりたい」それによって「どこの農村も農業で静かに快適に暮らしている人がいるという青森を創りたい」と望む。
今回のフォーラムは、世代間の垣根を超えた共通点を確認し、それぞれの考えや運動に触れ、新しい流れにつながる理解を深めることができたように思う。

(髙桑 まゆ)

当日の録画は原子力資料情報室のYouTubeチャンネルから視聴できます。
【1】開会挨拶:奥村榮/パネルディスカッション「核燃料サイクルの破綻・40年間の検証・原発・再処理・むつ中間貯蔵は中止」
【2】松久保肇「青森県に集中する核のゴミ政策を問う」/スピーチ:佐原若子さん
【3】おはなし「おしどリマコ・ケン」
【4】若者と考える「私たちはこんな青森を創りたい!」


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