タニムラボレターNo.018 荒川ビオトープの放射能調査を開始しました
前号では環境省が公表する関東の水域の放射能汚染について述べましたが、そのデータだけで汚染の全体像を正確に把握できたとは言えません。
同じ東京湾の汚染の調査でも、調査主体が違えば測定結果の数値は異なります。例えば、荒川・旧江戸川河口付近の底質については、近畿大学の調査*1によると2012年11月時点で1030 ベクレル/kg(深さ5cm)であるのに対し、環境省公表の数値は同年10月に420ベクレル/kg、12月に320ベクレル/kg(いずれも深さ5.3cm)でした。採取地点名称は同じ“荒川・旧江戸川河口付近”ですが、採取ポイントが違うので測定結果にも差がでるのでしょう。
また、文部科学省発表の土壌の広域モニタリング結果は、航空機で上空から測定した空間放射線量率をもとに算出したものです。広い範囲が平均化された結果が出されているので、人の手で100メートル毎に細かく調査した場合と大きく異なることが報告されています*2。わたしたちが自ら、身の回りの環境放射能を調査し、結果を共有することの重要性が一層つよく感じられます。
そこで当室では、東京の身近な自然環境中の放射能汚染が周辺状況によってどう違うのか、長期的にどのように変化していくかを、身の丈にあった範囲で定期的に丁寧な調査を行うことにしました。この調査は荒川下流部で活動しているNPOと協力して進めていきます。
調査フィールドの歴史を紹介します。1950年代から東京では工場排水や河川のコンクリート化などにより自然の生きものが減少していました。そのような状況の中、20年ほど前から河川敷に自然を回復させる活動が、当該NPOを中心とした市民によって行われました。活動の結果、現在は多様な生きものが住み着くビオトープとなっています。
原発事故によって、長い年月をかけて自然を取り戻したビオトープにも放射性物質が降り注ぎました。当該NPOは事故いらい空間放射線測定器によってビオトープ内の汚染をチェックし、あわせて自然観察などの活動内容を変更しています。事故後に土の入れ替えなどは行っていません。フィールドには雨水を貯める池があり、10月の台風が通ったあとには水深が50cm以上にもなっていました。
試料採取場所は池の底、草原、露出土壌、水たまりになる場所など、自然条件の違いが分かるように気を付けました。なるべく採取位置が同じになるように留意しながら、定点調査をつづけ、放射性物質の移動のふるまいを知りたいと思います。また、1カ所のビオトープ内を調査するだけでなく、同じ荒川下流部にある周辺の池や自然地を含め、複数箇所を測定していく予定です。(谷村暢子)
*1 KEK Proceedings 2013-7, Proceedings of the 14th Workshop on Environmental Radioactivity, pp 240-243
*2 小山良太・小松知未(2013)『農の再生と食の安全』、新日本出版社