原子力資料情報室声明:「地下水バイパス」の海洋放出に関して
NPO法人原子力資料情報室は、本日、東京電力が「地下水バイパス」を実施したことを受けて、以下の声明を発表いたしました。
【NPO法人 原子力資料情報室 声明】
「地下水バイパス」の海洋放出に関して
2014年5月21日
NPO法人 原子力資料情報室
東京電力は5月21日、福島第一原子力発電所において地下水を海洋に放出する「地下水バイパス」を開始した。私たちはこれに抗議する。
福島第一原子力発電所では、溶融した核燃料を冷却する過程で地下水が原子炉建屋に流入し、高濃度放射能汚染水が増加しつづけている。東京電力はこれまで、地下貯水槽や地上タンクから汚染水の漏えいトラブルを繰り返してきた。また、多核種除去設備ALPSも度重なるトラブルで計画どおりに浄化処理できず、汚染水の増加を抑制できていない。
東京電力は建屋に流入する地下水量を抑制するため、上流の敷地内山側において汲み上げた地下水を海洋に放出する「地下水バイパス」の運用を行うとした。放射能濃度の運用目標は法令告知濃度限度*よりも低い値(セシウム134:1、セシウム137:1、全ベータ:5、トリチウム:1,500(ベクレル/リットル))に設定され、各揚水井の検査結果を公表している。そして、複数の揚水井からくみ上げられた水は貯留タンクに集められ、目標値を下回ることが確認されたあとに海洋放出するとしている。
私たちはこれを不十分と考え、ストロンチウム90、アンチモン125、セリウム144などを含む、すべての放射性核種ごとの存在量を明らかにすることを求める。「地下水バイパス」を運用するにあたり、海洋放出する放射性物質の核種と総量はどれくらいと見込まれるのか、これによって高濃度汚染水の流出リスクがどれほど抑制されるのか、さらに、ALPSで除去できないトリチウムの扱いはどうするのかについて、東京電力は廃炉・事故収束作業の全体像を示しながら分かりやすく国民に説明する責任がある。目標濃度以下という理由で放射性物質が含まれる水を、命の源である海洋に放出し続けることは、断じて許されない。
放射性物質は拡散させないことが基本原則である。収束作業の全貌を明らかにしないまま、「地下水バイパス」や「凍土壁」などの小手先の技術を積み重ね、作業者に負荷をかけつづければ、さらなるトラブルを引き起こしかねない。
*法令告知濃度限度 セシウム134:60、セシウム137:90、トリチウム:60,000(ベクレル/リットル)