六ヶ所:低レベル放射性廃棄物埋設センター:仙台高裁判決について
六ヶ所
低レベル放射性廃棄物埋設センター:仙台高裁判決について
◆2008年1月22日、核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団(代表・浅石紘爾弁護士)が青森県六ヶ所村の低レベル放射性廃棄物埋設施設について、国の事業許可の取り消しを求める裁判で、仙台高等裁判所は原告側の控訴を棄却する判決を言い渡した。
判決について原告団は、「極めて不当で容認できない。」、「不条理な国の決定を追認するどころか、助長する判決だ」。「国の安全審査を丸のみした」、「原子力に対する司法のチェックは極めて甘く、役割を果たしていない。住民の立場を考えた判決であってほしかった」と語っている。原告団は上告を検討する。
◆低レベル放射性廃棄物埋設施設(センター)は、原子力発電所の運転によって発生する低レベル放射性廃棄物(200リットルドラム缶など)を浅い地中にコンクリートのピット(箱)を作ってその中に最終的に埋め捨てする施設(下記日本原燃URL参照)である。国側の証人の証言でも、コンクリートが遮蔽機能を維持できるのは約15年で、その後は廃棄物から放射能が地下水と接触し、地下水に運ばれて環境中に拡散する危険性がある。同施設は1992年に操業を開始し、現在の許可は、約40万本のドラム缶が埋設可能となっている。しかし事業者の日本原燃は原子炉解体などで生じる放射能レベルが比較的高い廃棄物(高βγ廃棄物)の埋設も計画中で、最終的には200リットルドラム缶300万本分(約60万立方メートル相当)の廃棄物を埋め捨てする計画を進めている。
◆【判決について】
原告適格:原判決を訂正
「(本件施設での)事故の被害の程度は、一時管理あるいは埋設状態で上記放射性廃棄物が具有する放射能による被曝を超えることはなく、他の原子力施設に比して制限的なものであり、航空機が一時貯蔵施設に墜落し、一時貯蔵中の廃棄体の放射性廃棄物が空気中に飛散するという希有な事態を想定しても、その直接的な飛散による被曝は限られた範囲にとどまるものというべきである。」として原告適格は、「施設から20キロ前後の範囲内の住民に限られる」とした。青森地裁判決では、六ヶ所村内に居住する住民にだけに原告適格が認められていた。控訴審の原告58人のうち、六ヶ所村と隣接する野辺地町や横浜町の20キロ圏内の10人の適格を認定した。
データ隠し:
地盤のボーリング調査結果について、青森地裁が「事業者は地盤条件の良い地点のデータを選んで公表した疑いがある」と指摘していた。しかし、小野貞夫裁判長は控訴審で追加提出されたほかの地点のデータについて「地質の状態を大きく左右するものでなく、データを意図的に選び、調査も恣意(しい)的とまでは速断できない」と述べ、国側の主張を全面的に採用している。
地質・地盤・断層:
「 (施設の直下にある)f-a、f-b断層が本件廃棄物埋設施設の支持地盤の安全性に影響を与えるものとは認められない。」
「陸域の一切山東方断層、出戸西方断層、横浜断層、野辺地断層、上原子断層、天間林断層、後川-土場川沿いの断層、吹越烏帽子岳付近に発達する断層、折爪断層、津軽山地西縁断層帯と青森湾海底断層は、本件安全審査において、当然考慮すべき事柄であったとはいえず、上記断層の同時活動の可能性も、本件安全審査において、当然考慮すべき事柄であったとはいえないというべきである。」
「海域の下北半島沖海底断層も、本件安全審査において当然考慮すべき活断層とまではいえない。」しかしこの断層は、『日本の活断層』で、長さ84キロメートル、活動度の高い断層と認定されている。
◆【弁護団:伊東良徳弁護士のURL】
原告代理人の伊東良徳弁護士は「直接被害の範囲を施設から20キロに限定し、(米軍三沢基地などの)航空機事故の可能性を考慮しない判決には、LLW施設の危険性を軽視した考えが根底に流れている」としている。詳細はURL参照ください。
www.shomin-law.com/katudourokkasyoLRW2shinhanketu.html
◆関連報道
【デーリー東北】
www.daily-tohoku.co.jp/tiiki_tokuho/kakunen/news/news2008/kn080123a.htm
www.daily-tohoku.co.jp/tiiki_tokuho/kakunen/news/news2008/kn080123b.htm
【東奥日報】
www.toonippo.co.jp/news_too/nto2008/20080122150750.asp
【河北新報】
jyoho.kahoku.co.jp/member/news/2008/01/20080123t23030.htm
www.kahoku.co.jp/news/2008/01/20080123t23029.htm
◆【日本原燃】
施設の概要
・1号廃棄物埋設地4万立方メートル(200リットルドラム缶20万本相当)
・2号廃棄物埋設地4万立方メートル(200リットルドラム缶20万本相当)
最終的には約60万立方メートル(200リットルドラム缶300万本相当)
埋設事業の概要
www.jnfl.co.jp/business-cycle/2_maisetsu/maisetsu.html
低レベル埋設センター
www.jnfl.co.jp/business-cycle/2_maisetsu/maisetsu_03/maisetsu_03_02.html
現在埋め捨てられている廃棄物と検討中の放射能レベルの高い廃棄物について
www.jnfl.co.jp/business-cycle/2_maisetsu/maisetsu_03/maisetsu_04/maisetsu_04_07.html
低レベル放射性廃棄物埋設センターの操業状況
www.jnfl.co.jp/daily-stat/000000-month/low.htm
◆【判決主文】
平成20年1月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成18年(行コ)第10号 「六ヶ所低レベル放射性廃棄物貯蔵センター」廃棄物埋設事業許可処分取消請求控訴事件(原審・青森地方裁判所平成3年(行ウ)第6号)
口頭弁論終結日 平成19年9月21日
判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり。
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
仙台高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 小 野 貞 夫
裁判官 信 濃 孝 一
裁判官 大 垣 貴 靖
◆【判決要旨】
1 原告適格について
本件廃棄物埋設施設は、原子力発電所で発生する濃縮廃液、使用済樹脂、焼却灰等の低レベル放射性廃棄物をセメントやアスファルト等でドラム缶に均一に固型化した廃棄体を、地面を掘り下げて設置される鉄筋コンクリート造の埋設設備に埋設し、処分する施設である。
本件廃棄物埋設施設において想定される事故による被害の性質内容についてみると、放射性物質から発せられる放射線は人体に極めて有害であり、被曝すると死に至ることがあり、死に至らないまでも急性障害やがん等の疾患を発病させたり、遺伝子に変化をもたらす危険がある。
本件廃棄物埋設施設において想定される事故態様、被害の発生可能性としては、本件廃棄物埋設施設が破損すると、放射性廃棄物に含まれる放射性物質が施設内外の大気中に飛散し、あるいは地下水等を通じて流出する可能性がある。したがって、航空機の落下や地震等によって埋設設備又は管理施設が破壊されるような事態を想定すると、かなり広い範囲に放射性物質が飛散あるいは流出する危険性がある。また、廃棄体を閉じこめたドラム缶及び本件廃棄物埋設施設のコンクリートピットが劣化し、あるいはこれに加えて覆土、周辺土壌の天然バリアーが破損すると、廃棄体の放射性廃棄物に含まれる放射性物質が地下水等を通じて施設外に流出する可能性がある。
他方、本件廃棄物埋設施設で埋設を行う放射性廃棄物は、表面の線量当量率が毎時10ミリシーベルトを超えない低レベル廃棄物であり、扱う数量も、受入れ施設における一時貯蔵で約640立方メートル(200リットルドラム缶3200本)、埋設設備で最大約4万立方メートル(200リットルドラム缶20万本に相当する量)にとどまるものである。
また、本件廃棄物埋設施設は、原子力発電所のように核分裂反応を用い原子力エネルギーを発生させ、これを利用する施設ではなく、上記の低レベル廃棄物を一時貯蔵の上、最終的には地中に埋設する施設である。したがって、事故の被害の程度は、一時管理あるいは埋設状態で上記放射性廃棄物が具有する放射能による被曝を超えることはなく、他の原子力施設に比して制限的なものであり、航空機が一時貯蔵施設に墜落し、一時貯蔵中の廃棄体の放射性廃棄物が空気中に飛散するという希有な事態を想定しても、その直接的な飛散による被曝は限られた範囲にとどまるものというべきである。本件廃棄物埋設施設周辺の地形及び本件廃棄物埋設地との距離関係からみて、地下水等を通じた放射性廃棄物の流出による被害の範囲が以上よりも広範囲にわたることは考え難い。
上記のような本件廃棄物埋設施設の種類、構造、規模等の本件廃棄物埋設施設に関する具体的な諸条件を考慮すると、本件廃棄物埋設施設において想定される事故によって直接的かつ重大な被害を受けることが想定されるのは、広めにみても本件廃棄物埋設施設から20キロメートル前後の範囲内に居住する住民に限られるものというべきである。
したがって、本件許可処分を行うに当たって規制法14条1項2号所定の技術的能力の有無及び3号所定の安全性に関する各審査に過誤、欠落がある場合に発生すると考えられる事故によって、直接的かつ重大な被害を受けるものと想定され、それゆえ、本件許可処分の取消しを求めるにつき原告適格を有する者は、控訴人らのうち、本件廃棄物埋設施設から20キロメートル前後の範囲内に居住する控訴人10名に限られ、上記範囲内に居住していないその余の控訴人らは、本件許可処分の無効確認、取消しを求めるにつき原告適格を有しないものというべきである。
2 地質・地盤に関する主張について
(1)原燃産業の行った本件廃棄物埋設施設の敷地の地質等についての文献調査、空中写真判読、地表地質調査、本件埋設設備群設置位置及びその付近のボーリング調査等の結果、現地調査に、さらに重ねてPS検層、弾性波探査又は圧密試験を行う必要があったことを認めるに足りる証拠はない。文献調査が不十分であったために本件安全審査に過誤を来したことを認めるに足りる証拠もなく、ボーリング調査の本数及び深度が不十分であったとは認め難い。
(2)原燃産業の行った岩盤支持力試験の実施箇所が少なすぎ、これによって鷹架層中部層が埋設設備による荷重に対して十分な支持力を有していると断定することは、著しく妥当性を欠いていると認めるに足りる証拠はない。
(3) f-a、f-b断層について、トレンチ露頭観察による断層部の性状及びシュミットロックハンマー試験による断層部の強度評価からみても、岩質が軟(脆)弱、劣悪化しているとは認め難く、両断層は本件廃棄物埋設施設の支持地盤の安全性に影響を与えるものではないとした被控訴人の判断に誤りはない。
(4)本件廃棄物埋設施設の敷地とは地盤条件、性状が異なる他所において液状化現象が発生した事例をもって、本件廃棄物埋設施設の敷地において液状化現象が発生することの根拠とすることはできず、本件安全審査においては、本件廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺の地盤が本件廃棄物埋設施設の安全確保上支障となるものではないこと、また覆土については、本件廃棄物埋設地の周辺の土壌等に比して透水性が大きくならないよう十分な締め固めが行われること等から安定に保持されることが確認されているのであって、本件廃棄物埋設施設の敷地地盤や覆土においては液状化現象が起こるとは考えられない。
3 地震と断層に係る安全評価の誤りの主張について
(1) 本件廃棄物埋設施設は、原子力発電所と異なり、その内蔵する放射能量が少ない等潜在的危険性が小さく、その破損により一般公衆に与える線量当量が十分に小さいことを考慮して、「耐震設計審査指針」における耐震設計上の重要度分類のCクラスの施設に分類し、基本的立地条件としての地盤の安定性を評価するという観点から埋設設備群設置位置及びその周辺の断層を対象とし、それが施設に影響を及ぼすか否かの検討を行えば足りるとし、本件廃棄物埋設施設の安全審査上、「安全審査の基本的考え方」あるいはこれが依拠した「耐震設計審査指針」が地震に関して敷地周辺地域の活断層に対する評価を行うことを必要としていないからといって、審査基準について不合理があるとは認め難い。
(2) もっとも、「安全審査の基本的考え方」は、廃棄物埋設施設は、設計地震力に対して、適切な期間安全上要求される機能を損なわない設計であることとしていることからすれば、地震に対する考慮方法から活断層の評価をすることを積極的に排斥したとはいえず、「安全審査の基本的考え方」は、「地震」等の自然現象を検討し安全確保上支障がないことを確認することを求めているというべきであり、その存在が明らかであって、かつ、活動性が高い活断層に起因して想定される地震動に本件廃棄物埋設施設の耐震設計が合理的に対応していない場合には、コンクリートピットが破損し、さらに地震による天然バリアーの破壊が加わって廃棄物埋設地の閉込め機能等が失われるなど、安全上要求される機能が損なわれることを予測すべきであるから、「安全審査の基本的考え方」によっても、安全審査を行うに当たっては、その存在が明らかであって、かつ、活動性が高い活断層は当然これを考慮すべきものと解される。
したがって、現在の科学技術水準に照らして、その存在が明らかであって、かつ、活動性が高いといえる活断層を考慮せず、当該活断層を評価した場合に想定される地震動に本件廃棄物埋設施設の耐震設計が合理的に対応していないことが明らかであるならば、結果的には、本件安全審査の調査審議及び判断の過程には看過し難い過誤、欠落があったことになるものというべきである。
(3) 上記のような見地に立って本件敷地周辺の活断層について検討すると、以下のとおりである。
f-a、f-b断層が本件廃棄物埋設施設の支持地盤の安全性に影響を与えるものとは認められない。
陸域の一切山東方断層、出戸西方断層、横浜断層、野辺地断層、上原子断層、天間林断層、後川-土場川沿いの断層、吹越烏帽子岳付近に発達する断層、折爪断層、津軽山地西縁断層帯と青森湾海底断層は、本件安全審査において、当然考慮すべき事柄であったとはいえず、上記断層の同時活動の可能性も、本件安全審査において、当然考慮すべき事柄であったとはいえないというべきである。
海域の下北半島沖海底断層も、本件安全審査において当然考慮すべき活断層とまではいえない。
(4) ほかに、耐震設計審査指針のCクラスの耐震設計によって本件廃棄物埋設施設の安全性が確保できるとした本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があると認めるべき根拠はない。
4 津波に関する主張について
本件安全審査においては、地形等の状況からみて、本件廃棄物埋設施設が津波により被害を受けることはないことを確認しており、控訴人らの主張は、地形的条件の異なる地域における例を挙げて津波の危険性を主張するにとどまるものであるから、本件安全審査の調査審議及び判断過程に看過し難い過誤、欠落があるとすることはできない。
控訴人らは、海岸からの距離、標高及び地形を個別に取り上げて、それぞれにつき過去に地震津波による被害が発生した例を挙げて本件廃棄物埋設施設についても地震津波の被害の危険性がある旨を主張するけれども、津波による被害発生の地形的条件は、そのいずれかが類似していれば足りるものではなく、これらが複合して類似した場合に初めて地形的類似性が認められるものというべきであるから、控訴人らの主張の例をもって地形的条件が類似しているとは速断できず、本件廃棄物埋設施設が地震津波による被害を受ける具体的危険性があることの根拠とすることはできない。
5 水理に関する控訴人らの主張について
(1) f-a、f-b断層沿いに地下水の透りやすい層が連続した水みちが存在することを示すものはない。
控訴人ら主張の3孔の地質柱状図をもって、f-a、f-b断層沿いに水みちがあることを裏付けるものとは認め難い。
以上によれば、地下水に関する調査の結果に基づいてした線量当量の評価に過誤があるとは認められない。
(2) 廃棄物埋設設備群と地下水の水位変動領域に関する主張について
昭和61年10月からの敷地造成工事による地下水位に対する影響は一時的なものというべきで、地下水位が昭和63年以降も下がり続けて本件廃棄物埋設施設の設置位置まで下がるとは考え難く、融雪、降雨による地下水の季節変動が大きいとしても、廃棄物埋設設備群の敷地付近における地下水の季節変動幅からみれば、昭和63年3月時点における地下水位から推測される本件埋設設備設置位置における地下水位の変動領域が廃棄物埋設設備群の高さに達するとは認め難い。
本件安全審査において、許可申請時点の地下水位の動向をデータで確認しないままに事業許可を行ったからといって、その調査・審議の過程に看過し難い過誤・欠落があるとは認め難い。
(3) 井戸水シナリオに関する主張について
管理期間終了以後の線量当量評価においては、本件廃棄物埋設施設周辺について井戸水の飲用による内部被曝を線量当量評価の対象とし、線量当量限度を超えないとされており、本件安全審査において井戸水の飲用による被曝に対する評価手法自体が全体として放棄されたとはいえない。
本件放射性廃棄物埋設地は、透水係数が低いために十分な揚水量が得られないので井戸水の利用は考え難いとしたことに誤りはない。
本件土地が放射性廃棄物の埋設地であることからすると、管理期間経過後であっても、通常人が本件土地に井戸を掘削する権原を取得するような事態は考え難く、また、控訴人らも、本件廃棄物埋設地が将来、地質的、地形的に井戸水の利用に適した土地に変化する可能性を想定すべき根拠を示すものではないから、本件安全審査において、管理期間経過後に本件廃棄物埋設地の直上に井戸が掘られることを前提とした安全評価を行わなかったことをもって不合理とはいえない。
6 航空機事故評価についての主張について
(1) 「基本的な考え方」が航空機事故を審査対象として具体的に列挙していないことをもって、調査審議における具体的審議基準に不合理がある場合に該当するとはいえず、控訴人らの主張は採用できない。
(2) 航空機墜落の危険性の主張について
本件廃棄物埋設施設周辺において、飛行する可能性のある民間機、自衛隊機及び米軍機については、飛行規制の実効性を確保するための施策が具体的にとられており、航空機の飛行に係る法的規制等を踏まえ、かつ、民間航空機の定期航路及び軍用機との訓練空域と本件廃棄物埋設施設上の距離がそれぞれ約10¥km¥離れていることをも勘案して、自衛隊三沢基地及び米軍三沢基地の航空機が本件廃棄物埋設施設に墜落する可能性が極めて小さいとした判断に過誤はない。
航空機が本件廃棄物処理施設に墜落する可能性は極めて小さいことから、航空機に関する安全確保上の支障はなく、航空機の墜落に備えた設計上の考慮は必要はない。
本件安全審査においては、仮に訓練中の航空機が管理建屋に墜落した場合の影響について評価しているところ、管理建屋に航空機が墜落した場合における一般公衆の線量当量は、敷地境界外の最大となる場所において、実効線量当量で約0・13ミリシーベルトと、一般公衆への被曝による影響が大きくなることはないとした評価に係る調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。
本件安全審査において自爆テロの危険性を考慮しなかったとしても、看過し難い過誤、欠落があるといえない。自爆テロ行為の防止は、外交、防衛、治安等の観点から国全体で対応して初めて可能となることであって、ひとり放射性廃棄物埋設施設の基本設計のみで対応するような問題ではないというべきである。武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律が自爆テロによる意図的な破壊行為に対する放射性廃棄物埋設施設の設計上の安全性までも確保することを国に義務づけていると解すべき根拠はないから、同法の存在は、それが本件許可処分の後に成立施行されたことはさて措いても、上記判断を左右するものではない。
7 埋設設備の安全評価に係る原判決の誤りの主張について
本件廃棄物の搬入遅延と第1段階の終了予定時期の「埋設開始後30年を経過し35年以内の時点」への変更は、本件許可処分後の事情であって、特段の事情がない限り、これを考慮して本件許可処分の可否を決する可能性はなかったものである。また、上記の事情は、第1段階の終了予定時期の変更という事業変更許可処分(原子炉等規制法51条の5第1項)の内容に係る事項についてのものであるところ、事業変更許可処分は、本件許可処分とは別個の処分というべきである。したがって、上記の事情は、本件許可処分の適否の判断につきこれを考慮することは許されず、本件訴訟の審理の対象となるものではない。
もっとも、本件許可処分の時点においてあらかじめ本件廃棄物の搬入の遅延が予測できたのであれば、これを前提にして第1段階の期間設定、ひいては段階管理における安全性を審査すべきであったと解する余地がないではないけれども、本件全証拠によっても、この予測が可能であったと認めることはできないから、上記搬入の遅延を考慮することなく本件安全審査がなされたことをもって、本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤、欠落があるということはできない。
8 ラ・マンシュ廃棄物処分場での放射能漏洩の主張について
フランスの放射性廃棄物処分施設は、本件廃棄物埋設施設とは施設設計等も異なっており、初期のラ・マンシュの廃棄物埋設施設では全く素堀のトレンチを掘ってその中に放射性廃棄物を埋設していたのであり、後年になってコンクリートの外枠(ただし、本件廃棄物埋設施設とは構造が異なる。)を作った中に放射性廃棄物を埋設するようになったものであるところ、本件廃棄物埋設施設においては、廃棄物を鉄筋コンクリート造の埋設設備の区画内に定置し、セメント系充てん材を充てんした後、覆いを設置し、更に埋設設備上面からの厚さ6メートル以上の覆土を施すこととされており、これによる人工バリアーの対策を講じているのであるから、ラ・マンシュの施設において漏洩事故が発生したからといって、これから直ちに本件廃棄物埋設施設の埋設ピットの物理的耐用年数も短期間であることが具現化したとは認め難く、これをもって控訴人ら主張の危険性が裏付けられたということはできない。
判決を受けて原告団の記者会見