原子力小委員会奮闘記(2) 電力自由化のもとでは生き残れない原発に 新たな支援策
『原子力資料情報室通信』第484号(2014/10/1)より
前回に報告した動画公開については、未だに実現していない。毎回、意見書で公開を求めている。音声だけでも公開すべしとの妥協案を出してみたが、その線で公開することを課内で検討しているとは言うものの、結論が出てこない。上位にある基本政策分科会のほうは動画公開で審議が行われているにもかかわらずだ。
ここでは第3回から6回までの審議について報告したい。第3回では原発の依存度低減に向けた課題を事業者(電気事業連合会)と立地地域から話を聞き、第4回は技術・人材の維持について話題となった。そして第5回では競争環境下での原子力事業(原発と核燃料サイクル)の維持、第6回では引き続き核燃料サイクルの維持が話題であった。
安倍政権は電力システム改革の断行を公約に掲げている。電力の全面的な自由化(一般消費者がどの電力会社とも契約できる)は2016年から実施される法律が国会を通過している。そして来年度の通常国会では電力各社の発電部門と送電部門を分離するための法案が提出されることになっている。実施は2020年からの予定だ。送電網を通して、既存の電力各社や新たに設立された発電会社が電気を供給することが可能となる。安い電力や市民の後押しを受けた再生可能エネルギー会社が延びていくことになり、コストの高い発電システムは淘汰されることになるだろう。
原発新設への支援
経済産業省は原発のコストは安いと主張してきたが、本小委員会では原発が淘汰されることを暗黙のうちに認めながら、それでも維持するために国は何ができるかを考えている。
安倍政権は原発について「できる限り依存度を低減する」と言い、一方で重要なベースロード電源として利用を続けるともいう。利用を続けるためには、原発の建替え(リプレース)か新規の建設が必要になる。しかし、原発は建設費が4,000億円程度と厖大で、競争環境のもとでは新規建設への投資が困難になるという。電気事業者は「民間事業として原子力発電事業を推進し、我が国のエネルギー安全安定供給、安全保障体制を再構築」(豊松秀巳専門委員、関西電力)する覚悟だというが、この覚悟を国として制度的に後押しすることを求めている。また、原発の将来ビジョンを国が示してくれないと原発から撤退するおそれがあり、原発を維持できないと、技術や人材が維持できなくなり既存原発の安全にも影響を与えかねないと脅している。さらに、メーカーは、1メーカーあたり10年に2基以上の原発建設がないと技術や人材を維持することは困難との希望を述べていた(門上英日本電機工業会原子力政策委員長、三菱重工)。一般に原発の建設には5年程度かかるとされているので、途切れずに需要が欲しいと言っているわけだ。
そこで、確実に新規建設やリプレースの環境をつくるために、イギリスの事例が紹介された。具体的にはイギリスで検討されている差額決済契約制度(CfD:Contract for Difference)である。わざわざ、イギリスからリズ・キーナガン・クラークさん(エネルギー・気候変動省原子力開発局原子力発電・国際案件担当副部長)を招いて報告させた。この制度は原発で発電した電力の基準価格を決めて置き、市場の取引価格がこれを下回った時には差額を補てんする、逆に市場価格が基準を超えたときには払い戻す。建設資金の調達は自前だが、確実に投資を回収し利益を生み出すシステムだ。英国では原発コストが高く回収が困難との判断のもと導入が検討されているわけだ。適応されるのはフランスのアレバ社が計画しているヒンクリーポイントC原発の増設(欧州加圧水型炉で、163万キロワット2基)のみが対象のようだ。この制度が未だ導入されていないのは、特定産業の過保護に該当するのではないかと、欧州議会で議論が続いているからという。
これまで経産省や電力会社が主張してきたように原発が安い電源ならわざわざこの制度を紹介する必要はない。また、紙の資料だけに済まさず英国からわざわざ説明員を呼んだことから、並々ならぬ執念があると思われる。世間の反応をみて内容を詰めようとしているのかもしれない。
一方、アメリカでは政府による先進的な原発プラントに対する債務保証や新規建設プラントに対する建設遅延保証などが導入されている。後者は許認可手続きを原因とした遅延により発生した負担増分にたいする補償である。この紹介は参考として配布資料に載せてあるだけである。
これらは事例の紹介であり、制度の導入がはっきりと示されたわけではないが、なんらかの制度措置をしないと原発が淘汰されてしまうことは明白になったと言える。
これに対して筆者は、電力には60歳になっても親の脛をかじるようなもの、政府に対してはいつまでも脛をかじらせておくべきでないと制度導入に反対の意見を述べた。
日本で新設に当たる原発は、川内3号機の増設、上関原発、敦賀3、4号機の増設などである。リプレースの計画では浜岡6号機がある。制度の議論はこれらの新増設と密接に関連してくる。
支援制度の行方
制度導入の具体化が見えない理由の一つに発電コストの問題がある。報道によれば、経産省は電源別のコスト試算に入った。2011年の試算結果の見直しを行うようだ。この時の試算では原発の発電コストは「8.9円/kWh~」と評価されており、福島原発事故の損害額を5.8兆円として計算した。そして損害額が1兆円増えるごとに0.1円上昇する。「~」が付いているのはその意味だ。
他方、これは原子力損害賠償法で事故の無限責任を事業者に課していることに基づいている。しかし、福島原発事故が起き東京電力を救済するための支援機構法が成立したおり、原倍法の見直しが付帯決議にある。政府が考えるその方向は無限責任を有限責任に改悪することである。有限責任となれば、その分だけが原発のコストに計算され、結果としてコストは下がる方向に働くことになる。原子力小委員会ではこの問題の所管が文部科学省であることを理由に議論されていないが、原発のコスト計算に大きく影響する要素である。
差額決済契約制度では基準となる価格が鍵となるが、原発のコストが火力発電などと比較して安いような結果となれば、差額決済契約制度の導入の意味合いは薄れると言えよう。
制度設計の行方を注視していく必要がある。
廃炉支援
他方、安倍政権は原発への依存度の低減も公約している。依存度低減の度合いは、エネルギーミックスの議論に委ねられ、この小委員会での審議内容から外されている。ミックス論がいつどこで議論されるかは明らかにされていないが、まずは再稼働の実績づくりということのようだ。
小委員会では規制基準の強化による原発の廃止が想定されている。安全強化に対応できない、もしくは、投資回収ができないなどの理由から、運転期間が40年に満たないままに停止することが考えられる。
他方、廃炉のための資金は発電に応じて積み立てる制度が1988年に導入された。これは40年間の運転を前提とした制度になっていた。そこで、2011年に制度改革が行われ、発電でなく年数で計算すること、かつ、積立不足額を廃止後10年で積み立てる制度を導入した。
さらに、廃炉になるとその原発の固定資産の帳簿上の残額を一括して処理する会計処理が基本となっていた。そこで、廃炉後も使用する使用済み燃料プールや冷却装置などは引き続き資産と位置づけ、年々の減価償却を継続できるように改めた。
電力各社はそれでも不十分として、一括処理しないことを求めているようだ。具体例として米国でハリケーンカトリーナの損害に対して導入した制度が紹介されている。ハリケーンカトリーナでは送電線などが大きく破損して使用不能となったが、これに対して、継続して資産と見なし、年々の減価償却費で会計処理していく方法が導入された。
廃炉にしたのに資産と見なして毎年の減価償却の対象とする、会計原則に反するような不思議な会計制度が導入されそうだ。
ともあれ、具体的な廃炉対象原発やその残存簿価が示されていないので、影響の度合いが分からないが、会計決算への影響を極力避けたい電力会社の意向が強いようだ。
再処理の国有化?
電力が自由競争下に置かれるようになり、かつ、原発の割合が減っていくことになると、コストの高い六ヶ所再処理工場での再処理とそれに続くプルサーマルを維持するのが困難になる。この判断は電気事業者や政府に共通であることが明らかになった。
六ヶ所再処理工場は1993年から着工しているが、トラブル続きでいまだ本格稼働をしておらず、プルサーマル用の燃料製造工場は建設中だ。事業的に破綻していることは、当面、再処理を行う見通しがないのに、再処理前受金という名目で収入を得ていることから明らかだ。
そこで、第5回と6回で六ヶ所再処理事業を支えるための代替案が出てきている。政府の認可法人にして、国の関与を強める案が出されている。委員の中には国有化の意見も出たが、経産省は「民間活力の活用」を理由に国有化しない方針を示唆している。
国有化には財務省の合意が得られそうもないことから、このような書き方になっていると考えられる。
さて、現在、再処理費用は電気料金に含まれていて、これを公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センターに積み立てている。確実に再処理が行われるように2004年に制度化されたものだ。この制度のもとでも、競争環境下では再処理事業が破たんするおそれがあるというのだ。
筆者は再処理事業を維持する必要はないと主張しているが、再処理は国策として必要との意見が小委員会では支配的だ。また、同委員会では、国が民間に再処理事業を民間に委託する案も出ていた。
具体策は提案されていないが、再処理は「国民全体の利益につながる」との口実で再処理を維持するために、再生可能エネルギーの利用者含めて広く消費者から再処理費用を徴収することにあるのだろう。その仕組みが模索されていると言える。電力にとっては電力自由化に便乗して、お荷物の再処理工場の破たんリスクを回避できる形となる。
次号では、話題となった高レベル放射性廃棄物の減容化について報告したい。
(伴英幸)