「温暖化対策に原子力拡大」?―2007年版『原子力白書』
「温暖化対策に原子力拡大」?―2007年版『原子力白書』
原子力資料情報室共同代表 西尾漠
2007年版の『原子力白書』が3月21日、閣議決定されました。原子力委員会がまとめたもので、「地球温暖化対策のため世界的な原子力利用の拡大を初めて訴えた」などと報道されています。
とはいえ、どこまで本気の訴えなのかには、疑問符がつきます。『原子力白書』を公表するに際して、毎年何らかの”目玉”を用意してプレスリリースをしていることからすれば、京都議定書の目標年のスタートと洞爺湖サミットを前にしたタイミングをにらんで「温暖化対策に原子力拡大」を2007年版の”目玉”にしたということでしょう。
同様のタイミングで、ピープルズ・プラン研究所から「ラディカルな環境主義」を特集した『季刊ピープルズ・プラン』2008年冬号が刊行されました。そこに寄せた拙稿「『原発で温暖化防止』の宣伝をめぐって」から、宣伝の狙いがどこにあるのかの推測のいくつかを紹介しておきましょう。
まず考えられる狙いは、文字通り原発の拡大のために温暖化防止の世論を利用しようということです。しかし実際には『白書』が強調している世界的な原発拡大動向は一面的な見方に過ぎ、その通りに進むかどうかわからないうえに、他方で既設原発の廃炉が確実に進みます。最大限に「拡大」しても「維持」がせいぜいでしょう。
しかも日本では、維持すらとうてい難しい状況です。そこで焦って、何とか電力会社を原発に繋ぎとめようと経済産業省が打ち出したのが「原子力立国計画」でした。電力会社にとっては迷惑な話で、面子を重んじる政府の狙いではあっても、電力会社の本音からすれば、原子力の拡大という狙いは表向きだけのことかもしれません。
但し電力会社も、さしあたり既設の原発をすぐに放棄する考えはありませんから、原発が直面しているさまざまな問題への批判をかわす意味では、「温暖化対策」はよい目くらましになります。原発が温暖化対策として有効ではなく、むしろ温暖化を加速しかねない(原発を増やせば、出力調整などのために他の発電所も増えてしまう)ことを前傾の拙文は述べていますが、そうした反論をすればするほど、原発をめぐる議論が温暖化対策についてのものだけに限定されてしまうことになります。原発が抱えている喫緊の問題への本質的な批判を宣伝への反論のレベルで吸収してしまう効果は、電力会社にとっても期待されていると言えそうです。
電力会社にとっても政府にとっても、「温暖化対策に原子力拡大」の宣伝の狙いは、何より現実の温暖化問題を本気で解決しようとせず、舌先三寸でごまかして先送りすることにあるのでしょう。その狙いから思えばお気の毒なことに、原発の多数基停止・長期停止が架空の辻つま合わせのほころびを隠しようもなく露呈させている昨今ではありますが……。
先に見たように電力会社の本音では「温暖化対策に原子力拡大」のうそが暴かれるのは歓迎すべきことのようでもありますが、そうなると同時に明るみに出るのが、日本全体の約3割という二酸化炭素最大排出産業の実態です。原発をめぐる宣伝とその反論がにぎやかであればあるだけ、その陰にかくれていられるのに――というわけです。
そうした電力会社や政府の狙いなり思惑なりを見定めて、私たちの側は対応する必要があります。
と、実は現物の『白書』を見ずに上の文章を書いてしまった後で現物を手にすることができた。何のことはない、まったく本気らしくない記述で拍子抜けしてしまった。さて、そのことをどう考えたらよいか。
『季刊ピープルズ・プラン』41号 【特 集】ラディカルな環境主義
www.peoples-plan.org/jp/modules/news/article.php?storyid=66
地球温暖化問題と原子力の関わりについての公開質問状
cnic.jp/531
原発は温暖化防止に役立つのか(『通信』より)
cnic.jp/383