原発の発電コストは一体いくらなのか

『原子力資料情報室通信』第615号(2025/9/1)より

経済産業省は東京電力の福島第一原発事故後、エネルギー基本計画の策定に合わせて概ね3年ごとに電源種別の発電コスト試算を発表している。試算方法は総合資源エネルギー調査会の発電コスト検証ワーキンググループで検討されているが、実際の数字を作っているのは事務局である経産省だ。

政府による原発の発電コスト試算とその問題点

2025年の政府試算では、2023年時点で電気出力120万kWの原発を新設した場合、12.6円~/kWhになるとされ、エネルギー基本計画では「他電源と遜色ないコスト水準」であると記載された。だが、この試算には多くの問題がある。具体的には資本費のなかでも建設費、追加的安全対策費、燃料費、事故リスク対応費用に問題がある。

■ 建設費

政府試算は直近に国内で建設された4つ原発の建設費の平均値を基本とし、物価上昇を反映しての建設価格を5,496億円と置いている。だが、近年、欧米で建設された原発は1基あたり2兆~3兆円、途上国でも1兆円を超えている。日本の試算額は継続的に原発を建設し、国家が原発建設を強力に支援してきた韓国や中国と同水準になる。なぜ、日本がこれらの国と同程度で建設できるのかについては全く説明がない。更に、原発は長期間かかるプロジェクトとされているが、その間の物価上昇や金利上昇リスクも考慮されていない。一方、長期脱炭素電源オークションでは不測費用として全体の費用の10%を織り込むことを認めているが、電力会社はこれでは不足すると主張していた。また、スリーマイル島原発事故後、米国では原発建設費は2.8倍になったという。そこで建設費は15%~180%増と想定した結果、6,320億円~15,389億円となった。

■ 追加的安全対策費

政府試算では、2024年6月時点で原子力規制委員会に新規制基準適合性審査を申請した全原発(16原発27基)の追加的安全対策費の平均値2,662億円から新設時には不要となる費用を差し引いた1,707億円を示している。
だがこの計算には多くの問題がある。第一に追加的安全対策工事は各原発ともに別々の時期に実施しているため、物価が異なるが、これが考慮されていない。第二に多くの原発で設置変更許可を受けた時点での追加的安全対策費は、申請当初を大きく上回っている。例えば女川2号機(83万kW)は申請当初の見積額140億円から、許可時には7,100億円へと50.7倍に増加した。第三に追加的安全対策費は原発によって大きく異なる。そのため、追加的安全対策費が大きく過小評価されている恐れがある。
そこで設置変更許可済みの原発17基から、対策費用の総額を不明としている柏崎刈羽原発6・7号機の費用を除いた15基について、報道資料から得た追加的安全対策費を物価を加味して平均すると120万kW原発で約3,521億円となった。政府試算と同様に比例計算で新設時には不要となる費用を引くと2,258億円となった。
追加的安全対策は新設時は新設工事の内数となるため、新設費用と同様に15%~180%増と想定すると、2,597億円~6,323億円になる。新設費用と合わせると8,917億円~21,712億円が資本費だ。

■ 燃料費

政府試算は原発の燃料費を、ウラン燃料は2008~2010年度の調達実績を基に為替レート変動を加味、核燃料サイクル費は再処理工場などの事業費の増加分加味して計算して1.9円/kWhとしている。
だがこの試算方法にも大きな問題がある。2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻に伴い、ウラン燃料価格が大きく変動しているからだ。ウラン燃料製造には、天然ウランのほかに、転換、濃縮、燃料加工などの過程を経る必要がある。特に問題となるのは転換と濃縮の費用が大幅に上昇していることだ。ロシアは転換で世界シェアの3割、濃縮で4割近くを占めており、対ロシア経済制裁により、価格が急騰したのだ。またウラン供給も不安定化している。世界最大のウラン供給国であるカザフスタンの鉱山会社はロシアへの経済制裁の影響から西側への供給コストが上がっているという。
現時点でのウラン燃料費を試算すると、1トン当たり60億円程度になると推計できる。政府試算では試算値では1トン当たり38.5億円なので、36%過小評価していることになる。価格上昇を加味すると、単価は2.5円/kWhとなる。

■ 事故リスク対応費用

政府試算は事故リスク対応費用を実績値の26.2兆円(事故炉廃炉費用8兆円、賠償費用9.2兆円、除染・中間貯蔵費用6.2兆円、行政経費等2.8兆円)を下限額とし、出力規模、地域性などで「補正」し、損害費用を17.7兆円と評価した。そして、これを「共済方式」でkWhあたりのコストに換算したとしている。
問題は、「共済方式」が、2011年当初の概念とは違ったものに変化していることだ。「共済方式」は事業者間での相互扶助の考え方に基づき、損害額を一定期間で負担する場合のコストを算定する計算方法で、当初は事故炉4基以外の50基が40年間稼働することを前提としていた。だが2015年からは、基本的考え方が全く異なるものに変更され、その上でPRA(確率論的リスク評価)と結びつけられた。ここで重要になるのが「炉・年」(例えば10基が1年運転した場合、10炉・年と示す)という「算定根拠」である。2015年の試算では、2011年試算が50基40年の原発稼働を前提としていることから、これを「2,000炉・年」に置き換えた上でPRAの改善があるとして「4,000炉・年」に変更した。2025年試算では更にPRAの改善がみられるとして、「4,000炉・年」から「12,000炉・年」に変更した。
「算定根拠」とPRAとの関連付けは殆ど根拠がない。なぜなら、PRAは、PRA評価のためのモデル自体の不完全性や不確実性を排除できないからだ。PRAは、対策前と対策後で事故リスクが下がったことを相対的に把握するためのものであって、事故発生頻度そのものを示すものではない。また仮に事故発生頻度がわかっても、被害額が数十兆円規模となることも自体がリスクだ。これを評価するものとしてリスクプレミアム(リスク上乗せ)があるものの、これを確定できないのが原子力の特徴である。
原発事故による損害そのものは実額で5.8兆円から26.2兆円へと4.5倍になったが、このような操作の結果、事故リスク対応費用は逆に0.5円/kWhから0.2円/kWhへと半分未満となった。
また、事故炉廃炉費用8兆円にはデブリ取り出しまでしか含まれていない。実際には少なくとも、施設解体や敷地の除染費用、廃棄物処分費用が必要だ。簡単に廃棄物処分費を推計すると、低レベル放射性廃棄物の処分だけで22.3兆円となる。デブリは採取方法も確定しておらず推計は不可能だが、少なくとも事故炉廃炉費用に低レベル放射性廃棄物処分費用を加えた48.5兆円、これを補正した32.8兆円が下限値となる。

まとめ

ここまでの検討結果を表に整理した。原発の発電コストは政府試算よりも7~16円/kWh以上高くなった。原発の発電コストは「他電源と遜色ないコスト水準」とは明らかに言えない。

(松久保 肇)

原発の発電コストの検討結果の一覧表

本稿は『環境と公害』2025年7月号に掲載の大島堅一・松久保肇「原子力のコスト計算の問題点」を微修正のうえ抄録しました。

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