【Japan PuPo 2017】日米原子力協力協定と日本のプルトニウム政策 国際会議2017成果と課題

『原子力資料情報室通信』第514号(2017/4/1)より

日米原子力協力協定と日本のプルトニウム政策 国際会議2017成果と課題

概要・ねらい

原子力資料情報室は米国の憂慮する科学者同盟と共催で、2月23日・24日の2日間にわたり、「日米原子力協力協定と日本のプルトニウム政策国際会議2017」(以下PuPo2017、なおPuPoはPlutonium Policyの略)を東京の国連大学にて開催しました。国際会議には米国、韓国、台湾、中国、フランス、ドイツ、そして日本から23人のスピーカーを招き、参加者は150人を得ました。
日本のプルトニウム政策はいま、岐路に立たされています。2016年には高速増殖炉原型炉もんじゅの廃炉が決定され、2018年には1988年に締結された現行の日米原子力協力協定が期間満了(ただし期間満了後は自動延長となる。日米いずれかが6か月前に事前通告することにより協定は終了される)を迎え、また、計画では六ヶ所再処理工場が稼働を迎えることとなっています。米国のトランプ新政権は、日本のプルトニウム政策に対してどのようなスタンスをとるのか、いまだ明らかになっていません。そのような状況下で、日本の私たちは何ができるのか。今回の国際会議の主な狙いはそれを考えることにありました。そのため、今回の会議では、必ずしも原子力に否定的ではない方、日本のプルトニウム政策を堅持するべきだという立場の方、高レベル放射性廃棄物についても様々な見解をお持ちの方にご登壇いただきました。この種の会議でこのような多様なスピーカーが一堂に参加する機会はこれまでなかったのではないかと考えています。
もう一つの狙いは、日本のプルトニウム政策の世界への広がりを考えることにありました。現行の日米原子力協力協定では、米国が日本に使用済み燃料の再処理に関する包括事前同意(協定に定められた特定の施設における再処理の実施を事前に一括して認める)をおこなっています。使用済み燃料を再処理すればいうまでもなく、核兵器の材料ともなるプルトニウムを取り出せます。そのため、日本に認めるまでは、米国が再処理の包括事前同意を核拡散防止条約(NPT)上の非核兵器国におこなうことはありませんでした。
1988年に現行協定が締結される際には、米国政府・議会に強い反対が存在しました。そして、今なお反対意見が存在します。なぜなら、日本が再処理をおこなうことは、近隣諸国を刺激することにつながるからです。日本は日本のプルトニウムは平和利用目的にしか使わないと説明します。しかし、日本は48トンものプルトニウムを持ち、それを使うあてもないまま、新しく六ヶ所再処理工場を稼働させようしています。その姿を周辺諸国は、平和利用というだけでは説明がつかない、日本はいざとなれば核兵器を保有できる体制を維持しようとしているのではないかとみているのです。
米国は日米原子力協力協定を締結して以降、再処理の包括事前同意を他国に認めていません。しかし日本に認めてなぜ自国に認めないのかという声は絶えません。例えば2015年に締結された米韓原子力協力協定の交渉時、韓国はそのように主張し、実際にプルトニウムを取り出す前段階までではありますが、技術研究を認められることになりました。
日本のプルトニウム政策は国内の経済性・安全性問題にとどまることなく、国際安全保障問題に直結する課題なのです。

セッションの紹介

1日目は基調講演と2つのセッションをおこないました。基調講演では、元米国務省国務次官補で北朝鮮核問題を担当されたロバート・ガルーチ氏(ジョージタウン大特別栄誉教授)と福島第一原発事故当時原子力委員会委員長代理だった鈴木達治郎氏(長崎大学核兵器廃絶研究センター長)からお話しいただきました。鈴木氏からは独立で不偏不党の第三者評価組織を立ち上げるべき、またガルーチ氏からは、六ヶ所再処理工場の稼働を一時凍結し、プルトニウム問題解決のための日米協議をおこなうべきだという提言がありました。
次にセッション2はパネルディスカッションで、日本の再処理政策を核拡散の観点から議論しました。ここでは前行革担当相の河野太郎衆議院議員とホワイトハウス科学技術政策局主席次長(国家安全保障担当)の職務を終えたばかりのスティーブ・フェター氏(メリーランド大教授)、阿部信泰氏(原子力委員会委員長代理、個人の立場で)、遠藤哲也氏(元原子力委員会委員長代理、1988年の日米原子力協力協定では首席代表を務めた)、吉岡斉氏(九州大教授)、また外務省からは軍縮不拡散・科学部不拡散・科学原子力課の松井宏樹首席事務官に参加いただきました。なお、きわめて残念なことに、日本のプルトニウム政策に関する説明責任を持つはずの経済産業省は、繰り返し参加をお願いしましたが、ご登壇いただけませんでした。
このセッションで興味深かったのは、長らく日本のプルトニウム政策に深く関与してこられた遠藤氏ですら、現在この政策が問題を抱えており、推進のためには司令塔が必要であると認識しているという事実です。このことは、今の日本のプルトニウム政策が、だれも積極的に関与したくないが惰性で進んでいるという現状を端的に示しています。
セッション3では国際的・アジア地域的な視点からスピーカーに登壇いただきました。カン・ジョンミン氏(米天然資源防御委員会上席研究員)から韓国の再処理の動向、キム・ヘジョン氏(韓国原子力安全委員会委員、環境運動連合原発特別委員会委員長)からは韓国の原子力政策の歴史と現状、市民運動の動向を、国立台湾大教授のグロリア・シュウ氏からは、台湾の脱原発政策やその課題などを、また中国のチュ・シイフィ氏(中国軍備管理軍縮協会アドバイザー、元中国核工業集団教授)からは、中国の原子力と再処理をめぐる状況について報告がありました。さらに米国のヘンリー・ソコルスキー氏(核不拡散政策教育センター所長、元国防長官府核不拡散担当政策次長)からは、米国政府は日米原子力協力協定の自動延長を容認するだろう。しかし議会はそうしない可能性があるという指摘がありました。特に問題となるのは、この協定が米国の原子力産業に利益をもたらさず、その一方、北東アジア地域でのプルトニウム生産競争を促進する恐れがある点です。現在、エド・マーキー上院議員らが中国との原子力協力において、米国起源の核物質の再処理を制限する法案の提出を検討しています。この法案が注目を呼べば、日米原子力協力協定の更新問題も検討課題になりえます。
2日目はまず、セッション4Aでプルトニウム利用の問題をとりあげました。当室の伴から日本の再処理政策が直面している問題を報告し、共催団体である憂慮する科学者同盟(UCS)のエドウィン・ライマン氏からは米国では余剰プルトニウムの処分について、スターダストと呼ばれる様々な組成の物質と混ぜて直接処分する方向で検討されている旨の報告がありました。また、フランスの原子力アナリストのマイケル・シュナイダー氏からは、再処理先進国フランスにおいても再処理は問題に直面しており、速やかな撤退こそが望ましいとの報告がありました。
次にセッション4Bではコストやエネルギーセキュリティの観点から再処理を議論しました。まず、フランク・フォンヒッペル氏(プリンストン大名誉教授)は再処理がエネルギーセキュリティにも資さず、処分場面積を減らすことにもつながらないと指摘し、再処理が有害度を低減するというが、最も安全でコストの低い政策は直接処分であると指摘しました。また飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)からは、爆発的に成長を遂げている再生可能エネルギーこそがエネルギーセキュリティに資するエネルギー源であるという指摘がありました。
セッション5では再処理の「地域へのインパクト」と題し、青森県で建設中の六ヶ所再処理工場を巡る議論をおこないました。核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団団長で弁護士の浅石紘爾氏からは青森県や六ヶ所再処理工場の現状をお話しいただき、この問題を広く国民に知ってもらう運動をおこなう必要があるとの提起がありました。続いて茅野恒秀氏(信州大准教授)から六ヶ所村の現状について、望むと望まないとにかかわらず、核燃サイクル施設があることが村の現状であるが、徐々に行き詰まりを見せている、との報告がありました。ドイツからはヴァッカースドルフ再処理工場建設反対運動に参加した主婦のイルムガルト・ギートルさんから、1980年代、ドイツのちいさな村が巨大な再処理工場をいかにしてはねのけたか、そして村の現状についての力強いビデオメッセージをいただきました。またビデオメッセージを制作してくださったドキュメンタリー映画監督のクラウス・シュトリーゲルさんには、Skypeで質問にお答えいただきました。

課題

2日間の国際会議で改めて確認されたのは、日米原子力協力協定は自動延長路線が濃厚であること、しかし、米国議会など手掛かりは存在するということでした。登壇者からは、米国で同趣旨のシンポジウムを開催してはどうかとの提案もありました。
会議の終了に際して国際会議参加者有志でPuPo2017声明を発表しました(下記参照)。様々な見解を持つ参加者の意見を取りまとめた文書のため、一部異論のあるところも存在しますが、日本のプルトニウム政策に対する代替政策を訴えるうえでの基礎的な視座を与える文書だと考えています。
(松久保肇)

 

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