【原子力資料情報室声明】特定技能外国人労働者に原子力施設での作業をさせるべきではない

特定技能外国人労働者に原子力施設での作業をさせるべきではない

2019年4月26日

NPO法人原子力資料情報室

東京電力は門戸を開かれた特定技能外国人労働者を福島第一の廃炉作業に使用する意向を表明した。想定されているのは特定技能1号の外国人という。今後さらに他原発での作業にも拡大しかねないこの動きを以下の理由で断じて認めるわけにはいかない。撤回するべきだ。

1)原子力施設での作業には被ばくが伴う。多重下請構造の労働現場では、これまでの情報から、線量の高いエリアでの作業に回される可能性が高い。にもかかわらず、放射線防護に関する十分な教育と訓練が受けられないことが想定される。現状でも十分ではない上に、要求される日常会話レベルでは、いっそう不十分になる恐れが高い。放射線作業従事者としての管理が十分に行われず、被ばくによる労働災害の認定や追跡がいっそう曖昧になる恐れがある。

2)廃炉作業現場では、労働基準関係法令に違反する事例が際立っている。厚生労働省の統計によれば、2016年から18年の3年間だけを見ても、違反率は46%、38.4%、53.1%と高い。厚労省の指導にもかかわらず非常に高い状態が繰り返されているのである。これらは安全衛生関係ならびに労働条件関係、それぞれに高いが、特に労働条件ではいっそう高い。こうした法令違反の現状では、特定技能外国人労働者の労働条件がいっそう悪化する恐れがある。

3)東京電力は「発注者」としての責任がありながら、2)で見る事態に無責任な対応をしているばかりか、改善する能力がない。

東京電力は方針を撤回し、政府は特定技能外国人労働者の作業分野から原子力施設を除外するべきだ。

国籍を問わず、働く人たちの生命と健康が完全に保証されるべきであることが、もっとも基本なのではないのか。

(以上)

 

追加コメント:東電は“当面”ではなく方針自体を撤回するべきだ

2019年6月14日

5月21日、厚生労働省からの通達1を受けて、22日に東京電力は、「当面の間、発電所での特定技能外国人労働者の就労は行わないこととする」と発表した2

このなかで、「日本語や日本の労働習慣に不慣れな労働者に対する安全衛生管理体制を確立する必要があること」、「放射線に関する専門知識がない労働者が作業することに起因した労働災害・健康障害が発生する恐れがある」などと説明している。しかし、「より慎重に検討すべきと考えており、同検討には相当の時間を要する」、「引き続き、協力企業とも連携して、労働環境の整備に向け努めていく」としており、検討の余地を残している。

福島第一原発では、日本人作業員の労働環境も劣悪だ。2011年以降、福島第一原発作業員の放射線被ばくによる労災認定は6件しかない。被ばくを前提とした理不尽な使い捨て労働と、重層下請により電力事業者・元請・雇用業者の責任は曖昧となっている。この状態で外国人を受け入れても、労働条件の改善や生活・安全は保障されない。

被ばく線量管理については、各国での被ばく記録情報の一元管理、情報交換の確立、法規制の統一などなされておらず、その見通しもない。このような状況では被ばく影響と晩発性障害の立証は困難で、帰国後の健康影響への対応はできないと言わざるを得ない。

日本政府は、安い労働力を補うために外国人労働者の受け入れを拡大してきたが、権利侵害が相次いでいる。例えば、契約書がない、契約書があっても守られない、長時間労働、低賃金、賃金未払い、いじめ、パワハラ、在留取り消し制度など数えきれない。まずは、このような外国人労働者の労働環境の改善が必要である。外国人労働者を安価な労働力としてではなく、日本人と同じ労働者として認め、受け入れることができる社会の構築が必要だ。

これらの問題を放置したまま、特定技能外国人労働者を受け入ることは認められない。東電は“当面”ではなく方針自体を撤回するべきだ。その上で、東電との契約主体は元請け事業者でしかなく、重層下請構造の中で周知徹底させる努力をするべきである。

(以上)

 

※1 「東京電力福島第一原子力発電所における外国人労働者に対する労働安全衛生の確保の徹底について」 (2019年5月21日 厚生労働省労働基準局安全衛生部「基安発0521第1号」)

www.tepco.co.jp/press/news/2019/pdf/190521a.pdf

 

※2 福島第一原子力発電所における外国人労働者に対する労働安全衛生の確保の徹底に係る厚生労働省通達に対する報告について(2019年5月22日 東京電力ホールディングス株式会社)

www.tepco.co.jp/press/news/2019/1515153_8967.html