【視点】原子力規制委員会の密室会議に経済産業省の公文書偽造 ―原子力行政の腐敗ぶり―

『原子力資料情報室通信』第551号(2020/5/1)より

 

 2018年12月12日に原子力規制委員会は関西電力に対して、新知見に基づく降下火災物の再評価と報告を原子炉等規制法第67条(報告聴取)に基づき求めた。
 高浜原発、大飯原発、美浜原発それぞれへの火山の影響を評価するのだが、関電は降下火災物の層厚を10cmと評価し、規制委はこれを了承、新規制基準に適合すると判断していた。関電は再稼働させた。
 規制委は、18年11月21日の会合で、ほぼ同様の距離にある京都市越畑(こしはた)地点で見つかった大山生竹(だいせんなまたけ)テフラの層厚が25cm、大山火山(鳥取県)の噴出量が推定で11km3であったと新たに認定した。そこで、関電に上述の報告聴取を行なうことにした。稼働原発の停止は求めていない。
 これに対して関電は高浜原発21.5cmとの再評価結果を19年4月に提出し、規制委は17日に妥当と判断した。
 ところが今年になって、18年の報告聴取命令は「密室会議」で決定されたものだったと毎日新聞がスクープした(1月4日付朝刊)。同社が情報公開手続きで入手した資料によれば、原子力規制庁で新知見に適合していないことから「特定指導文書により設置許可変更申請を求める」案が検討された。この案だと規制基準不適合状態が明瞭になり原子炉停止の声が高まる可能性がでてくる。そこで安井正也原子力規制庁長官(当時)が上述の報告聴取案を指示し、結局2案が「密室会議」に提出され、採用された後者の案のみが正式な規制委員会にかけられた。審議はわずか5分だった。
 「密室会議」は報道の表現で、規制庁側は「委員長レク」と呼んでいる。2案を検討した「委員長レク」は18年12月6日に開催され、石渡委員と安井長官を含む規制庁職員10名が参加していた。
 更田委員長はレクでは何も決定していないと強弁。また超党派国会議員有志の原発ゼロの会のヒアリングの場で規制庁職員は決定の場でないと繰り返した。しかし、2案を1案に絞った上で公開の規制委員会に提案している。しかも、2案があったことは全く報告されていない。「委員長レク」で重要な方針決定が行なわれたと断言できる。
 さらにこの時のレクには報告聴取の文案が示され、それには「機密性2 打合せ後廃棄 検討用資料」と右肩に記されていた。この文案は情報開示請求でも出てこなかったもので、内部情報として出たものだ。規制庁側は、規制庁の文書に「間違いないだろう」が、出席者11人が配布された記憶がないと回答したという。
 原子力規制委員会は福島第一原発事故の反省から発足し、公開性と透明性を第一に活動している組織のはずである。また、公文書管理法は行政の決定過程が見え、追えるための文書管理を求めている。今回の規制委と規制庁の姿勢は公文書管理法からも逸脱した行為といわざるを得ない。猛省を求める。
 一方、経済産業省では公文書偽造が明らかになった。なぜかこちらも関電関連だが、同省は金品受領問題に対する業務改善命令を3月16日に発出した。ところが、発出後に事前に電力・ガス取引監視等委員会の意見聴取が必要だと電取委から指摘され、慌てて意見聴取したが、この時15日付けで決済をすませたように文書を偽造した。顛末の報告を受けた担当部局も電取委側の部課長もこの偽造を黙認した。結局、梶山大臣の指示で3月30日に、命令文書を関電あてに出し直した。経産官僚の公文書偽造は行政官としての資質の欠如を示すもので、見過ごせるものではない。不正に係った職員や幹部ら7名に戒告、訓告、厳重注意などの処分が行なわれたが、このような軽い身内処分で済ますことにとうてい納得できない。          

(伴英幸)