【原子力資料情報室声明】「除染なき避難指示解除」は許されない
「除染なき避難指示解除」は許されない
2020年6月22日
NPO法人 原子力資料情報室
6月3日、経済産業省、環境省、復興庁は、東京電力福島第一原発事故の避難指示区域について、未除染地域でも避難指示解除できるよう検討していることが報道された※1。未除染で解除した場合の安全性について原子力規制委員会に諮った上で、原子力災害対策本部会議を開いて解除要件を見直すという。2月26日、飯舘村が政府に要望書を提出し、帰還困難区域の長泥地区に「復興公園」を整備し、住民が自由に訪れることができるよう避難指示を解除してほしいと求めたことがきっかけだ。
これに対して、飯舘村以外の帰還困難区域を抱える5町村(浪江、双葉、大熊、富岡、葛尾)は、除染を前提とした避難指示解除を求めている。福島県の内堀知事は「帰還困難区域の避難指示解除は、本来の基本的考え方である放射線量の低減と除染の進展、自治体との十分な協議をしっかり満たすことが大事だ」と述べた。
6月11日、超党派議員連盟「原発ゼロの会」が、内閣府原子力被災者生活支援チームから聞き取りをおこなった。内閣府の担当者は、帰還困難区域の避難指示解除に向けて「地元自治体の強い意向がある場合には、住民の安全の確保を前提としつつ、どのような避難指示解除の仕組みが適切か、検討をおこなっている」と述べた。
避難指示解除の要件は、「①空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること、②日常生活に必須なインフラや生活関連サービスが概ね復旧すること、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること、③県、市町村、住民との十分な協議」と原子力災害対策本部が決定し、閣議決定もおこなっている※2。除染なき避難指示解除は、この決定を覆すもので、認められない。
3つの問題点がある。まず、年間積算線量20ミリシーベルト以下の被ばくでも安全とはいえない、という点だ。20ミリシーベルト以下の被ばくによる放射線影響を示す研究が多数ある。避難指示が解除されれば、子どもたちが自由に立ち入ることもできるようになる。そのときに、子どもたちが放射線影響を受ける恐れがある。
2つめに、原子炉等規制法および放射線障害防止法で「一般公衆の被ばく線量限度年間1ミリシーベルト」が規定されている。放射性物質の自然減衰などで空間線量が年間20ミリシーベルト以下になっているとしても、帰還困難区域のほぼ全域で、いまも年間1ミリシーベルトの被ばく線量を上回っている。本来ならこれ以下まで除染などをおこなった上で避難指示を解除するべきである。
3つめに、20ミリシーベルト以下での避難指示解除でも、なおリスクが高いのに、除染しないままの解除は、これに例外を設けることになり、除染を「国の責務」とした放射性物質汚染対処特措法に違反する。
飯舘村からの要請とはいえ、国の責務を放棄し、法律に反して被ばくを認める「除染なき避難指示解除」をすべきではない。
以上