日露原子力協定に関し、政府に公開質問

プレスリリース
日露原子力協定に関し、政府に公開質問

2010年7月28日

 原子力資料情報室は本日、別紙の公開質問を内閣総理大臣、外務大臣、経済産業大臣と原子力委員長宛に送付しました。既に署名され、国会での批准待ちとなっている日露原子力協力協定に関し、疑問点を指摘したものです。
 核兵器国であるロシアとの原子力協力は、核不拡散上、重大な問題をはらんでいます。
 協定では、ロシアから日本に核物質等を移転する場合、日本は国際原子力機関(IAEA)の査察を受けることになります。他方、日本からロシアに移転する場合には、ロシアは核兵器国なので、一部の施設しか査察の対象となりません。対象となりうる施設(「適格施設」)のリストをIAEAに提出し、その中からIAEAが選んだ施設(「選択施設」)だけが査察を受けます。
 日本から移転される核物質は、原則として「選択施設」に置くことが協定には定められていますから、その施設名を協定の附属書BのA部に掲げることが必要です。しかし現在、ロシアでは「選択施設」は未だ存在していません。査察は未実施です。協定書付属文書BのA部には、「選択施設」は「なし」と記されています。ここに施設名が書き加えられることが、協定発効の要件です。
 附属書BのB部には、「適格施設」としてアンガルスク国際ウラン濃縮センターの名があります。「適格施設」にも核物質を「置くことができる」と、協定には書かれています。それは、「補助的手段であって両締約国が書面により合意するものが適用されることを条件として」可能となります。ところが日露両締約国政府は、原則として「選択施設」に置くが「適格施設」に置くこともできるとする条文をタテに、「適格施設」への移転のみを行おうとしているとの疑惑があります。
 IAEAとロシアが、ロシアのアンガルスクにある国際ウラン濃縮センター(IUEC)での低濃縮ウラン(LEU)備蓄の創設に係る協定に署名したことから、このLEU備蓄が「選択施設」として認められれば協定発効の要件を満たすという見方があります。しかし、日本から核物質が移転されようとしているのは、別の施設なのです。
 日本の外務省は、「適格施設」でも「万一疑義が生じた場合は最終的に査察が入ることもある」などと言いわけをしています(2009年5月24日、モスクワ共同)。とはいえ通常は査察の対象にならない施設に日本の核物質を移転してもよいとする考えは不当だと、私たちは考えています。相手は既に核兵器を所有する国だからこそ、日本からの核物質が核兵器の増強やアップデートに使われる可能性を否定できないのです。
 別紙の公開質問は、そうした点で政府の姿勢を糺すものです。

認定特定非営利活動法人原子力資料情報室
共同代表 西尾漠
国際担当 フィリップ・ワイト

〒162-0065 東京都新宿区住吉町8-5曙橋コーポ2階B
TEL.03-3357-3800 FAX.03-3357-3801
Email:cnic[アットマーク]nifty.com


内閣総理大臣 菅直人殿
外務大臣 岡田克也殿
経済産業大臣 直嶋正行殿
原子力委員長 近藤駿介殿

日露原子力協力協定に関する公開質問

2010年7月28日

認定特定非営利活動法人 原子力資料情報室
Citizens’ Nuclear Information Center
共同代表 西尾漠
国際担当 フィリップ・ワイト
東京都新宿区住吉町8‐5 曙橋コーポ2階B
TEL.03-3357-3800 FAX.03-3357-3801
Email:cnic[アットマーク]nifty.com

 日露原子力協力協定が2009年5月12日に署名されましたが、未だ国会に批准案が提出されていません。2009年10月1日付けの「参議院議員近藤正道君提出『原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とロシア連邦政府との間の協定』に関する質問に対する答弁書」では、国会には「日露原子力協定附属書BのA部に選択施設を掲げた上で提出する予定である」とされていました。協定第三条が、協力の要件として「ロシア連邦に関する保障措置協定に規定する保障措置の適用上国際原子力機関が選択している一又は二以上の施設が存在すること」と定めているからです。
さて、2010年7月8日付けの電気新聞が、次のように報じました。「日露原子力協定の批准・発効に向けた道筋が見えてきた。経済産業省幹部によると、残された課題だった国際原子力機関(IAEA)の保障措置(査察)に関して、7月までにロシア国内の対象施設で受け入れ準備が整ったもよう。両国交渉が順調に進んだ場合、次期通常国会に条約が提出される可能性も高まってきた」。
 そこで、以下の質問を公開で行い、回答を求めます。

(1)電気新聞が言う「ロシア国内の対象施設」とは「選択施設」のことであると考えられますが、国際原子力機関(IAEA)によって選択されようとしている一または二以上の施設が存在するのでしょうか。それは、どんな施設なのでしょうか。2010年3月29日、IAEAの天野事務局長とロシア国営公社ロスアトムのキリエンコ総裁は、ロシアのアンガルスクにある国際ウラン濃縮センター(IUEC)での低濃縮ウラン(LEU)備蓄の創設に係る協定に署名しました。このLEU備蓄が「選択施設」として認められるとも聞きますが、事実でしょうか。

(2)LEU備蓄にIAEA保障措置が適用されるとしても、日本から核物質、資材、設備及び技術が移転されようとしているのは、LEU備蓄施設にではありません。それでもIAEAによってLEU備蓄が「選択施設」として選ばれれば、日露原子力協定を発効させる要件を満たすことになるのでしょうか。

(3)日露原子力協定で日本がもっとも期待を寄せているのはロシアの濃縮だと言われています。ロシアの濃縮施設としては、協定附属書BのB部に「選択施設」以外の「保障措置の適用上適格性を有する」施設として挙げられているアンガルスク国際ウラン濃縮センターのほかに、セベルスク(旧トマスク‐7)などがあり、日本は再処理回収ウランの濃縮を行っているセベルスクへの濃縮委託につき交渉中との報道(2009年5月24日、モスクワ共同)がありました。仮にセベルスクに再処理回収ウランを移転しようとする場合には、セベルスクもB部に加えられる必要があります(ロシアは複数の施設を適格施設リストに挙げ、IAEAに提出していますが、リストの公開はしていません)。
 というより、適格施設としてB部に加えられたとしても、B部の施設に濃縮役務を委託したりすることは許されるべきでないと思います。
 B部の施設に核物質を「置くことができる」のは、あくまで「補助的措置」としてであって、長期的な契約に基づいて同措置を実施することは不当です。日本が供給するすべての核物質、資材、設備及び技術は、保障措置が適用される施設でしか使ってはいけないと考えるべきではないでしょうか。

(4)そもそも、日本は核兵器国に対し原子力協力をするべきではないと思います。今までは「受領者」として歴史的に欧米の核兵器国に依存してきました。今後、積極的に「供給者」を目指していますが、軍事部門と民生部門に明瞭な区別のない受領国による核兵器のアップデートを絶対に助長しない制度が成立しない以上、核兵器国に核物質、資材、設備及び技術を提供してはいけないのではないでしょうか。

(5)先ごろ政府は、日印原子力協力協定の締結に向けた交渉を開始しました。核不拡散体制に大きな穴をあけるものであり、日露条約以上に容認できることではありません。然るにこの交渉は、「平和利用の番人」としてある原子力委員会の意見を聞くこともなく開始されました。まずは原子力委員会の意見を聞くべきではなかったでしょうか。また、今後はそうすべきでないでしょうか。