六ヶ所再処理工場竣工を2年延期―むつ中間貯蔵施設着工、脱再処理への議論を!
『原子力資料情報室通信』第436号(2010/10/1)より
六ヶ所再処理工場竣工を2年延期
―むつ中間貯蔵施設着工、脱再処理への議論を!
日本原燃は9月10日、六ヶ所再処理工場の稼働開始時期を、今年(2010年)の10月の予定から2012年10月に2年延期すると発表した。延期の大きな理由は、ガラス固化体製造試験での事故・トラブルである。
一方、操業延期と同時に日本原燃は、株主である10電力会社と東芝、日立、三菱各社を引受先とする4000億円の増資を行ない、弱い経営体質を強化するとしている。現在の資本金は2000億円で、増資の半分の2000億円が資本金に、残りの2000億円が資本準備金とされる予定だ。
操業開始を2年延期
延期される2年間の試験スケジュールについて日本原燃は、前半の18ヵ月は、AとB、2基の溶融炉への温度計設置工事、模擬廃液を用いたKMOC(東海村の試験用施設)での運転データとの比較検証作業等を行なうとしている。後半の2012年4月以降の6ヵ月で、実際の高レベル放射性廃液を用いた試験が二つの溶融炉で行なわれる予定となっている。
延期を重ねても、ガラス固化設備の運転開始の可能性は全く不明だ。商業施設としての六ヶ所工場の試験が頓挫してからKMOCでデータを取り直すようなお粗末を演じている試験の実態は、ガラス溶融炉の開発が完全に失敗であったことを裏付ける証左であろう。技術開発の未熟さのため、日本原燃は白金属の堆積に対し「かき混ぜ棒」を挿入するというような場当たり的な対応しか出来ず、最終的には約150リットルの高レベル放射性廃液をセル内に漏えいさせる事故を引き起こした。延期された24ヵ月のうち18ヵ月の実質作業は、何のことはない「改造工事」と確証試験である。これも明らかに技術開発“実験”ではないか。
リサイクル燃料備蓄センター着工
六ヶ所再処理工場の操業延期公表前の8月31日、青森県むつ市では「リサイクル燃料備蓄センター(以下備蓄センター:図参照)」の建設が開始された。施設を建設・運転するのは、東京電力と日本原子力発電が2005年に共同出資して設立したリサイクル燃料貯蔵株式会社(RFS:Recyclable-Fuel Storage Company)だ。
RFSの計画では、東京電力と日本原子力発電の所有する原子力発電所(敦賀1は除く)から発生する使用済み燃料を、輸送・貯蔵兼用金属容器で施設内に自然冷却で貯蔵する。1回の搬入はキャスク8基で年4回の搬入が予定されており、使用済み燃料の冷却年数は、容器により原子炉取り出し後8?20年以上となっている。最終的な貯蔵容量は建屋二つで約5000トン。今回建設が開始されたのは1棟目の建屋で、容量は使用済み燃料で約3000トン、容器約288基の施設で、2012年7月の操業開始を予定している。使用済み燃料の貯蔵期間は、建屋ごとに50年間とされているが、2棟目は10?15年後に建設されるため、施設全体の貯蔵期間は最大で約65年となる模様だ。総事業費は1048億円である。
この施設の建設が比較的順調に進んだのは、むつ市が財政的に困窮状態だったため、交付金を目当てに積極的に誘致したことが大きな要因だ。1988年4月?09年3月までで約220億円を超える交付金が国から支給され、それは職員の人件費から道路、河川の整備、市施設管理など、あらゆる市政運営に支出された。交付金以外にもRFSの親会社である東京電力と日本原子力発電が市に対して15億円を寄付し、倒産したショッピングセンターを改修して市役所新庁舎とするなど、施設は「金のなる木」として地元政治家たちに歓迎された。しかし使用済み燃料を貯蔵するだけの施設なので、操業後の地元雇用はほとんどない。
脱「再処理」への布石
「備蓄センター」で貯蔵される使用済み燃料が、50年後再処理工場へ搬出されるという確実性は何もなく、市民は「(高レベル放射性廃棄物の)最終処分地が決まっていないのに受け入れたら核のゴミ捨て場になる」という不安を拭いきれないのが実情だ。六ヶ所再処理工場が新しい計画通り2012年から40年間順調に年間800トンの最大能力で稼働しても、今後発生する使用済み燃料の半分以上(3?4万トン)は再処理できず、貯蔵しなければならない。しかも六ヶ所再処理工場自体の稼働も危うい現状では、第2再処理工場などという議論が国民に受け入れられる要素はない。各電力会社には、「再処理」という問題の先送りでない、使用済み燃料の貯蔵問題に真剣に取り組む必要性が出てきた。
このような状況下で、使用済み燃料の集中中間貯蔵施設の建設は様々な意味を持つことになった。備蓄センターの操業開始時期は、延期された六ヶ所再処理工場の操業予定より早い。そして六ヶ所工場が再び操業を延期するような場合でも、大量の使用済み燃料を保持する東京電力は、使用済み燃料の輸送先としての六ヶ所を当面必要としない立場を確保した。というよりは、「備蓄センター」が着工したので六ヶ所再工場の竣工は2年の延期が可能となったのであり、さらにもはや「再処理工場」は必要不可欠の施設ではないことも明らかになったのである。東京電力が使用済み燃料の中間貯蔵という原子力政策大綱の言う「柔軟性」を得ただけでなく、同時に電力会社自らが脱「再処理」という選択肢を視野に入れていることも見逃してはならないだろう。
私たちは、六ヶ所再処理工場の現状、核燃料サイクル政策の停滞、放射性廃棄物処分問題、原子力コスト問題、原子力施設の耐震安全など原子力発電をめぐる多様な問題を、今こそ政府、原子力委員会、電力会社が広範な市民と議論する好機と考え、原子力政策大綱の見直し議論を進めるよう求める。
(澤井正子)