【要請書】汚染水は海洋放出するのではなく、陸地保管へ方針転換することを求める
小泉進次郎環境大臣
菅義偉内閣総理大臣
梶山弘志経済産業大臣
平沢勝栄復興大臣
茂木敏充外務大臣
野上浩太郎農林水産大臣
加藤勝信内閣官房長官
汚染水は海洋放出するのではなく、陸地保管へ方針転換することを求める
2020年10月21日
NPO法人原子力資料情報室
共同代表 西尾漠、伴英幸、山口幸夫
報道によれば、政府は福島第一原発で溜まっている汚染水を海洋放出することを決定する方向である。
しかし、これには東北地方沿岸の漁業者団体が強く反対している。その主張は、福島原発第一事故の爆発事故により放出された放射能により、特に福島県の沿岸漁業が壊滅的な打撃を受け、この10年の努力の積み重ねにより、ようやく試験操業から脱することができる直前に、再び放射性物質が放出されることになるからである。「これまでの努力が水泡に帰す」と反対しているのである。さらに、漁業者にとって漁業は単なる経済活動ではなく、生業そのものであり、そこには漁業者として生きる喜びと誇りがある。これを奪うことがあってはならない。
また、東京電力HDは、地下水ドレンの放出の交渉において、汚染水の海洋放出は、漁業団体の合意を得て行なう、合意がない限り放出しないと約束している。
一方、当原子力資料情報室を含め市民団体は、海洋放出に反対し、地上での保管継続と将来的なモルタル固化案を提案してきた。また、当室はモルタル固化では、先立ってトリチウムの分離技術の開発が行なわれるべきだと考えている。
政府は貯蔵スペースの限界と復興の加速を放出理由にあげている。貯蔵タンク増設のスペースがないわけではない。例えば土捨場とされている敷地内北側の場所を活用することでタンク増設のスペースが確保できる。土捨て場は主として燃料デブリの貯蔵建屋建設予定地の土を捨てる場所との位置づけだが、予定地は表面から10センチ程度を取れば、汚染されていない土である。従って、深く掘削することで出るその土を中間貯蔵施設に運ぶことに法的な問題はないはずであり、環境省や地権者との話し合いをしてその合意を得る努力をするべきだ。
また、復興の加速はお題目のように唱えられているが、取出した燃料デブリやALPSの処理過程で発生する廃棄物など施設内の放射性廃棄物が県外に搬出される見通しはなく、極めて長い間にわたって敷地内に貯蔵されることになる。福島第一原発は放射性廃棄物の保管場になることは必至だ。
政府が海洋放出の方向を決めれば、東北沿岸の漁業団体に大きなダメージを与えることになる。風評被害でなく実害がおよぶことになる。その影響は単に国内からだけでなく、国外からも受けるだろう。東北産の物品の輸入禁止措置が長期にわたって継続されることになる恐れはたかく、また、禁輸を解いた国々が再び禁輸措置をとる恐れもある。対象は東北産だけに限らず、日本の広い範囲におよぶ恐れがある。報道によれば、中国が「周辺国と十分に協議した上で慎重に決定することを望む」としている。韓国政府も海洋放出に反対している。海洋放出は国際問題となることが避けられない。これらが福島県を中心に及ぼす経済的ダメージは大きく、政府が漁業補償を行なうことで解決する問題ではない。政府は、海洋放出をしなければ復興が遅れると理由をつけるが、長期におよぶ経済的ダメージが復興を妨げることは言うにおよばない。
復興とは福島第一原発敷地内の廃炉作業の進捗のみで定義されるのでなく、地域社会があたりまえの日常を取り戻すことが重要ではないのか。
海洋放出は数十年間にわたって実施される。トリチウムおよび2次処理されて基準以下になった放射性物質はしかし、環境に蓄積していく。そして海洋生物の生態系に入り込み食物連鎖を通して濃縮されていくことになる。ひいては人間に被ばく影響をもたらすことになる。
政府は海洋放出でなく、地上での保管継続へと方針を改めるべきである。