【連載】水道水のセシウム濃度調査 第3回 水中セシウムの濃縮法
『原子力資料情報室通信』第522号(2017/12/1)より
【連載】水道水のセシウム濃度調査 第3回 水中セシウムの濃縮法
現在、東京の水道水に含まれる放射性セシウムの濃度は、最大で1キログラムあたり数ミリベクレル(mBq)程度と、非常に低い値です。水道局が発表している水道水に含まれる放射性セシウム濃度の検出限界値は1キログラムあたり0.6~0.8ベクレル(600~800mBq)ということからも分かるように、これほど低濃度の放射性物質を検出するのは容易ではありません。
微量の水中セシウムを測定する方法には、蒸発乾固(濃縮)法、リンモリブデン酸アンモニウム法(AMP法)、イオン交換樹脂法などがあります1)。蒸発乾固(濃縮)法はビーカー等に試料水を入れホットプレート等で加熱し水分を蒸発させ、セシウムを濃縮させる方法です。低コストですが多量の水分を蒸発させるのに時間がかかります。AMP法は、水中のセシウムイオンと特異的に吸着するリンモリブデン酸アンモニウム(AMP:(NH4)3[PMo12O40])という固体分子を用います。試料水にAMPを投入しセシウムイオンを吸着させ、静置後ろ過を行い、ろ紙上の回収物を放射能測定する方法です。淡水だけでなく海水にも適用できるので、核実験由来の海水中の放射性セシウムを分析するのに古くから採用されています。イオン交換樹脂法は、陽イオン交換樹脂に水中のセシウムイオンを吸着させて回収する方法です。水の浄化(軟水化)技術を応用して、システムが市販されているそうですが、競合するイオンを多量に含む水(海水など)には適しません。
それぞれ長所と短所がありますが、私たちはこの調査にAMP法を採用しました。蒸発乾固(濃縮)法は処理に時間がかかる上に排気設備の問題があったこと、調査を発展させていくにあたり測定対象の河川水に海水が含まれる可能性があったためです。以下に具体的なAMP法の作業を示します。
①試料水をポリタンクに20リットル採取する。(河川水の場合はフィルターで固形物を取り除く)
②塩酸を投入し酸性溶液とした後、5リットルずつ4つのビーカーに移す。
③AMPを各ビーカーに2.5グラムずつ投入し、30分間攪拌する。
④20~24時間静置した後、透明な上澄み液を捨て、残りを吸引ろ過する。
⑤AMPの乾燥後U8容器に移し、AMPの回収率を求める。
⑥ゲルマニウム半導体検出器で測定する。①で除いた固形物も放射能測定を行う。)
試料水20キログラムを濃縮処理するのに3日ほどかかりますが、この作業で検出限界値を1キログラムあたり0.4~0.6ミリベクレルまで低下させることができました(40時間測定)。濃縮処理する水の量を増加させると、さらに低濃度まで測定することができます。なお、水のままゲルマニウム半導体検出器で放射能測定した場合(2キログラムを20時間測定)、検出限界値は1キログラムあたり20ミリベクレル程度でした。(つづく)
濃縮作業のようす 写真左から
・試料水にAMPを投入し攪拌する ・約20時間静置すると上澄みは透明になる ・吸引ろ過を上から見た様子 ・ろ紙ごとセシウム吸着AMPを乾燥させる ・AMPを放射能測定容器(U8容器)に入れる
1)『技術資料 環境放射能モニタリングのための水中の放射性セシウムの前処理法・分析法』
(水中の放射性セシウムのモニタリング手法に関する技術資料検討委員会) 平成27年9月
(谷村暢子)