浜岡原発全機停止要請を歓迎する 最後は廃炉へ
『原子力資料情報室通信』第444号(2011/6/15)より
浜岡原発全機停止要請を歓迎する
最後は廃炉へ
伴英幸
菅直人内閣総理大臣は5月6日夜に記者発表し、中部電力に対して運転中の浜岡原発4号炉と5号炉の停止を求めた。中部電力は取締役会で協議、受け入れを決定し、13日に4号炉、14日に5号炉を停止した。
迫り来る東海地震を考えれば当然の結論だ。私たちはこの停止を歓迎する。
中部電力は2008年12月に1号炉と2号炉の廃炉を決定した。耐震強化策に費用がかかり過ぎることが理由だった。だが3号~5号炉は運転を継続する判断を行なっていた。
そこへ今回の福島第一原発での原発震災。1号炉から4号炉でそれぞれ規模や場所などは異なるが水素爆発が発生し、環境へ大量の放射能が飛散し広範囲の汚染状況が出現した。また、1号炉でメルトダウンが起きていたと、東京電力は5月15日に、ようやく認めた。条件を示さない計算結果にすぎないが、あわや水蒸気爆発ともいえる事態に至っていたわけだ。
福島原発が危険な状況を脱することができないでいる最中に、中部電力は定期検査中の3号炉の運転を7月にも始めることを前提にした「平成23年度経営の目指すもの」を発表した(4月28日)。これに対して海江田経済産業大臣が中部電力を訪れて7月の運転再開を認めない方針を伝えたと報じられている(5月5日)。
話は前後するが、3月30日、経済産業省は電力各社に対して福島原発事故を受けた緊急対策を指示した。内容は、「津波により、【1】交流電源を供給する全ての設備の機能、【2】海水を使用して原子炉施設を冷却する全ての設備の機能、【3】使用済燃料貯蔵プールを冷却する全ての設備の機能が喪失した場合であっても、炉心損傷および使用済燃料の損傷を防止し、放射性物質の放出を抑制しつつ原子炉施設の冷却機能の回復を図るための緊急安全対策を講じること」というものだった。
これに対して、4月20日、中部電力は緊急安全対策を発表し、①災害対策用発電機の設置(計9台)、②可搬式動力ポンプおよび消化ホース(8台)、③窒素ボンベ(6台)などの配備を行った。また、今後の対策として、①防波壁の設置(東京湾平均水準を基準に+12m)、②防水構造の扉の強化、③非常用炉心冷却系の予備品の確保などを掲げた。防波壁はすでに地盤調査に入っているが、設置までに3年かかるとしている。建屋の扉の防水構造化にも3年近く必要だとしている。中部電力はこれらの対策について運転を継続しながら設置するという姿勢だった。
東北地方太平洋沖地震の経験を踏まえて、東海地震発生時の津波の高さの予想は果たして十分なのか? 押し寄せる津波に対する壁の強度などの情報がない中で疑問が残る。付け焼刃の対策という感が否めない。が、それはともかく、壁の建設中に東海地震が起きたらどうするのか。
他方、2003年に、地元住民が中心となって、東海地震が過ぎるまで浜岡原発の運転停止を求める民事裁判が提訴された。2007年の1審判決は住民敗訴の結果に終わり、現在は東京高等裁判所で係争中である。2009年に起きた駿河湾の地震により浜岡5号炉が異常に揺れた。中部電力はこれについて「S波主要動部および周期0.2?0.5秒付近の短周期にのみ5号機の増幅が見られたことなどについて定量的には説明できておらず、駿河湾の地震(本震)における5号機増幅のメカニズムの詳細を把握する必要がある」としている*。
つまり、09年の地震による5号炉の揺れのメカニズムすら解明されない中で、東海地震への対応が十分といえるのか? 疑問が尽きない。しかも、東海地震は東南海地震、南海地震との連動の可能性も指摘されている。連動の場合にスベリ量はいっそう大きくなる可能性が3月11日の地震の経験として指摘されている。だとすれば、現在想定されている地震動では不十分だといえる。
津波対応としての防波壁建設期間中の停止は当然としても、3基の浜岡原発が東海・東南海・南海地震の連動がもたらす地震動に耐えられるのか、改めて十分な審議が必要だ。そしてこの十分な審議の結果は浜岡原発を廃止という結論にならざるを得ない。運転継続の結論を出すための小手先の計算条件の設定など、もはや通用しないのだから。
この点では他の原発も同様だ。東北地方太平洋沖地震を受けて、2008年4月からの耐震バックチェックは再び見直されなければならない。その際、各原発で議論になりながら採用されていない活断層が再び取り上げられなければならない。たとえば、泊原発では渡辺満久教授(東洋大)が沖合に70kmに及ぶ海底活断層の存在を明らかにした。もはやこれを無視できないだろう。正しく見直せば、結論は廃炉しかない。六ヶ所再処理工場、柏崎刈羽原発、敦賀半島の原発群、島根原発などなど、すべての原発が廃炉という結論になるだろう。耐震性だけではない、福島原発事故が提起したことは、ひとつの原因で機器類が共倒れする(共通要因故障という)こと、そしてあらゆるケースを想定しなければ安全は確保されないが、そのような想定はできないということだ。たとえ確率的に小さくても過酷事故を避けることができない以上、廃炉しかないのである。