六ヶ所再処理工場の保障措置にゴーサイン

六ヶ所再処理工場の保障措置にゴーサイン

 六ヶ所再処理工場は、多量のプルトニウムを、しかも液体や粉末で、24時間体制、すなわち連続運転で扱う。受け入れたプルトニウムと取り出されたプルトニウムとの差の確認は工程ごとにはできず、一通りの処理全体でしかできない。

 取り扱い量が増大すればプルトニウムの収支に伴う不確かさは必然的に大きくなるので、年間800トンの使用済み燃料を扱うということは、東海再処理工場での実績を大きく上回る不明量が出てもおかしくない(東海再処理工場では、25年がかりで約1000トンの使用済み燃料を処理したが、受け入れた使用済み燃料の中のプルトニウムと、製品として取り出されたプルトニウムとの差が200キロ以上で、うち約60キロが説明がつけられない不明量となっている)。

 核物質管理学会日本支部の2001年年次大会の論文集で、同支部の萩野谷徹氏は、こう述べている。
「IAEA保障措置には色々の基準があるが、その一つに『計量検認ゴール』がある。各施設に対するこの検認ゴールは1SQ[有意量]である。プルトニウムであれば8kgである。施設で年間1SQの不明量があった場合、それをIAEAは探知できなければならないとされる。

「六ヶ所再処理工場の保障措置についての発表は多々あるが、『計量検認ゴール』の量的な説明が何もなされていないので、果たしてこの再処理工場で年間8kgのプルトニウムが行方不明になった場合に、IAEAの保障措置当局がそれを探知できるのかが気にかかる。そしてこのゴールに関係するのが『計量能力の期待値(E)』である」

 萩野谷氏は、六ヶ所再処理工場における期待値が、1987年の「IAEA保障措置用語集」にある計量国際基準から求めると263.2kgであり、その後の「格段の精度の向上があったと思われる」ことを示すH.Aigner et al「International Target Values 2000 for Measurement Uncertainties in Safeguarding Nuclear Materials」(STR-327 April 2001)の数字を使っても約50kgだとして、言う。

「保障措置の最大の技術的目標は『有意量の転用の適時の探知』であるが、六ヶ所再処理工場でも『有意量の転用の適時の探知』が可能であるとの論文は残念ながら見たことがない。IAEAや日本の保障措置関係者に聞いてもはっきりした答えは返ってこない」

「さて、六ヶ所再処理工場でプルトニウム年間1SQの転用があってもIAEAはそれを探知できないとのことになってもこの工場の運転は認められるのであろうか。日本では、米国原産の使用済み燃料が殆どで、日米原子力協定の枠の中で再処理するわけであるが、IAEAの保障措置では1SQの転用の探知は不可能であっても最終的に米国は六ヶ所再処理工場に包括的同意を与えるのであろうか」

 残念ながら、その答は「認められる」「包括的同意を与える」だった。

 日本政府とIAEAは、1月19日付けで保障措置協定の施設附属書(施設での査察の内容等を詳細に記載した文書・非公開)に合意した。それを受けて日本政府は3月17日付けで米国政府に、日米原子力協定実施取極の附属書で再処理の包括同意の対象とされている「運転中施設」に六ヶ所再処理工場を追加することを通告。同日付けで米国政府から受領通知を得た。

 日本政府では、これにより「アクティブ試験を行うことが日米協定上可能となったものと考えている」という(稲見哲男衆議院議員の質問趣意書に対する6月4日付け内閣答弁書。なお、ウラン試験については「日米協定等の相手国の同意を得る必要はないと考えている」)。

 答弁書の時点では、日豪原子力協定、日加原子力協定上の手続きが残っているが、それらに多くの時間がかかることは考えにくい。手続き上はゴーサインが出ても、前述のようにIAEAの保障措置の「鉄則」はないがしろにされている。

 IAEAと日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ユーラトムの専門家会合LASCAR(LArge SCAle Reprocessing Plant Safeguards、1987年?92年)は「大型再処理工場に適用する保障措置技術はすでに利用可能状態となっており、これらの技術を個々の施設の特徴に基づいて選択し、適切に組み合わせることにより目標が達せられる」と結論づけているが、六ヶ所再処理工場で実際に目標が達せられるかどうかは、大いに疑問である。