六ヶ所再処理工場の保障措置について-核兵器への転用はチェックしきれない
六ヶ所再処理工場の保障措置について-核兵器への転用はチェックしきれない
原子力資料情報室 西尾漠
大型の再処理工場は、大量のプルトニウムを液体や粉体で、かつ連続運転で扱うため、保障措置は、困難をきわめる。そうした大型再処理工場に保障措置を適用する最初のケースが六ヶ所再処理工場である。即ちIAEAにも経験がない。そこでIAEAと英仏独日の専門家によるLASCAR(大型再処理工場の保障措置)と名付けられた会合が持たれ、検討した結果、1992年にまとめた報告書で「大型再処理工場に適用する保障措置技術は既に利用可能状態となっており、これらの技術を個々の施設の特徴に基づいて選択し、適切に組み合わせることにより目標が達せられる」と結論づけた。
これについて核物質管理学会日本支部の荻野谷徹前支部長は、同支部の第22回年次大会(2001年)の論文集において、次のように疑問を投げかけている。
「保障措置の最大の技術的目標は『有意量の転用の適時の探知』であるが、六ヶ所再処理工場でも『有意量の転用の適時の探知』が可能であるとの論文は残念ながら見たことがない。IAEAや日本の保障措置関係者に聞いてもはっきりした答えは返ってこない」
「六ヶ所再処理工場でプルトニウム年間1SQ(引用者註:プルトニウムの1SQ=有意量は8㎏)の転用があってもIAEAはそれを探知できないとのことになってもこの工場の運転は認められるのであろうか。日本では、米国原産の使用済み燃料が殆どで、日米原子力協力協定の枠の中で再処理するわけであるが、IAEAの保障措置では1SQの転用の探知は不可能であっても最終的に米国は六ヶ所再処理工場に包括的同意を与えるのであろうか」
結果から先に言えば、IAEA、米国ともに六ヶ所再処理工場の運転を認めることとなった。日本政府とIAEAは2004年1月19日付で、査察の内容等を具体的に記載したという文書(保障措置協定の施設附属書)に合意した。これを受けて日本政府は3月17日付で米国政府に、日米原子力協定実施取極の附属書で包括同意の対象とされている「運転中施設」に六ヶ所再処理工場を追加することを通告、同日付で米国政府から受領通知を得ている。
ただし、上述の施設附属書は非公開であり、ほんとうに探知できることとされているか否かは確認ができない。荻野谷徹前支部長は、年間に約8トンのプルトニウムを扱う六ヶ所再処理工場では、探知精度の格段の向上を見込んでも、探知できずに「行方不明となる量」が年間50㎏に達するとした。封じ込め/監視システムが適用され、また、実際には機器に付着したり放射性廃棄物に混入したりしているとしても、外部に持ち出されていないとの確認はできない量である。日本原燃再処理事業部核物質管理部の中村仁宣らは、第25回核物質管理学会日本支部年次大会(2004年)の論文集で「20~30㎏Pu程度の値が得られる」としている。いずれにせよ1SQ=8㎏を大きく超えることに違いはない。
このため、IAEAは、さまざまな追加的保障措置手段を適用することで運転を認めたと想像される。上述の論文集では、藤巻和範核物質管理部長らが「追加的保障手段として『新しい運転確認手段』を溶液工程と粉体工程に開発導入し、施設者側の申告どおりプラントが運転していることを査察側が確認できるシステムとした」としている。しかし、そうした追加的手段も、「行方不明となる量」を直接減らせるわけではなく、しかも同じく日本原燃再処理事業部の野口佳彦らによれば、複雑な計算に依拠することなどからさまざまな不確かさがあり、想定外の箇所にプルトニウムが飛散・蓄積するような場合の対策にも欠ける。「性能確認試験及び運転開始後初期において検討及び対策を行っていく必要がある」というように、未だ十分な対策は立っていないのが実情である。
そうした危うさを抱えながら六ヶ所再処理工場を強引に操業させようとすることに、世界の目は厳しくならざるをえないだろう。