原子力長計策定会議意見書(第25回)

原子力長計策定会議意見書(25)

2005年4月27日
原子力資料情報室 伴英幸

国際的核不拡散の観点から考えても、六ヶ所再処理工場を廃止するべき

2001年9月11日以降の流れの中で、世界が核拡散状況に進みつつあること、それゆえ、核不拡散への取り組みの重要性が多くの場で議論されています。その対応策の大きな柱の一つがウラン濃縮およびプルトニウム分離の制限を求める案です。NPTは原子力の平和利用をすべての締約国の奪い得ない権利として認めていますが(第4条)、しかし、その権利に制限を加えなければならないほどに核拡散状況が進んでいるという認識と危機感がエルバラダイ事務局長にあると受け止めています。MNAはその制限の一つのあり方として検討されていると認識しています。
同氏の説明(フィナンシャル・タイムス紙 2005年2月2日)によれば、核の闇市場が存在していること、ウラン濃縮や再処理の技術を入手しようとする国が増えていること、大量破壊兵器を手に入れようとする意図がいわゆるテロリストにあることなど、安全保障状況が大きく変化したとの認識を示しながら、核拡散状況を防止し、世界の安全保障を高めるために7つ提案を行なっています。その第1がウラン濃縮施設やプルトニウム抽出施設の建設の5年間の凍結案です。以下、第2;US global threat reduction initiative (研究施設などに供給した高濃縮ウランの回収および施設の低濃縮ウラン利用への改修)の実施を加速する、第3;核査察を強化した追加議定書をNPTの基準とする、第4;NPTから脱退しようとする国に対する国連安全保障理事会による迅速で確実な対応、第5;同理事会の決議1540の実施(核物質と核技術の違法な取引の停止のための法的措置)、第6;5つの核兵器国の核軍縮の誠実な実行、第7;非核地帯条約の締結など地域的な安全保障の確立、となっています。
また、アナン国連事務総長は05年3月21日付けの国連改革に関する勧告において「我々は、平和的用途を開発するのに必要な燃料の供給を保証しながら、ウラン濃縮およびプルトニウム分離の能力の自国における開発を各国が自発的に差し控えるようなインセンティブを創出することに焦点をあわせるべきである」(In larger freedom III. Freedom from fear , paragraph 99.)と述べています 。核拡散状況に対して、ここにも一定の制限の必要性といった同様の認識があると受け止めます。
さらに、核不拡散問題に取り組むアメリカのカーネギー平和財団は3月3日に発表した報告書 で六ヶ所再処理工場の運転停止を呼びかけています。
核燃料サイクル政策の総合評価では核拡散の観点からの議論はまったく不十分でした。改めて、核拡散の観点からの評価のしなおしが必要だと考えます。
六ヶ所再処理工場はいまだ建設途上にある施設といえます。従って、同施設はモラトリアムの対象となると考えます。このまま、同工場の稼動に進めば、非核兵器国に積極的にプルトニウム抽出へのインセンティブを与えることになりかねません。例えば、4月24日付朝日新聞のコラム『核を追う』には、ブラジルの軍関係者の発言が引用されています。「世界の色分けは3つになろうとしている。第1は核兵器国。第2は非核兵器国だが濃縮ウランやプルトニウムを入手できる国。第3はその他。ブラジルは何としても第2グループに入らなければ」 六ケ所再処理工場の稼動はこの第2グループの国々にプルトニウム抽出を誘引することになりかねません。それは核不拡散の強化とは逆の流れとなるでしょう。原子力の平和利用の権利のみを主張している状況ではなくなってきていると思います。日本が自発的に六ヶ所再処理工場の稼動を止めるなら、核不拡散の強化につながることはもちろん、よい意味での「日本モデル」になるでしょう。
日本はすでに40トンものプルトニウムを保有しています。六ヶ所再処理工場が総合機能試験に入ることになれば、さらにプルトニウムを増やす結果になります。再処理は高コストであることが策定会議のこれまでの検討で明らかになりました。六ヶ所再処理工場の稼動に対して、誰もが納得できる合理的な理由はないと考えます。「論点の整理」は、日本が「国際社会に対して非核兵器国が原子力平和利用を推進する模範を示してきている」と言いますが、現実には多くの国から余剰プルトニウムの保有に懸念を持たれています。それでもなお六ヶ所再処理工場の運転開始を急いだり(実質的な操業開始であるアクティブ試験に入れば、これまでと違って、国内に余剰プルトニウムを抱えることとなる)もんじゅの運転再開を画策したり(再開されれば、ブランケット部には超核兵器級のプルトニウムが生まれる)といった姿勢は、そうした懸念をいっそう強めることになります。
しかも、六ヶ所再処理工場の保障措置は、別掲の西尾メモにあるように、きわめて不十分なものです。

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六ヶ所再処理工場の保障措置について-核兵器への転用はチェックしきれない

原子力資料情報室 西尾漠

 大型の再処理工場は、大量のプルトニウムを液体や粉体で、かつ連続運転で扱うため、保障措置は、困難をきわめる。そうした大型再処理工場に保障措置を適用する最初のケースが六ヶ所再処理工場である。即ちIAEAにも経験がない。そこでIAEAと英仏独日の専門家によるLASCAR(大型再処理工場の保障措置)と名付けられた会合が持たれ、検討した結果、1992年にまとめた報告書で「大型再処理工場に適用する保障措置技術は既に利用可能状態となっており、これらの技術を個々の施設の特徴に基づいて選択し、適切に組み合わせることにより目標が達せられる」と結論づけた。
 これについて核物質管理学会日本支部の荻野谷徹前支部長は、同支部の第22回年次大会(2001年)の論文集において、次のように疑問を投げかけている。
「保障措置の最大の技術的目標は『有意量の転用の適時の探知』であるが、六ヶ所再処理工場でも『有意量の転用の適時の探知』が可能であるとの論文は残念ながら見たことがない。IAEAや日本の保障措置関係者に聞いてもはっきりした答えは返ってこない」
「六ヶ所再処理工場でプルトニウム年間1SQ(引用者註:プルトニウムの1SQ=有意量は8㎏)の転用があってもIAEAはそれを探知できないとのことになってもこの工場の運転は認められるのであろうか。日本では、米国原産の使用済み燃料が殆どで、日米原子力協力協定の枠の中で再処理するわけであるが、IAEAの保障措置では1SQの転用の探知は不可能であっても最終的に米国は六ヶ所再処理工場に包括的同意を与えるのであろうか」
 結果から先に言えば、IAEA、米国ともに六ヶ所再処理工場の運転を認めることとなった。日本政府とIAEAは2004年1月19日付で、査察の内容等を具体的に記載したという文書(保障措置協定の施設附属書)に合意した。これを受けて日本政府は3月17日付で米国政府に、日米原子力協定実施取極の附属書で包括同意の対象とされている「運転中施設」に六ヶ所再処理工場を追加することを通告、同日付で米国政府から受領通知を得ている。
 ただし、上述の施設附属書は非公開であり、ほんとうに探知できることとされているか否かは確認ができない。荻野谷徹前支部長は、年間に約8トンのプルトニウムを扱う六ヶ所再処理工場では、探知精度の格段の向上を見込んでも、探知できずに「行方不明となる量」が年間50㎏に達するとした。封じ込め/監視システムが適用され、また、実際には機器に付着したり放射性廃棄物に混入したりしているとしても、外部に持ち出されていないとの確認はできない量である。日本原燃再処理事業部核物質管理部の中村仁宣らは、第25回核物質管理学会日本支部年次大会(2004年)の論文集で「20~30㎏Pu程度の値が得られる」としている。いずれにせよ1SQ=8㎏を大きく超えることに違いはない。
 このため、IAEAは、さまざまな追加的保障措置手段を適用することで運転を認めたと想像される。上述の論文集では、藤巻和範核物質管理部長らが「追加的保障手段として『新しい運転確認手段』を溶液工程と粉体工程に開発導入し、施設者側の申告どおりプラントが運転していることを査察側が確認できるシステムとした」としている。しかし、そうした追加的手段も、「行方不明となる量」を直接減らせるわけではなく、しかも同じく日本原燃再処理事業部の野口佳彦らによれば、複雑な計算に依拠することなどからさまざまな不確かさがあり、想定外の箇所にプルトニウムが飛散・蓄積するような場合の対策にも欠ける。「性能確認試験及び運転開始後初期において検討及び対策を行っていく必要がある」というように、未だ十分な対策は立っていないのが実情である。
 そうした危うさを抱えながら六ヶ所再処理工場を強引に操業させようとすることに、世界の目は厳しくならざるをえないだろう。